最終話 結婚式はあの場所で
1年後──。
「ジョシュア殿下、セアラ妃殿下、おめでとうございます!」
わああ……! と歓声の上がる街中を、たくさんの花やレースで飾られた白い馬車に乗ってゆっくりと回る。
今日は私とジョシュア殿下の結婚式だ。
すでに正式な儀式は終えてあり、これから私と殿下の望む『私たちの結婚式』を行うためにその会場へ向かっている。
「すごい人の数ですね」
「ああ。みんな俺とセアラの結婚を喜んでくれてるんだよ」
笑顔や温かい言葉をくれる人たちに向かって、私たちは微笑みながらずっと手を振っている。
お祝いとして撒かれている白とピンク色の花びらが、ヒラヒラと空を舞っていてとても綺麗だ。
こんな景色を見られる日がくるなんて……本当に素敵だわ。
雲ひとつない晴天、明るく笑顔いっぱいの街の人々、お祝いのために花やガーランドで飾られた華やかな街、純白で美しいウエディングドレス、そして──隣に座っている愛しい人。
街中を走っている間は、2人で顔を合わせて話すこともできない。
お互いがそれぞれの窓から人々に手を振っているからだ。
でも、ジョシュア殿下は反対の手で私の手をずっと握ってくれている。
それがとても嬉しくて、幸せだと心から思えた。
私とジョシュア殿下がお互いの気持ちを確かめ合った日のあと、その報告を聞いたトユン事務官は大きな拍手とともにお祝いの言葉を叫び、マーガレット王女は大号泣しながら「よかった」と何度も繰り返し呟いていた。
「おめでとう〜〜。セアラ。ジョシュア」
「マーガレット殿下……大丈夫ですか? ハンカチをどうぞ」
「ありが……」
「ところで姉さん。セアラは俺が昔教会で会った少年だと知らなかったはずなのに、なぜか知っていたんだけど……なんでかな?」
「!?」
私の差し出したハンカチに手を伸ばしていた王女は、ピタッとその動きを止めた。
怪しい笑みを浮かべているジョシュア殿下を見て、涙はすっかり引いたらしい。
「え……セアラは知らなかったの……?」
「俺、言ったはずだよね? セアラに余計なこと言うなって」
「そ、それは恋心のことだけじゃ……」
「ああ。残念だよ。まさか最後の最後に、姉さんが俺を裏切るなんて」
じわじわと追い詰めていくジョシュア殿下と、どんどん顔色が悪くなっていくマーガレット王女。
私とトユン事務官は何も言えずに見守ることしかできない。
「裏切るなんて、そんな……っ!」
「なんてね」
「…………え?」
急にドス黒いオーラを消したジョシュア殿下は、私の隣に立って肩にそっと手を置いた。
「そのおかげでセアラが俺のところに来てくれたわけだから、怒ってないよ。……というか、感謝してる」
「!」
弟から感謝されたことがないのか、マーガレット王女の目にはまた大粒の涙が浮かんでいた。
キラキラとした嬉しそうな瞳で見つめられて気恥ずかしいのか、ジョシュア殿下はプイッと顔をそらしている。
ふふっ。殿下、もしかしてちょっと照れてるのかしら?
