RTAを無暗に人に勧めるな
――その後、早朝から目覚めて準備を整えたユウ達は英雄の頂を登り始めていた。
「ここからはモンスターが出ることもある。一応、敵は私の方で対処するが警戒は怠らないようにしてくれ」
アネッサに言われて、ユウと彼が背負っている荷物の上に乗っかっているティキが頷く。
「ちなみに、ここにはどんなモンスターが出るんです?」
ユウが問うと同時、上空から咆哮を上げながら象くらいの大きさの飛竜がアネッサへととびかかる。彼女は目線を向けることもなく、最小限の動きで飛竜の噛みつきを回避する。直後、飛竜の頭が首から離れる。
(……おおう……すげぇ速さの一撃……。俺じゃなきゃ見逃しちゃうね……)
ユウは内心でどこぞのハンター漫画のような感想を述べる。実際、アネッサは回避すると同時に目にもとまらぬ速さの斬撃で龍の頭を斬り飛ばしていた。
(何エクスさんのおかげで得た超感覚で強者面してるんですか)
珍しく、ユウがボケてルティシアが突っ込むという構図が発生する。
(珍しいな)
それに対して思わずエクスが正直な感想を漏らしてしまう。
(たまにはこういうのもいいかと思いまして)
そんなやり取りをしている傍で、ティキはアネッサの高い技量から繰り出される技に感激をしていた。
「す……すごいや、アネッサさん!」
そんなティキにアネッサは優しく笑いかける。
「まあこれくらいはやって見せなければな」
それからアネッサはユウの方へと目線を向ける。
「このようにこの山では飛竜等の空を飛ぶモンスターが多い。私の方で警戒はするが、万が一に備えて空には注意を払っておいてくれ」
「分かりました」
ユウが頷くのを確認してからアネッサは歩き出す。ユウはそれに続いた。
それからさらに山道を歩くと、巨大な洞窟への入り口前とたどり着いた。
「この中に入るんですか?」
「ああ」
ユウが尋ねると、アネッサは短く返事をする。
「ちなみにこの中は出てくるモンスターの系統が外とは異なる。気を付けてくれ」
アネッサに言われて、再びユウと彼が背負っている荷物の上に乗っかっているティキが頷く。二人が頷いたことを確認し、アネッサは歩き出す。
(ここでまた何が出るか聞いたら、同じように出てきたモンスター斬られる展開になるんですかね?)
(ギャグじゃないのに天丼するのってどうなんでしょ?)
ユウ達がそんなやり取りをしていると、周囲から乾いた音が鳴り響き始める。そして鳴り響いた音は洞窟内で反響し、けたたましさを増していく。
(あ、もしかして洞窟内で出るモンスターって……)
元居た世界のエンタメに関する知識を用いて、ユウは音の発生源となっているモンスターにあたりをつける。直後、地面や天井から大量の人骨が現れる。それを見たティキも敵の種別を察し、その名前を叫ぶ。
「スケルトン!!」
敵の気配を鋭敏に感じ取っていたアネッサは、ティキが叫び終わるよりも前に駆け出していた。そして、次々とスケルトンを手にした剣で切り伏せる。
(速いっ!)
アネッサの初動の速さにユウは思わず感嘆の声を漏らす。ユウとしては、一対多で戦う状況において元勇者パーティとして派手な必殺技などで敵をまとめて一蹴する展開をアネッサには期待してしまう……が、そんな期待を裏切るかのように彼女は一体ずつ敵を切り伏せていく。しかし、流石に状況が数的不利過ぎたためか、敵の反撃を許してしまう。相手のスケルトンの一体が、手にした剣を振り下ろす。アネッサはそれを前転で素早く回避しながら、相手の背後へと回り込む。そして、相手の背中から痛烈な一撃を叩き込む。
(バックスタブ!?)
アネッサの挙動に思わずユウは驚きの声を上げる。直後、別のスケルトンがアネッサの背後から切りかかる。だが、アネッサは素早く相手の方へと振り向くと、左手に装備した盾を振り、相手の攻撃を弾き飛ばす。
(パリィ!?)
アネッサのパリィを受けたスケルトンは体勢を崩し、膝をつく。アネッサはそんなスケルトンに勢いよく剣突き刺す。そんなアネッサの一連の戦いぶりを見たユウは内心で思わず正直な感想を吐露する。
(う……動きがソウルライクっ!!)
