プロローグ・世の中テンプレとかお約束は大事
――人生なんて、基本的にしんどい。
努力したって、必ず報われるわけじゃない。
勉強もスポーツも、頑張ればどうにかなるなんてのは幻想だ。
金だって、天からも親族からも降ってこない。
モテたいって願ったところで、都合よく異性が振り向いてくれることもない。
だから、人は夢を見る。
――『異世界転生』という夢を。
今の世界とはまったく違うどこかで、生まれ変わりたい。
神に選ばれて、圧倒的なチート能力を授かりたい。
そして、その力で富も栄光も手に入れたい。
ついでに、なんか嫌な奴らをギャフンと言わせて、
「ザマァwwwwwwwwww」って高笑いしたい。
で、モテ期が到来して、ハーレム状態でキャッキャウフフしたい。
……不幸な俺にも、ついにそんな夢のようなチャンスが訪れたはずだった。
そう、思っていたのに――
――目の前にいるのは、ドラゴン……いや、ドラゴンっぽい“何か”。
異世界ファンタジーの住人のはずが、どこで間違ったのか、
変質して怪獣みたいな化け物になって、こっちをじっと見つめている。
そしてその視線の先、つまり「俺」はというと……
――でっかい。でかすぎる。並の城よりデカい。
しかもこの体、完全に機械製。どう見てもメカだ。
……ああ、たしかにチートな力だ。
この巨体、きっと異世界の住人たちをまとめて蹴散らせるだろう。
でも、俺の思ってたチートと……なんか違う。
不満を抱いた俺は、こんな状況になった原因……すなわち俺を転生させた女神に文句を言いたい気分になる。
だが、そんなこっちの気分を知ってか知らずか、当の女神は寝ぼけたことを言いやがる。
「えー?異世界転生って言ったら勇者でしょう?勇者ってそちらの世界でいったら巨大な乗り物が変形する人型ロボットのことですよね?私、勉強しました!」
……このズレっぷりよ。どうツッコんだらいいものやら頭を抱えてしまう。
ズレてるのは女神だけじゃない。この異世界も。俺の転生も。全部。
俺は内心で、ため息をつく。
――ああ、そうか。
異世界転生って、思い通りになるとは限らないんだな。
――これは、チートも無双もあるのに、なぜかうまくいかない俺の異世界転生の物語。
「まあまあ。これくらいのズレなら誤差ですよ誤差」
……
だまらっしゃい。