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38話 私はジョシュア殿下のことが……


「セアラ。ルイア王国に来て、俺と結婚する気はないか?」


「!」



 いつの間にか、隣に座っていたフレッド王子が私の手を握っていた。

 大きくて温かい手に包まれて、頭の中が一瞬でパニックになる。




 え? 私、今プロポーズされた?

 フレッド殿下に??




 真っ白になった頭の中で、ドロシーがピョンピョンと飛び跳ねている。

 まるで『ほら。やっぱり! 私の言ったことが現実に!』とでも言って喜んでいるかのようだ。




 プロポーズ……これを受けたら、私にも婚約者ができるのよね。

 秘書官を辞めて、ちゃんと結婚できる。

 でも……。




 生まれて初めて結婚の申し込みをされたというのに、なぜか私自身の心はドロシーのように小躍りしていない。

 嬉しい気持ちよりも戸惑いの気持ちが強くて、フレッド王子の顔を真っ直ぐに見ることができずにいる。



「あの、私……」


「誰か好きな相手でもいるのか? ……ジョシュア殿下とか」


「!?」



 カアッと自分の顔が赤くなったのがわかった。

 フレッド王子に求婚されたときよりも、顔が熱くなっている。



「ま、まさか……」



 そう言って否定したけれど、フレッド王子は信じなかったようだ。

 無表情なのに、疑わしい目を向けられているのがわかる。



「セアラ。わかりやすいな」


「……っ!」




 ……違うわ! 私は別にジョシュア殿下のことが好きなわけじゃ……!




 私が返答に戸惑ったのは、帰り際に見たあの悲しそうな顔のジョシュア殿下を思い出してしまったからだ。

 殿下が好きだから迷ったわけじゃない。……たぶん。




 自分でも自分の気持ちがよくわからないわ。




「好き……だからではない、と思います」


「じゃあ俺と結婚する?」


「それは……」



 しどろもどろになる私を、フレッド王子は興味深そうにジーーッと見ている。

 なんだか観察されているようで居心地が悪い。




 それは……ジョシュア殿下が悲しむからできません。

 そう言いそうになったわ。




 これはもう好きと同じ意味なのではないかと、心の中にいるもう1人の自分が問いかけてくる。




 そうなの……?

 私はジョシュア殿下のことが……。




 ずっと私の百面相を見ていたフレッド王子は、そんな私の心の中を見透かしたのかもしれない。

 私から手を離し、小さくため息をついた。



「セアラ。本当にわかりやすいね」


「うっ……」


「わかった。今回はとりあえず諦めるよ」


「……今回は?」


「ああ。もし半年以上経ってもジョシュア殿下とセアラの婚約話が流れてこなかったら、また来る」


「えっ!?」




 私とジョシュア殿下の婚約話!?




「な、なんですか、それ!?」


「俺の勘だと、半年以内にはそんな報告がありそうな気がするから」



 よほど自信があるのか、フレッド王子がキッパリと言いきった。




 勘!?

 フレッド殿下は、ジョシュア殿下に妃候補の話が出ていることは知らないはずなのに……!

 そんな報告がありそうだと予想するなんてすごいわ!

 これが野生の勘というやつなの?




 変なところで感動している私を横目に、フレッド王子が椅子から立ち上がった。

 私も慌てて立ち上がる。



「じゃあ帰るか」


「わざわざ来ていただいてすみませんでした」


「いや。勝手に来たのはこっちだから」



 フレッド王子は持っていた黒髪のウイッグをバサッと適当に頭に乗せた。

 このウイッグがやけにボサボサなのは、こうして綺麗に整える必要がないようにという理由なのかもしれない。



「あっ……あの、フレッド殿下!」


「何?」


「…………いえ。なんでもないです」


「?」



 この国に来ていた7歳くらいの頃、古い教会に通っていましたか?

 そう聞こうとして、やめた。




 もしフレッド殿下がその男の子だったとしても、何も変わらないわ。




 フレッド王子の乗った馬車を見送ったあと、私はポケットに入れていたブローチを取り出した。

 もし思い出の男の子の話になったら見せられるようにと、念のため持ってきていたのだ。



「昔好きになった相手だとしても、もう一度好きになるとは限らないのね」



 今、私の心の中を占めているのは、思い出の男の子に似たフレッド王子ではない。

 意地悪で自分勝手で人をからかってばかりいる、あの腹黒王子だ。……自分でも納得できないけれど。



「私、いつの間にジョシュア殿下のことを……」



 そんな独り言を呟きながらブローチをポケットにしまい、私は家族の待つ家に入った。


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