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人生は荷物の背負い過ぎも良くない

 三人はしばらく洞窟の中を歩くと、出口にたどり着いた。

「うーん、結構歩いたんだなあ」

 ユウはそうぼやきながら周囲の光景を見渡す。西の方の空を見ると既に太陽は沈みかかっており、明るさを失いつつある。そして、東の方へと目線を向けると、平野の中に帝都アルグランドが小さく見えていた。

「そうだな。まあ目的地ももうすぐだ。一息ついて早々に悪いが、もうしばらく歩くぞ」

「了解です」

 ユウは同意すると、歩き出したアネッサに続く。

「しかし……こんな山の中なのに、思ったより道が整備されてますね」

 周辺を見回しつつ歩きながら、ユウは正直な感想を口にする。実際、山には人が歩く用の山道が整備されている。周りは鬱蒼とした木々が生い茂っているため、明らかに人が山の中の木々を伐採して道を整備したことが分かる。

「それはまあ、無いと困る人達がいるからな」

 アネッサの言葉にユウは思わず首を傾げる。こんなダンジョンの中で歩道を整備しておかないと困る人がいるとはいったいどういうことであろうか。そのことを訪ねようとしたその瞬間にティキが声を上げて、指をさす。

「見てっ、ユウ兄ちゃん!あっちに灯が!」

「こんなダンジョンの中に?って本当だ!」

 ティキに促されるがままに目線を向けると、確かに人里らしき灯が見えてユウは思わず驚く。

「アネッサさん、あれって……」

「あれは墓守達の集落だ」

 アネッサの説明にティキが首を傾げる。

「はかもり?」

「お墓ってのは手入れが必要だからなあ。そういうことをする人達のことじゃないか?」

 ユウの予想にアネッサは頷く。

「その通りだ。この地は特に霊的な力が強くてな……。なので墓地として使うのならば埋葬した死体からアンデットが発生しない様に神聖魔法による浄化などのメンテナンスを定期的に行う必要があるんだ」

「なるほど」

 頷きつつ、ユウは説明を聞いている内に浮かんだ次の質問をアネッサへと投げかける。

「しかし、ここだけ霊的な力強いっていうのはなんでまた?」

「正確なところはわからない」

 そんなユウからの質問に、アネッサは正直に、かつバッサリと答えたうえで続ける。

「だが、伝承によるとこの山の地下には神が作ったといわれる戦車が眠っているという」

「戦車?」

「ああ。かつて、この世界で神と魔族が戦った時に活躍した天馬が引く馬車があったそうだ。神は人間にこの地を託したが、その際に戦車をこの山に埋めたのだとか。一説によると、この地に起きる霊的な事象は、その神の戦車の持つ霊力によるものではないかと言われている」

「なるほど」

 アネッサの話を聞きながら、ユウはルティシアに問いかける。

(神様ってそんなことするんですか?)

(少なくとも我々ではありませんね。以前お話しした通り世界を管理する人間は各世界に存在する知的生命体などに干渉ることは原則禁じられています)

(じゃあ、彼らが言う神というのはやっぱり依然話していた想像の産物ってことですか?)

 ユウはこちらの世界に来た初日、ルティシアと交わした会話を思い出しながら問う。

(いや、それも違うんですよね。この世界、記録によりますと現生人類以前に高度な文明を築いた先住民族がいるんですよ。どうやらこの地は彼らのことを神としてあがめる宗教が広まっているようです)

(なるほど……まあファンタジーだとよくある設定か)

 ルティシアの説明にユウは納得する。

「そして、この国のために戦った勇敢な戦士達の魂は神の戦車に乗って天国へ行き、そして年に一度はその戦車に乗って帰ってくると伝えられている」

「それがこの時期だと」

「ああ」

 ユウに聞かれたアネッサは、一度ユウの方へと振り向き、軽く頷く。

「着いたぞ」

 そうこうしている内に三人は木製の柵で囲まれた山中の集落にたどり着く。ユウは入り口から集落の中を見渡す。夕方になり日が沈みかけているからなのか、元々人口が少ないからなのか、村の中の人通りはそんなに多くない。実際、集落の建物の数もそれほど多くなく、のどかな田舎といった風情である。

