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スパロボで敵の命中率45%の時に反撃を選ぶ勇気

 ギルドでアネッサの依頼を受けた翌日の早朝、ユウは再びギルドに訪れていた。受付嬢に事情を話すと、ギルドの一角に既に手配されていた大量の荷物が配置されている。どうやら帝都の商人たちに依頼してそろえた品らしい。巨大な布袋三つと、木箱が荷物は一つ、それらは背負って持ち運べるようにと、荷物をまとめるための木の板によって作られた枠と肩にかけるためのベルトが取り付けられている。

「アネッサさんももうすぐいらっしゃるはずですので、それまでここでお待ちください」

「わかりました」

 ユウは同意すると、ギルド内の酒場の一席に腰掛ける。途中、モヒカンが『見えてきました……ユウの兄貴……これから起こる戦いの意味とは……因果とは……宇宙とは……その全てが……』と、話しかけてきたが、それらはすべてスルーした。

「しっかし……大丈夫なのかなあ、アレ……」

 昨日は結局、倒れたアネッサを戦闘不能状態から復帰させるべく、エミリアのところまで送り届けたためにろくすっぽいダンジョン探索について話すことは出来なかった。アネッサが万全の状態であるならば問題ないのだが、現在の彼女の状況を見ているととてもダンジョンに入り、モンスターと戦うことが出来るようには見えない。

(どうでしょう。でも、現状ですと街の外に出るには彼女の探索に協力し、成功させることが一番手っ取り早いと思いますよ)

(元勇者パーティだっていうし、荷物運ぶだけの楽な仕事だと思ったんだがなあ……)

 ルティシアに言われてユウはため息を漏らす。

(まあ、彼女が戦闘面でまずい事態になったらユウさんがばれない様にフォロー入れるしかないですね。エクスさんと融合している今ならそれくらいの能力はあると思いますよ)

(ああ、問題はない)

 ルティシアとエクスはこともなげに言う。

(いや、そういうけど……あの人スペランカー並みの耐久やぞ……。ちょっと何かにぶつかっただけでも死ぬのでは……?)

(そこらへんは案外問題なさそうですよ)

 ルティシアに言われてユウは驚く。

(え?どこらへんが?)

(ユウさん、昨日開いた彼女のステータスウィンドウをもう一度開いてみてください)

 ユウはルティシアに言われるがまま、アネッサの名前を指定しながらステータスウィンドウを開くよう念じる。すると、再び空中に青いウィンドウが表示される。

(ちょっとウィンドウの右下の方を見てみてもらっていいですか?)

 ルティシアに促されて、ユウはウィンドウの右下の方へと視線を向ける。するとそこには『ログ』という項目が表示されている。

(このログなんですが……)

 ルティシアに言われて、ユウはログの内容を確認し始める。

『1のダメージ スキル:食いしばり発動……失敗 1のダメージ スキル:食いしばり発動……成功 1のダメージ スキル:食いしばり発動……成功 1のダメージ スキル:食いしばり発動……成功』

(えーと……こりゃどういうことです?)

 しかし、どうにも理解できなかったユウはルティシアに説明を求めた。

(これは彼女がどのような行動をとったかを記録したログになります。特にどういったアイテムを購入したかや、戦闘でどういうスキルを使ったか、どういったダメージを受けたか、与えたか等が逐一記録されていきます)

(プライバシーもへったくれもありませんね……)

 ユウは正直な感想を述べるが、ルティシアはそれに構わず話を続ける。

(で、彼女が度々発動しているスキルですが、この『食いしばり』というスキル、HPが0になりそうな時に一定確率で踏ん張って戦闘不能になるのを回避スキルなんです)

(ああ、RPGでよくあるやつか)

(で、彼女……どうもこのスキルの発動確率が96%あるみたいでして……)

 これまでの説明で、ルティシアがどうしてアネッサのことを問題ないといたのかをユウは理解する。

(なるほど、それなら多少ダメージを受けることがあても生存する可能性が高い……と)

(そういうことです。某ロボットクロスオーバーSLGなら4%の敵攻撃の命中率なら迷わず反撃を選ぶでしょう?)

(例えが分かりづれぇ!)

 ユウは思わずツッコミを入れる。その直後、イベントログに新たな情報が追加される。

『1のダメージ スキル:食いしばり発動…………成功』

(あ、また何かでダメージくらってる………んで、それ耐えてる………)

(いやはや……これもう、一周回って最大HP無限なのでは?)

