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転生者は一人見たら十人いる

 ――翌日の朝、早めに目が覚めたユウは集落の中を散策していた。周囲を見回すと、村の男達が木箱やら何やらを運んでいる。女達も鍋やらなにやらを運んでいる。どちらも祭りに必要なものなのだろう。彼らはせわしなさそうに動き回っているが、どこか楽しそうである。

「……なんか、こういうのいいなあ」

 自身の口からふと漏れた言葉にユウは驚く。こういったものを良いと思える感性が自身の中にあったことに、どこかほっとしていた。

(……そういや、前世で祭なんて参加したのいつ以来だろう)

 かつては休みもろくになく、祭なんてものが周辺で起こっていることもろくに知らなかった。休みの日にも、祭りなどあったところで疲れ果てて一日中眠ってばかりいた。結局、純粋に楽しんで祭に参加できたのは子供の頃くらいではないだろうか。

「そうだな」

 そんなことを考えていると、ユウの独り言に返事をする者がいた。

(……!?)

 独り言を聞かれていたことを恥ずかしく思い、ユウは思わず声の方へと振り返る。すると、そこにはアネッサが立っていた。

(……私の力で強化された超感覚を以てして、ユウがここまで接近に気づかないとは……)

 エクスの感心にユウは一瞬ずっこけそうになる。しかし、冷静に考えると彼女が気配を殺して自分に近づこうとしていたことに思い至り、内心でため息を漏らす。

(疑惑の俺の行動を監視中……ってことですかね?)

(おそらくは……)

(やれやれ)

 そんな諸々の考えを気づかれない様にしつつ、ユウはアネッサに問う。

「やだなあ、驚かさないでくださいよ。しかし、こんな朝からどうしたんです?」

 ユウは表面を取り繕いつつ、おどけながらでアネッサに問う。

「すまない。ただ……目が覚めたら君が宿から出ていくのが見えたのでな。どこへ行くのか気になったので後から追いかけさせてもらった」

「なるほど……」

 アネッサの回答にユウは納得する。アネッサはそれ以上は特に何も説明する気も無いようで、何も言わずユウの横に立っている。

(……き、気まずい……)

 無言に耐え切れずユウは思わずアネッサの方を見る。彼女は先ほどの自身と同様に祭の準備をする見つめている。しかし、彼女の目線はどことなく、村人達ではなく、どこか遠くを見ているように感じられる。

(……そういえば……)

 ユウはこれまでの道中でアネッサと交わした会話や彼女の様子を思い返す。死者が帰ってくるという祭りに来ようとしたこと。しかし、その帰ってくる誰かには会いたくないと言っていたこと。そして、寝起きに誰かの名前を叫んでいたこと。そういった思考の断片が脳内でぐるぐると回り、一つの疑問を形作る。そして、ユウはそれを無意識に口から吐き出しアネッサにぶつける。


「サクラって誰なんです?」


 その言葉にアネッサは目を大きく見開き、ユウを見る。

「……聞いていたのか?」

 それから、彼女はため息を漏らしながら問いかける。

(……しまった……)

 そんなアネッサのリアクションを見て、ユウは思わず自身の失言を自覚する。

(あーあ、そんな女性の寝言聞いてたのがバレるような質問しちゃうの、どうかと思いますよ)

(んが……)

 珍しく真っ当なルティシアの発言にユウも流石に奇声を発しながらも反論を呑み込む。

「……すみません」

 ルティシアと言い争っても仕方なく、自身に非があると認めたユウは素直に謝罪する。

「ごめんなさい」

 アネッサはユウのそんな反応に苦笑する。

「いや、構わない。あんな大きな声を上げた私が悪いんだ。聞かれてしまったのは少々恥ずかしかったがな」

 そう言ってアネッサは道端に座る。そんな彼女の動作につられ、ユウもその場に座る。そんな二人を早朝のさわやかな風が撫でる。吹き抜ける風に髪をたなびかせながら、アネッサは語り始める。

「サクラは……勇者だったんだ」

(……なるほど)

 アネッサの言葉にユウは納得する。アネッサは確かに元勇者パーティの一員だったと聞いている。彼女にとっては夢に見るほど大切な人物だったのだろう。

(でも、なんで今アネッサさんは、そのサクラ……って人と旅をしていないんだろう)

 ユウの脳内に疑問が浮かぶ。

(……)

 何かしらの事情を把握し、話の流れを予測しているのかルティシアは無言のままだ。そして、ユウの脳内の疑問を知ってか知らずか、アネッサは続きを語る。

「そして、最後の魔王との最終決戦にて行方不明になった」

(!!)

