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名探偵に推理とか絶対されたくない

 一しきり笑った後、アネッサはこぼれた涙を指で拭う。

「いや、済まない。ただ、君があまりにも何かをごまかしたり嘘をついたりするのが下手なようなのでな……その様子が可笑しくて……」

(やっぱ何か隠してるのはばれてるー!)

(いやまあ、そりゃあんなへたくそなごまかし方じゃ……)

 ユウはアネッサの言葉にショックを受けるが、ルティシアはそのことにツッコミを入れる。

(ぐぬぬ……)

 しかし、そんなユウとルティシアのやり取りを他所にアネッサは呼吸を整えながら言葉を続ける。

「ここ数日の付き合いでしかないが、君の人となりは何となく理解できたよ。君は良い奴なんだな」

「!?」

 前世から人に褒められることに慣れていなかったユウは、アネッサの笑顔と共にストレートに届けられた褒め言葉に思わず赤面する。そんなユウに構わず、アネッサは続ける。

「正直に言おう。私は、最近世界を騒がせている変異したモンスターと君には何らかの関係があると疑っていた」

「……どうしてです?」

 承知はしていたが、改めてアネッサに言葉にされたことでユウの内心にどこか後ろめたさが生まれる。それを隠すかのようにアネッサに疑問を返す。

「あの時……アルグラントの戦いの決着がつく少し前、私は仲間と共に転移魔法でアルグラント付近に到着した。その時目にしたのは、巨大化したドラゴンを倒す巨人、そしてその巨人が変形したと思しき乗り物から降りる君の姿だった」

(!?思いっきり見られてたー!)

(あちゃー……見られちゃってたんですね)

 しかし、アネッサの想定外の内容の告白にユウは衝撃を受けてそれまでの全部の感情が吹き飛び、内心で叫び声をあげる。その一方で、ルティシアはため息を漏らす。

(ふむ……うかつだったな。すまない)

 そんな二人にエクスは呑気に謝罪をする。

(まぁまぁ、初戦で疲弊をしていたし、こういったケアレスミスがあることは仕方ないですよ)

 ルティシアはのんきに宥めるが、ユウは内心で頭を抱える。

(あああああああ……どうすんですか、どうすんですかコレ!なんとかうまくごまかさないと……)

(まあ落ち着け、ユウ。彼女の話の続きを聞こう)

(……はい)

 エクスに宥められてユウは一旦落ち着きを取り戻す。我ながら単純だとユウは思うが、テンパり続けたままボロを出すよりはマシであろうと考えることにした。そんなユウの精神世界で行われているやり取りをしらないアネッサは引き続き、自身の経緯を語る。

「さらに君は巨人がダメージを受けていたと思しき場所と同様の部分にケガをしていた。だから私は思ったんだ。君はあの巨人、そして化け物に何かしらの関係があると」

「なるほど……」

「だから私は今回、この地を訪れるにあたり君を同行させて様子を観察することにしたのだ」

「そういう意味では、自分が荷物運びとして評判を得ていたのは理由付けとしては丁度良かったわけですね」

 アネッサは頷く。

「まあ、もっとも一人であれだけの量の荷物を運べる人物がいたことは実際経費節約になって大いに助かったのだが……」

「はあ……」

 アネッサのぶっちゃけた話にユウは思わず気の抜けた返事をする。

「さておき、ここ数日の君の人となりをよく観察していて分かった。少なくとも、君は悪意をもってモンスターを異常化させているわけではなさそうだと」

 アネッサの確信めいた物言いにユウは首を傾げる。

「なんでそう思うんです?」

 ユウの反応にアネッサは苦笑する。

「どうにも君が人が好過ぎるからさ。ティキのことだってあれだけ気にかけてるし、私だって戦闘不能になっているところを見捨てることはいくらでもできたのに、君はそうはしなかった。あの理性の欠片もなくなり、本能さえも歪められたモンスターと関係があるようには私には到底見えなかったよ」

 それを聞いてユウは再び首を傾げる。

「そうは言うけど、自分が人を騙すめちゃめちゃ演技派な可能性だってありますよね?」

 そんなユウにアネッサは思わずあきれ顔になる。

「いや、ないだろう……君、どう見ても隠し事とか嘘の類が下手だし……」

(……そうなんですよねえ)

 アネッサの言葉にルティシアまで同意する。

「……」

 悔しいので何かを言い返したいのだが、それに足る根拠がないことを自覚しているユウは思わず押し黙る。そんなユウをエクスが慰める。

(ユウ……元気を出すんだ。それが君の美徳でもある)

(……うう……エクスさん優しい……)

「だが、あの乗り物から降りていた件を見るに、君を全くの無関係と見ることもできない。おそらく、君はあの異常化したモンスターや、そのモンスターと戦っていた巨人と何らかの関係があるのだろう。そして、君は自身の素性を何か隠したい理由がある。わざわざ”記憶喪失”なんていうくらいだからな」

「……」

 アネッサの的確な推理に、これ以上言うとさらにボロが出そうだと感じたユウは思わず押し黙る。

「これらの要素を鑑みるに、君は何らかの理由で直近の世界に起きている以上に何かしらの関連があるが、そのことについて人に公言をすることが出来ない事情がある……といったところなのだろう。だから……」

 そう言ってアネッサは髪を軽く掻きあげる。『だから』の後に一体どのような言葉が続くのか、想像が全くつかないユウはつばを飲み込む。


「これ以上はなにも詮索しないことにする」


「……へ?」

 アネッサの予想外の言葉に、ユウは思わず間の抜けた声を上げ、首を傾げる。それから狐につままれた顔をしながら恐る恐るアネッサに問う。

「……良いんですか?」

 若干挙動不審気味なユウとは対照的に、アネッサは落ち着いた様子で頷く。

「なんでまた……」

 ユウに聞かれてアネッサは軽く笑う。

「そうだな……君という人間を信じてみても良いんじゃないか……何となくそう思えたんだ」

 ストレートに自身を肯定する言葉をぶつけられた困惑と気恥ずかしさからユウは赤面する。

 

 ――直後、どこからか鐘の音が高らかに鳴り響いた。

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