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ネームド以外のキャラの戦闘なんて巻きでいけ巻きで

 それから数時間後、気が付けば村の戦士達は次々と英霊達の前に敗れ去っていた。

「いや、景気よくぽんぽん負けていくなあ」

 客席で腕を組みながらユウは感心する。

「そりゃまあ、この国の歴史に名を残している英雄達が相手だからなあ。強さなんてそれこそ文字通り桁違いって奴なわけで」

「なるほど」

 ユウは頷きながら競技場の試合を見る。新たに挑戦した戦士がまたもや景気よく吹き飛ばされて客席に叩きつけられている。

「ルークさんもああいう感じで吹っ飛ばされたんですね、俺らが見てない間に」

 ユウの質問に笑顔でルークは頷く。

「まったく歯が立たなかったな!」

(いいのか、その反応で)

 ユウは内心で疑問を浮かべるが、それをあえて言葉にすることはしなかった。しかし、そんなユウの内心の疑問を察したのかアネッサが補足する。

「実際、ルークは現世の戦士の中では上澄みの実力だ。だが、それでもなすすべもなく倒されるほど、英霊達が強いというだけだ」

「それはまあそうなんでしょうけど」

 ユウもアネッサに同意する。実際、戦いの様子を眺める限り現世の戦士達とて決して実力が低いわけではないことはユウも認識している。その証拠に何人かの戦士達は実際、幾人もの英雄たちを打ち破っている。

(ただまあ、最後の壁を超えるのは無理そうだなあ)

 ユウは出番があるまで待機しているバルトーへ目線を向ける。これまで、ごく一部の戦士達がバルトーの元まで勝ち抜いてきたが、彼らはみな彼に一刀で吹き飛ばされ、観客席に叩きつけられていた。

(流石魔王軍と戦う激動の時代にあって英雄と呼ばれた男だわ……)

 ユウはバルト―の圧倒的な強さに感心する。そして、ユウの横では父の活躍をティキが目を輝かせて一心に見守っていた。もっとも、その父の活躍は他の戦士達が強すぎるせいで滅多に来ないという悩みはあるのだが。

「お父さん……また出番だ!」

 どうやら、また一人の戦士が挑戦者としてバルト―の元まで勝ち抜いてきたらしい。しかし、その相手も試合が開始すると、瞬く間に会場の客席に叩きつけられていた。

「終わったな」

 アネッサがそう言うとルークも頷く。どうやら、村が集めた16人の戦士達は皆、悉く英霊達の前に敗れ去ったらしい。

「あちゃー、みんな負けちゃったかあ」

 ルークはそう言って後頭部をポリポリと掻く。

「まあ仕方ない。神の戦車なんて魔王軍と交戦していた時ですらお目にかかることは無かった代物だ。それだけみな、あの英霊達に勝ててはいなかったということだろう」

「そういうこと」

 アネッサの推論にルークはうんうんと何度も頷いた。そんなやり取りをしていると、村長が競技場の中心に向かって歩いてきた。そして、勝ち抜き戦の終わりを村長が告げようとしたその時、バルト―がそれを制した。その後、バルトーは神殿内全体に響かせるように声を上げる。

「この村の戦士達は皆我らの前に敗れ去った!だが、今この場には当代最強の戦士と呼べる人物がこの場に残っている!!」

 バルトーはそう言うと目線を一度息子に、そしてそこから横にいるアネッサへと移す。さらに、手にした剣をアネッサへと向ける。

(……!)

 バルト―の意図を察したアネッサは、思わず目を見開く。そんなアネッサに会場中の視線が集まる。さらにバルトーは煽るように言葉を続ける。

「この場にいる者達よ!みな見たいはずだ!勇者と共に平和を勝ち取った戦士がどれほどの実力か?知りたいはずだ!現代を生きる英雄とかつての英雄達との実力の差はどれほどなのか!」

 バルト―の言葉に神殿中で歓声が上がる。それを受けてアネッサはため息を漏らす。そして、そんなアネッサの様子を見てバルト―はにやりと笑う。

「どうやら……ご指名のようだな……。やれやれ、こっちは心の整理も満足できていないというのに」

 アネッサは苦笑しながらも立ち上がる。

「これは断れないな……」

 そして、彼女はバルト―の下へと向かうべく歩き出す。神殿内の人々はそれを見て声を上げる。黙ってそんなアネッサを見送るユウとティキの肩をルークが叩く。

「折角だからさ、身内として特等席で拝みに行こうぜ」

 そう言うとルークは二人の背中を押して、アネッサの後ろについていかせようとする。

「わわっ!ちょっと押さないでくださいよ!」

 ユウは抗議の声を上げながらもアネッサに続く。


「……来たか……」

 再び競技場に降り立ったアネッサを見て、バルトーは不敵に笑う。そんなバルト―にアネッサは肩をすくめる。

「将軍もお人が悪い。わざわざあんなパフォーマンスをして私を呼び寄せるなんて」

 だが、バルト―はそんなアネッサの反応も気に留めない。

「なあに、今のお前にはこれが必要だと思ったまでだ」

 バルト―の言葉にアネッサは首を傾げる。

「と、言いますと?」

「勇者サクラのことで、お前は理屈の上では分かっているが、どうにも割り切れない……そんな状態になっているのだろう?」

 バルト―に図星を刺され、アネッサはため息を漏らしながら後頭部を掻く。

「まったく……敵いませんね。それで?」

「そういう時には思いっきり身体を動かしてみるのも、まあ悪くないだろうと思ってな」

 バルト―はそう言って腕を組む。そして、アネッサの背後に目線を向ける。そこにはティキを肩車しながら近づいてくるユウ、そしてその横に並んで歩くルークの姿があった。

「それに……もう少し息子にもいいところを見せておきたいのでな」

「なるほど」

 アネッサはバルト―の意図を理解し、頷く。そんなアネッサに近づいてきたルークは声をかける。

「アネッサ。こいつを使え」

 ルークはそう言いながら、自身の剣をアネッサに手渡す。

「助かる」

 アネッサは礼を言うとルークから受け取った剣を鞘から引き抜く。そしてバルトーに対峙しようとしたその時……

「待たれい」

 バルト―の周囲に控えていた英霊達がアネッサに声をかける。

「順番は守ってもらわないと困るな」

「バルト―殿と戦いたくば我々を倒してからにしてもらおう」

 そんな英霊達を一瞥し、アネッサは頭を下げる。

「分かりました」

 その様子を確認したルークは、アネッサから無言で距離を取る。一方で、バルト―はユウとティキの方へと歩み寄り……そしてティキへ声をかける。

「良く見ておけ、ティキ。既に現世に私がいない。だが、私からも技を学び受け継いだ者がいる。強くなりたくば、その者から学べ。そしてお前もいつか伝えろ。お前自身の血肉となった技を」

「……うん」

 ティキは頷き、真剣にアネッサを見る。

(……師弟関係だったのか、この二人)

 ティキとバルト―のやりとりを横で聞いたユウは、まじまじとバルト―を見つめる。そんなユウの視線に気が付いたバルト―も、ユウをまじまじと見る。だが、バルト―がどのような思いで自身を見ているのか、ユウにはその心境を測りきることは出来なかった。


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