「私のおかげだったのね! あのときセアラを訪ねてよかったわ!」
「調子にのらないでよね」
仲がいいのか悪いのかよくわからない姉弟のやり取りを、私は笑いをこらえながら見守った。
その後、私は姉にジョシュア殿下との結婚を報告。
姉からのお祝いのメッセージの最後には、フレッド王子が「やっぱりね」と言っていたと書いてあった。
フレッド王子の宣言通り本当に半年以内に報告することになるなんて、彼の勘は本当にすごいと関心してしまう。
ジョシュア殿下は、私の就職前に執事をされていたオリバー様へ直接手紙を書いて送ったらしい。
その数日後には、オリバー様から大きな大きな花束が届いた。
ジョシュア殿下の瞳の色と、私の瞳の色である黄金色と薄紫色の花で揃えられた花束。
なんとも綺麗なその花束を見て、殿下は嬉しそうに微笑んでいた──。
……あれから1年も経ったのね。
結婚式の準備とフィルへの仕事の引き継ぎで忙しくて、あっという間だったわ。
「セアラ。着いたよ」
「あっ、はい」
ジョシュア殿下に声をかけられてハッとする。
人々の笑顔に癒されている間に、目的地に到着していたらしい。
「……久々だね」
「そうですね」
殿下にエスコートされて馬車を降りる。
目の前にあるのは、私たちが出会った教会だ。……もっとも、古い教会はもう壊されてしまったので、正確に出会った場所ではないけれど。
それでも、この場所で出会ったことには変わりない。
「もっと大きな場所も用意できたのに……本当にここでよかったの?」
「はい。毎週ここに来るのが楽しみだったんです。最後は少し切ないまま終わってしまったので、改めて幸せな場所にしたくて」
「約束を守れなかったからな。……じゃあ、今から一緒に甘くない菓子を食べるとしよう」
「またそんな思いつきで……。用意してませんよ」
ははっと笑うジョシュア殿下の笑顔を見て、教会の周りにいるたくさんの女性たちが顔を真っ赤にして小さな悲鳴をあげていた。
作りものではないジョシュア殿下の笑顔は、普段の何倍も破壊力がすごいのだ。
これでさらに爽やか王子だと言われてしまいそうね。
教会の外にいた人々に手を振り、私と殿下は教会の敷地内へ入った。
元々古い教会があった場所は今は綺麗な庭になっていて、今日のために作ったお花のアーチが私たちを出迎えてくれる。
「わぁっ……! 素敵ですね」
「こんな場所に2人だけなんて、なんだかもったいない気がするね」
「そうですね。でも、やっぱりこの場所には殿下と2人だけで来たかったので」
「……そうだね」
寂しいようで嬉しい、2人だけの結婚式。
どうしても実行したくて、少しだけ時間をもらったのだ。
「じゃあ、行こうか」
「はい」
2人でお花のアーチをくぐり、その先に用意してある白い長椅子に座る。
幼い頃、2人がよく座っていた長椅子があった場所だ。
昔はただ並んでお菓子を食べながらおしゃべりをしていただけの私たち。
でも今は、夫婦として手をつなぎながらこの場所に座っている。
「まさか、あのとき会った女の子と結婚することになるとはね」
「名前も、私は顔すら知らない相手だったのに……不思議ですね」
「セアラ」
「は、い……んっ」
振り向くなり、殿下にチュッと軽いキスをされる。
幼い頃を思い出していただけに、その不意打ちにドキッと心臓が大きく飛び跳ねた。
「……殿下。今、思い出に浸っていたのに……」
ドキッとさせられたことが悔しくて、少し恨めしい目でジョシュア殿下を見上げる。
殿下はそんな私からの視線を気にした様子もなく、ニヤッといつもの嫌味な笑みを浮かべた。
「今の俺はセアラにキスできるんだぞって、昔の俺に見せつけてあげないとね」
「過去の自分に対して優位に立ってどうするんですか」
「だって、あの黒髪の少年がセアラの初恋の相手だったんでしょ。俺だと知らずに。そんなの腹立つからね」
自分にヤキモチ焼いてどうするの!?
「そうだ。もう1つ自慢しないと」
「……なんですか?」
「今夜、俺はセアラと……」
「ででで殿下っ!!! こんなところで何を言う気ですか!?」
慌ててジョシュア殿下の口を塞ぐと、殿下が楽しそうに笑い出した。
私の困った顔や焦った顔が好きなのは相変わらずのようだ。
もう……! 本当に意地悪なんだから!
でも、そんな意地悪なところも可愛いと思えてしまうくらい、今の私はジョシュア殿下の虜になってしまっている。
これから先も、この腹黒王子に私は何度も翻弄されるのだろう。
……まあ、心から笑っているジョシュア殿下を見てるだけで幸せだからいっか。
そんな人を好きになってしまったのだから仕方ない、と私は諦めたようにクスッと笑顔を返した。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました!
無事完結することができました✩︎⡱
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完結した本日4月5日は、
・『悪役令嬢に転生したはずが、主人公よりも溺愛されてるみたいです』コミック4巻の発売日
・『旦那様がちっちゃいモフモフになりました〜私を悪女だと誤解していたのに、すべて義母の嘘だと気づいたようです〜』コミカライズ連載開始日
(いなる先生作画、ゼロサムオンラインにてスタート)
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