 ルティシアが呆れと感心が入り混じったような声を上げる。彼女のこう言った反応は中々珍しい。

(とりあえず向こうさんも行動起こしてはいるみたいだし、出迎えられるようにスタンバイをしておくか……)

 そういってユウは立ち上がると、受付嬢に顔などを拭くための布は何かないかと聞き始める。それを聞いた受付嬢は事情を把握しているためなのか、苦笑しながら受付の奥へと布を探しに行く。

 しかし、ユウたちは先ほどのやりとりのために気づいていなかった。とある小柄な人影が、ユウが運搬する予定の荷物を物陰からじっと眺めていたこと、そしてその荷物に人目を忍んで近づいていたことを……。


「待たせたね」

 ユウたちがイベントログを確認してから程なくして、アネッサがギルドに入ってきた。彼女の口両端からは血が垂れている。

「お疲れ様です」

 ユウは頭を下げて挨拶をしてから、先ほど受付嬢から受け取った布をそっと手渡す。

「これは?」

 アネッサは怪訝そうな顔をする。それを見たユウはため息を漏らしながら両の人差し指で口の両端を指す。

「口の両側……血が垂れてますよ」

 ユウに指摘されてアネッサは赤面しながら、受け取った布で口の両端を拭う。ユウが拭い終わった布を受け取ろうとすると、アネッサはそれを手で制し、自身の手でゴミ捨て場に捨てる。そんな様子を見ながらユウは心配そうな顔で彼女に問う。

「そんな状態でダンジョンに行って大丈夫なんですか……?」

 アネッサはユウを真剣な眼差しを向ける。

「君は私を心配してくれるのだな……」

 アネッサの言葉と態度の意味がわからず、ユウはため息を漏らしながら応じる。

「なんかの拍子に血を吐き出す人間の体調なんて心配して当たり前じゃないですか……。ご自分の状況分かってます?」

「…………」

 ユウの言葉にアネッサはしばし考え込む。

「そうか……そうだな」

 そして彼女は一人何かを合点する。一方、アネッサの態度の意味がわからずユウは若干困惑する。しかし、そんなユウの内心にも構わずアネッサは言葉を続ける。

「心配かけてすまなかった。私はかつての魔王軍との戦いにおいて何度も重傷を負い、それでも立ち上がり肉体を酷使しながら戦い抜いた結果、医者からは『二度と戦えない身体になったと思ってほしい』と言われた」

(彼女……骨格や内臓まで度重なる戦闘でダメージを受けてしまっているようですね……)

 アネッサの語る過去と、ルティシアによるその補足にユウは衝撃を受ける。

「それじゃあ……」

「実際、ちょっとしたダメージを受けるだけでも戦闘不能に陥る可能性があるのは、君も昨日みたとおりだ。だが、今回の探索は基本問題はないと思ってもらって構わない」

 ダンジョン探索を止めようとするユウの言葉を、静かな自信をたたえたアネッサの言葉が遮る。

「何故です?」

「英雄の頂にいる魔物たちは確かに強い。だが、既に魔王軍との度重なる激闘を潜り抜けた私とは大きな実力の隔たりがある。そのためダンジョンの魔物達が私に攻撃を満足に当てることも、またよしんば攻撃を当てたとしても傷を負わせることはほぼほぼ不可能と言って良い」

 アネッサの秘めたる自信にユウは気押される。しかし、ユウの不安は拭いきれない。

「そうは言っても傷を負って倒れる可能性はあるわけですよね……?」

 ユウは拭いきれない疑念と不安の目線をアネッサに送る。昨晩、テーブルの脚に小指をぶつけて倒れる様を見ていれば、それも無理からぬことではある。

「だが、私には戦士として持つスキル『食いしばり』がある。このスキルは私の耐えられる範囲を超えたダメージが発生した場合に、耐えることができる。私はこのスキルをかなりの確率で発動させることが出来る。よってそうそう倒れることはない」

「いや、でも昨日だってああして倒れてたわけだし……絶対に問題ないとは言い切れないのでは?」

「ああ。だからこそ君を雇った」

 アネッサの言葉の意味が分からずユウは怪訝そうな顔をする。しかし、そんなユウに構わずアネッサは手配した荷物の中から一つ布袋を取り出す。そして、袋の口を広げてその中身をユウに見せる。

「これは……」

 袋の中をのぞいたユウは驚きの声を上げる。中には暖かな光を放つ水晶のような透明の球体が大量に入っている。

「リザレクトオーブ……戦闘不能状態になったものを復活させるオーブだ。今回、これを君には大量に運んでもらう」

 もちろん、他の荷物と一緒にだが……と、アネッサは付け加える。ユウはここまでの話を聞いてアネッサの意図を察する。

「つまり……俺はアネッサさんがぶっ倒れた時に即座にこいつを使ってあなたを叩き起こすために、復活アイテムの在庫を担いで同行しろ……ということです」

 ユウの疑問にアネッサは頷く。

「もっとも、君の手を極力煩わせないようにはするつもりだ。すまないが、それでも万が一の保険ということで私に同行してほしい」

 アネッサの言葉にユウはため息を漏らす。どうやら彼女は身銭を切って保険をかけてでも英雄の頂とやらに行かねばならない理由があるらしい。

(まあ、なんでそこまでしてダンジョンを探索しようとするのかなんて、理由を聞いても教えてくれるわけないでしょうね)

