嘘つけない人っているよね
(……しかし……)
取り繕った後にユウは考える。この世界、引いてはルティシアの管理する世界に魂が存在していないとなると、慰霊の祭りの場においても勇者サクラの魂が現れることは無いといえる。このままではアネッサは、サクラの魂が現れなかったことを理由に彼女が生存していると考え、誤った期待を持つという残酷な事態にもなりかねない。
(それもあんま健全なことじゃないよなあ……)
そんなことを考えたユウはアネッサに一つ質問を投げかける。
「アネッサさん……もしも、勇者サクラが生きていなかったことがはっきりと判明したら、貴女はどうするんですか?」
「……」
ユウの質問にアネッサは無言で俯く。先ほどより風の勢いは弱まったが、吹きすさぶ音が先ほどより高く、いやに耳に残る。そんな中でもはっきりと聞こえるように、そして絞り出すようにアネッサは答えた。
「正直、わからない」
「……」
アネッサの真摯な回答に、今度はユウが押し黙る。
「ただ、もし仮にサクラが生きていなかったとしても、私の中で一つの答が出る……そんな気がするんだ」
「答?」
アネッサが何を言わんとしているのかわからず、ユウは聞き返す。そんなユウにアネッサは無言で頷く。
「最後の戦いのとき、サクラを除いて我々は力を使い果たしてしまい、戦うこともままならなかった。そんな私達を庇って、サクラは魔王の最後の一手から私達を庇うべく、一人で死力を尽くした。私は……それが情けなくて悔しかった。同じパーティだと言っておきながら、肝心な時に彼女の力になってやれなかった」
「……」
その時のアネッサの気持ちがどのようなものであった、到底想像の及ぶものではないだろうと思ったユウは、無言でアネッサを見つめる。
「彼女は……自分が死ぬかもしれないと思ったんだろうな。だから最後の一撃を放つ前に私達に遺言を残した。『この世界を頼む』と」
アネッサはそう言うと両手の掌で自身の目を覆う。そして、言葉を吐き出す。
「……最後の最後に何もできなかった自分の不甲斐なさ、悔しさ……そういったものに私は今も捕らわれている」
「……」
それからアネッサは深く息を吐き出す。
「だから……自分の中で区切りをつけたいんだ。彼女が生きているにせよ、死んでいるにせよ……いや、それすらはっきりしなかったとしても……その結果を受け入れて、前に進みたい」
どういう結果であれ、彼女なら問題なく生きていくのだろうと思えたユウは安どのため息を漏らす。
「どうした?」
ユウの様子を訝しんだアネッサは疑問を投げかける。そんな彼女に困ったような顔をしながら笑いかける。
「……いや、強いんだなって思いまして」
ユウの回答にアネッサは首を傾げる。
「強い?私が?」
意外そうな顔をするアネッサの顔を見て、ユウは笑いながら頷く。
「そりゃもう。だって、そうやって迷っても自分で答え出せてるじゃないですか」
アネッサは苦笑いをしながら首を振る。
「そんなことはないさ。後悔して、迷って、そして大切な人の最後に遺した言葉からすら目を背けている」
「いいんじゃないですかね。迷っても、後悔しても。それでも自分なりに前を向いて生きれるなら」
そう言いながらユウは前世の自分を思い返す。自分の置かれている現状を嘆き、停滞し、前に無ことが無かったあの頃を。
「それに……」
「それに?」
ユウの続きの言葉を聞こうと、アネッサが相槌を打つ。
「生きるか死ぬかの瀬戸際に言ったことなんて、案外どう扱われようと気にならないもんかもしれませんよ。だって、必死になっているときだったら考えなんてまとまらないですもん」
「なるほど……それは確かにあるかもしれないな」
右手の親指を顎に当てつつ、アネッサはユウの言葉に一定の理解を示す。
「しかし……君はまるで決死の思いで何かをした、下手すればそれで死んだ経験があるかのような物言いだな」
そして、アネッサは彼女なりのユウの言葉への感想を口にする。しかし、予期せぬ核心を突いた言葉を受けてユウの前身から一気に冷や汗が噴き出る。
(今のは自分で墓穴掘りましたねぇ、ユウさん。もう死んだ後ですけど)
(だー、ちくしょー!うまいこと言ったつもりですか!?)
ユウはルティシアに噛みつくものそこそこに、とりあえずこの場を取り繕うとアネッサに何か言い訳をしようとする。
「ハハハハハ!やだなあ、アネッサさん!そんな死んだことがあるなんてそんなことあるわけないじゃないですか!アハハ!」
(……相変わらず焦ると言い訳がグダグダになってへたくそになりますねぇ)
(ユウは根が真面目だからな。それが彼の良いところだ。だが、なんとか頑張って正体は隠し通してもらいたいところだ)
早口でまくし立てるユウとは対照的に、ルティシアとエクスがほのぼのと会話する。
(あーもう、人の気もしらんと呑気な!)
ユウは二人には聞こえない様に内心に思いを吐露する。
「そ、そうか……」
アネッサはそんなユウの言葉の勢いに押されたのか、それ以上は何も問うことはしなかった。
「ふ……ふふ……ふふふ……」
代わりにアネッサは、突如として押し殺したような笑い声を漏らしながら肩を震わせる。
「あははははははっ!もう駄目だっ!」
しかし、堪えきれなかったのか、さらに大きな声で笑いだす。
「ア、アネッサさん……?」
突如として態度を豹変させたアネッサに驚いてユウは恐る恐るアネッサに声をかけた。