正直、ユウはアネッサに対しては勇者パーティの元メンバーとして、よくあるRPGのラスボス前の最終メンバーが持つような派手な奥義を放つことを期待していた。しかし、実際に目の前で見せつけられた動きはソウルシリーズの縛りプレイのようなものだった。
(まさかこの世界の現地住民ですら、俺が期待した素直な異世界要素を見せてくれないとはなあ……)
もうすっかり予想外の展開に振り回されることに慣れてしまったユウは、ただぼやく。
(一応言っておきますけど、この件に関しては私は一切関与していませんからね?)
(分かってます……。しかし、なんだろう……もはやそういう星の下にいるんですね、自分……)
(なんかすみませんね……)
ユウの何かを悟ったような物言いに、ルティシアは一瞬同情を覚える。
そんなやり取りをしている間に、アネッサは周囲の敵をあらかた片付けていた。そのことに気づいたユウは言葉を失う。
(……おおう、馬鹿なやり取りをしている間に……)
「す……すごいや、あんなにいたスケルトンがあっという間に……」
ティキも、アネッサの圧倒的な強さに再び感心する。
「これで敵は全部倒したの?」
ティキが問いかけながらユウの背負う荷物から降りようとする。しかし、さらなる敵の気配を察したユウとアネッサに手で制される。直後、地面や天井からさらなる大量のスケルトンが現れる。
「おおう、こりゃ壮観……」
ユウは思わず正直な感想を漏らす。再びアネッサは転がって敵の攻撃を回避しては一撃を叩き込み、相手の攻撃をはじいては一撃を叩き込み、敵を次々と屠っていく。しかし、ユウはふとした瞬間にアネッサの口の端から血が垂れていることに気が付く。そんなユウにルティシアが声をかける。
(ユウさん……イベントログを見てください、彼女……)
そう言われてユウはアネッサのイベントログを確認する。
『スケルトンGへの攻撃!130のダメージ! スケルトンXの攻撃!アネッサはひらりとかわした!』
などと戦いの記録が表示されている。
(特に異常はなさそうだけど……ん!?)
確認をしていくうちにユウは所々に異常なログがあることに気が付く。
『アネッサのローリング!皮膚に路面の石が食い込んだ!1のダメージ!食いしばり発動……成功!アネッサはなんとか踏ん張った。アネッサのパリィ!盾の弾きが甘く、左手に軽い衝撃が走った!1のダメージ!食いしばり発動……成功!アネッサはなんとか踏ん張った』
(ところどころで死にかけてんじゃねーか!!)
ユウは思わず精神的に絶叫する。直後、目の前で前転していたアネッサが突如として棒立ちになったままフリーズする。突然の事態に困惑したのか、スケルトンたちも棒立ちになっている。
「アネッサさん……?」
事態の異常さを感じ取ったのか、ティキが恐る恐るアネッサに声をかける。しかし、彼女からの返事はない。それを見たユウは思わず彼女のステータスウィンドウを確認する。
『アネッサ・バートランド HP 0/1 状態:戦闘不能』
「喝ッ!!」
ユウは勢いよくリザレクトオーブをアネッサに叩きつける。直後、アネッサは機敏に動き出して敵を斬り伏せ始める。その合間合間に彼女はやはり血反吐を吐いている。またしばらくすると、突然彼女は直立不動になる。やはりステータスウィンドウを確認すると、またしても戦闘不能になっている。
「喝ッ!!」
再びユウはアネッサにリザレクトオーブを叩きつける。またしても復活した彼女は機敏に敵を排除し始める。
「ええい!死にかけの時は喧しいのに、死んだ方がおとなしいとかセミかっ!!」
ユウは思わず正直な感想を口にするが、それに構わずアネッサは次から次へと敵を切り伏せては死んだり死ななかったりを繰り返す。そして、彼女が死んだ瞬間のみを見極めながらユウは都度、リザレクトオーブを彼女に叩きつける。
(も、もう最悪なリズム天国じゃねーかコレっ!!)
(……ご愁傷様です)
ユウは思わず内心絶叫し、そんな彼をルティシアは優しくいたわるのであった。