(一体、何が彼女をそこまで駆り立てているのだろうな)

 ルティシアとエクスが思い思いに感想を述べる。

(まあ、なんにせよ王都から出て、ある程度の行動の自由を確保するためには彼女に協力するのが一番手っ取り早いのは間違いないんだ。理由はどうあれやるしかないよなぁ)

 頭をわしゃわしゃと掻きながらもユウは決意を固める。

「あーもう、分かりましたよ。でも、あんまり無茶はしないでくださいよ?」

「ああ、わかった」

 本当にわかっているのか、大丈夫なのか。そういった不安を胸に抱きつつも、ユウとアネッサは共にダンジョン攻略へと向かうこととなったのだった。

 

 それから約12時間後、ユウは大量の荷物を背負いながらアネッサと共英雄雄の頂の麓にたどり着いていた。途中、携帯食による食事を片手間に済ませたが、ここまで大量の荷物を背負って休憩も取らずにノンストップで歩き続けてきている。途中、魔物にも合わずにここまで来ることが出来たのは僥倖であった。

「……しかし、噂には聞いていたが……これだけの荷物を担いで、これだけの距離を歩いても君は顔色一つ変えずに歩き続けられるとは……驚きだ」

 アネッサの言葉にユウはしまったと若干後悔する。先ほどまで、エクスとの融合によって得られた超人的な身体能力により荷物の重量を負担と感じていなかったうえに、初めての異世界での旅にテンションが上がりきっていた。まだ人間の手によって汚されていない雄大な自然環境を眺めては心を洗われ、そして自身が元いた世界と異なる空気に酔い、異世界に冒険に出ているという現実にすっかりのめりこんでいたのだった。

(……このままだと自分がこの世界における特殊な人類だと疑われる可能性ありそうだなあ)

 しかし、少々浮かれ過ぎていた自身を自覚したユウは必死に取り繕い始める。

「いやー、そんなことないですよ!流石に荷物持ち始めてからこんな量の荷物担いで長距離歩くのは流石に初めてだし、結構疲れちゃったなー!アハハ!」

(焦るとめちゃくちゃ演技下手になりますね……)

 ユウの演技の棒っぷりに思わずルティシアは正直な感想を漏らす。

(だまらっしゃい!!)

 ユウはルティシアにブチ切れるが、当のアネッサはというとユウの演技には特に何かを気にかけるような様子はなかった。

「そうか。まあ、問題はないと思うが、夜にダンジョンに探索に入るのは危険だ。安全をとって、今日はここで野営し、明日の朝から英雄の頂を上るとしよう。そろそろ夕飯時だし丁度良いだろう」

(たしかに、そんな時間か。そろそろ腹が減ってきたな)

 アネッサの言葉にユウは空腹を自覚する。直後、腹の虫の音があたりに鳴り響く。

「ふむ、疲れはないようだが、休みに入るにはちょうど良いタイミングだったようだな」

 アネッサはクスリと笑う。

「へ?」

 だが、この腹の音はユウのものではない。自分のものでないというなら一体誰のものなのかと、ユウは首を傾げる。しかし、アネッサの様子を見る限りでは彼女が空腹で腹を鳴らしているという訳でもないらしい。

 そんなことを考えていると、再び腹の虫の音が聞こえてくる。そのことをアネッサはからかおうとするが、ユウの様子を見て異変を察する。

「……腹をすかせた私達以外の何者かが……この場にいるということか」

「……みたいですね」

 そんなやり取りをしていると、再び腹の虫の音がする。どうやらユウの背負っている荷物かららしい。

「動くなよ……」

 アネッサの言葉にユウは頷く。彼女は、剣を抜きながらユウの背負っている荷物の方へと回り込む。そして、ユウが背負っている荷物の中の布袋の一つの口を開くと、手早く剣を突き付けながら叫ぶ。

「動くな!一体何者だ!」

「ひっ……!」

 ユウは自身の背後から小さな悲鳴が聞こえてきて、その時初めて、どうやら荷物の中に紛れ込んでいた不届き者がいたらしいことに初めて気が付いた。

「……」

 それからアネッサは、不届き者の正体を確認してため息を漏らす。そして、剣を鞘に納めると、袋か不届き者を引っ張り出して抱きかかえる。

「ユウ……」

 そして、アネッサはユウの名を呼びつつ正面に回り込む。ユウもアネッサが抱きかかえている人物を見てため息を漏らす。

「……なんで……お前がここにいる?」

「あははははは……ごめんなさい」

 アネッサに抱きかかえられていたのは、わざとらしそうに、かつ申し訳なさそうに笑うティキの姿だった。

わけあって2話連続投稿です。


あと、来週から別作品と合わせて同時で書いてこうと思うので、少し投稿スピード落ちます。

1話当たりの掲載分量減る感じになると思います。

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