「うわぁー!ダンジョンの中にこんな集落があるなんて!」

 ティキは目を輝かせながら、ユウが背負った多量の荷物から飛び降りる。

「そういえばティキは帝都の外に出たのは初めてだったな」

「うん!」

 アネッサに聞かれてティキは無邪気に頷く。そんなやりとりをしている三人に声をかけてくる人物がいた。

「よう!こんな村になんの用だい……ってアネッサか」

「ああ、ルーク。しばらくぶりだな」

 アネッサに名前を呼ばれた人物は、腰に剣を携えた黒い短髪の青年だった。ルークは人のよさそうな顔立ちをしており、それに違わない気さくな声のかけ方だった。

「そうはいってもお前、定期的にここには顔を出してくれるだろう。あんまり間が開いた感じがしないな」

 ルークはそう言って笑うと、ユウとティキに目線を向ける。

「ところでアネッサ、こっちの人達は?片方はありえない量の荷物背負ってるけど……」

 ルークは若干、ユウが背負った山のような荷物の量に引いている。

「ああ、彼らはユウとティキだ。ユウはアルグラントで私が雇った荷物運びの人足だ」

「よろしくお願いします」

「よろしくお願いしまーす!」

 紹介された二人はそれぞれ頭を下げる。

「はぁ……人足……。いや、それにしてもすごい量だ。あんたすごいな」

「はあ、どうも」

 ルークの言葉にユウは気の抜けた返事をする。

「しかしアネッサ、これだけの荷物を一人に持たせて山上ってくるなんて何かあったのか?リーシェルトも一緒にいないし」

 ルークの言葉にアネッサは頷く。

「先日、帝都の方で一騒動あってな。現在、人の移動に制限がかかっている。そのため隊商がこちらにくるのも難しい状況になっていてな。そこで私が彼を雇って当面の必要そうな物資をまとめて持ち込むことにした」

「帝都で騒ぎが?そういえばこの間帝都に火の手が上がってるんじゃないかみたいな話を村の奴らも話していたが……」

 ルークは顎に親指を上げて考え込む。

「事情については村長達にも話しておきたい……が、とりあえず今は運んできたものを一旦降ろさせてやりたい」

「分かった。村長には俺の方から伝えておく。お前たちは村の宿屋で待っててくれ」

 ルークはそう言うと、軽く片手をあげて歩く出す。

「ああ、頼む」

 アネッサはルークの背中に声をかけた。

「よし、では我々は宿屋へ向かおう」

 アネッサは自身の言葉にユウとティキは頷いたことを確認すると、歩き出す。そして、ユウとティキは彼女のに続く。

「さっきの人は顔なじみみたいだし、ここの地理も把握してらっしゃるみたいですけど、この村には結構来るんですか?」

 歩きながらユウはアネッサに尋ねる。

「そうだな。ここはダンジョンであると同時に戦士達の修行の場でもあるんだ。ヅォーイの戦士達の中にはここで修行をし、その後に騎士団へ入団するものも多い。私はこの国の出身ではないが、その評判を聞いて修行に訪れたことがある」

「なるほど」

 ユウは納得しつつ、周囲を見回す。ただの田舎の集落のように見えるが、この地が勇者パーティの一角を担う戦士を育て上げたのかと思うと、この田舎ののどかさがどこか荘厳なものに見えてくる。ユウがそんなことを考えつつ歩いているとアネッサ集落の一角にある建物の前でふと足を止め、ユウ達もそれにつられて足を止める。

「ここだ」

 アネッサは集落の中では比較的大きく、酒の入ったグラスとベッドが描かれた看板が軒先にぶら下げられた建物を指さす。どうやらここが集落の宿屋兼酒場らしい。

(うーん、この看板……!いかにもファンタジー世界の宿屋って感じがしていいですねぇ、ユウさん!テンション上がりませんか?)

 ルティシアの問いかけにユウは一瞬緊張する。これまで、そういった前振りがくると大体ろくでもない事態が起きて、異世界転生感が台無しになる事案がそこそこあったからである。

「とりあえずユウの荷物を引き取ってもらおう。後のことは私の方で手配するから、君は荷物をここに降ろしてティキとともに酒場で待っていてくれ」

「分かりました」

 ユウはアネッサに言われるがまま、荷物をその場にそっと降ろす。そして、ティキと目線を合わせてお互いに頷くと、アネッサが開けてくれた扉を通って宿屋の中へと足を踏み入れた。

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