 ユウはその言葉に衝撃を受ける。そして、再び脳内に浮かんだ疑問を口にする。

「それじゃあ、そのサクラさんは……」

 アネッサはユウの言葉に首を振る。

「分からない。死んだという確証がないんだ」

「分からない?」

 アネッサの要領を得ない回答にユウは首を傾げる。アネッサはそんな彼に無言でうなずく。

「ああ。最終決戦の最中、魔王の死力を尽くしてはなった最後の極大魔法にサクラは自身の最終奥義をぶつけたんだ。その時にすさまじい衝撃が発生し、我々は吹き飛ばされた。そして、気が付いたら二人の姿は消えていたんだ」

「……」

 その話を聞き、ユウはこれまでのアネッサの行動に納得すると同時、彼女がこの祭りに来た目的についてある仮説が浮かび上がる。

「じゃあ、死者の魂が帰ってくるという、この祭りに来たのは……」

 ユウの質問にアネッサは頷く。直後、風が少し強くなる。風の音が大きく聞こえる。

「ああ。あの子の生死を確かめるためだ。そして、この祭りに彼女の魂が現れなければ……きっと……」

 アネッサは自身に過度な期待をするなと言い聞かせるかのように、それ以上の言葉を飲み込んだ。静寂を埋めるように風が吼える。

(……この世界では勇者は行方不明になっていたのか。……ちなみに女神様は勇者の生死を知っていたりするんですか?)

 ユウはアネッサのどこか遠くを見るような横顔を眺めながらルティシアに問う。

(……それが、なんというか……分からないんですよ……)

 ルティシアからの思いのほか歯切れの悪い回答にユウは戸惑う。

(自身の管理する世界のことについて分からないなんてこと……あるんですか?)

(う~!!)

 ユウの素直な疑問に自尊心が傷つけられたのか、ルティシアは唸る。

(だっておかしいんですよ!この世界では存在する全ての魂の行動は記録がとられているんですけど、サクラさんのものは魔王との決戦を境にバッサリ消えているんです!)

(消えてる……?)

 ユウの鸚鵡返しにルティシアは語気を強める。

(はい!)

(なんかの拍子に記録を紛失したとか……)

(そんなことはありえません!異世界から転移してきた人間だって、どこの世界から転生して、どこにその魂が言ったのかをすべて記録しているんです!トレーサビリティばっちりなんですよ!?)

(トレーサビリティって……)

 そんな人の魂は生鮮食品か何かじゃないんだから……と言おうかと思ったが、面倒くさそうなのでユウはツッコまないことにした。そのせいか、ルティシアはさらにまくしたてる。

(サクラさんだって、元居た世界での魂の来歴だってバッチリ記録が残ってるんです!なのに急に消えるだなんてそんな……)

(……え!?)

 ルティシアのまくしたてた内容に引っかかり、思わずユウは声を上げる。そして、ルティシアに問いかける。

(ちょちょちょ!女神様)

(な、なんです?)

 急にユウに問いかけられたルティシアは戸惑う。

(……あの、先代の勇者が元居た世界云々って……先代の勇者ってもしかして……転生者?)

(ええ?ああ、はいそうですけど。この世界に限らずですが、私の管理している世界には結構転生者は居ますよ。しかもチート付与された人もそれなりに)

 こともなげに言われてユウはがっくりと項垂れる。

(……どうしたんです?)

(ええ……いや、なんか自分の特別感とか優越感とか?そういうの無くなる感じがちょっと力抜けるというかなんというか……)

(……いや、そんな……)

 ユウの発言にルティシアは困惑する。そんなチートな転生者がそこそこいる世界においても、頭一つ以上大幅に抜けておかしい存在と融合しているということを自覚していないのだろうかと言いたくなる。


「……どうかしたか?」

 脳内でルティシアとやり取りをしていたため、挙動不審になっていたユウを訝しげに眺めながらアネッサは声をかけてくる。

「いやいやいや!何でもないです!」

 ユウはこれ以上不審に思われない様にと、取り繕いながら慌てて返事をした。

 

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