表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/48

31話 ジョシュア殿下vsフレッド殿下


「ジョシュア殿下!」



 突然現れたジョシュア殿下に気を取られていると、フレッド王子にサッと写真を奪われてしまった。



「あっ」


「これは俺からアイリス様に返しておく」


「待ってくださ……!」


「なんの写真ですか?」


「!!」



 奪われた写真に手を伸ばすと、私の隣に立ったジョシュア殿下が優しい声でフレッド王子に尋ねた。

 思わず伸ばしていた手をヒュッと引っ込める。




 ジョシュア殿下、いつの間に!

 あの写真を見られるのはまずいわっ。絶対バカにされちゃう!



 

 フレッド王子は、チラッと私を見たあとに写真を裏返して手帳に挟んだ。

 ジョシュア殿下には見られたくないという、私の気持ちが通じたのかもしれない。



「なんでもありません。お久しぶりですね、ジョシュア殿下」


「数年前の外交パーティー以来ですね。フレッド殿下」



 無表情のフレッド王子と笑顔のジョシュア殿下。

 全然タイプの違う2人の王子は、お互いあまり心のこもっていないような挨拶を交わしている。




 なんでここにジョシュア殿下がいるの?

 私との面会を邪魔していた相手と会って気まずくないのかしら?




セアラ()が高熱だから会えない』とウソをついて面会を断っていたであろうジョシュア殿下は、まったく悪びれた様子もなく堂々と立っている。

 フレッド王子も、まさかこの爽やか王子が自分を騙した相手だとは気がつかないだろう。



「それで、フレッド殿下は本日なぜこちらに?」


「ディエゴと会っていました。何度かセアラに面会を申し込んだのですが、断られていたので。ですが、偶然会えたので話していました」


「そうですか」



 チラッとジョシュア殿下が私を横目で見る。

 その黄金の瞳がギラリと光り、何か訴えているのを私は即座に理解した。




 怒ってる……!

 面会を断った相手と勝手に会っていたから怒ってるんだわ。


 


 ゾゾゾ……とした寒気が背筋を通り、ブルッと肩が震えた。

 きっと今の私は顔が真っ青になっていることだろう。




 でも、怒られるのはおかしいわ!

 ウソをついて人の面会を勝手に断ったのはジョシュア殿下だし!

 私のほうが怒りたいくらいよ!




 負けじとジロッと睨みをきかせて見たけれど、ジョシュア殿下に笑顔のまま「どうした、セアラ秘書官?」と問われてすぐに視線をそらした。

 

 いつも以上に優しい口調になっているのは、それだけ不機嫌だという証拠だ。

 彼をさらに怒らせるわけにはいかない。

 ……未来の自分のために。



「偶然会えたみたいでよかったです。それにしても、なぜセアラ秘書官に面会を?」


「ただ会いたかったからです」


「……特に用件があったわけでは?」


「ないですね。俺はセアラに一目惚れをしたようなので、会って話をしたかっただけです」


「!」


 


 フレッド殿下!? 何を!?



 

 ジョシュア殿下に対しても、まったく同じ回答をするフレッド王子。

 爽やか笑顔仮面をつけているジョシュア殿下も、さすがにこの答えには驚いたらしい。


 あきらかに口元をヒクッと引き攣らせている。



「一目惚れ……ですか?」


「はい。俺がセアラの写真を──」


「あああっ! あの! 違うんです! フレッド殿下のお兄様が少し誤解されただけで、一目惚れと言ってもその……」




 写真の話はしないでっ!!




 話を止めてほしくて、慌ててフレッド王子の腕をギュッと掴んだ。

 私の反応で、写真の話はしてはいけないのだと察してくれたらしい。


 フレッド王子は口を閉じて急に黙ってしまった。




 ごめんなさい、フレッド殿下!

 でも、あの写真はジョシュア殿下にだけは知られたくないんです!




 声に出すことができないため、腕を掴んだまま長身のフレッド王子を見上げる。

 目で訴えるようにジーーッと見つめると、王子は私の手にそっと触れて無言で頷いた。




 伝わった?




「わかった。安心しろ」


「……ありがとうございます」



 ジョシュア殿下に聞こえないように、フレッド王子が私の耳元で囁いてくれる。

 ホッと安心したのも束の間、今度は後ろからなんともいえない恐ろしいオーラを感じた。




 ハッ! な、何?

 なんだか振り向いてはいけない気がするわ!




 長年ジョシュア殿下といるからこそわかる、空気の悪さ。

 それが背後からヒシヒシと流れてくる。



「セアラ秘書官」


「は、はい」



 振り向くことなく返事をすると、急にグイッと腕を引かれた。

 その反動でフレッド王子の手が離される。




 わっ……! 倒れるっ!




 足のバランスがとれず、後ろに倒れそうになったところをジョシュア殿下が支えてくれた。

 なぜか、やけに笑顔の殿下が上から顔を覗き込んでくる。



「大丈夫か?」


「はい……。ありがとうございます……」


「気にしなくていい」



 ニコッと優しい笑顔でそう言われたけれど、そもそも倒れる原因になったのはジョシュア殿下のせいである。

 複雑な気持ちになりながらも、とりあえず体勢を整えて殿下から離れた。




 自分でいきなり引っ張っておいて、気にしなくていいってどういうことよ。まったくもう……!




「大丈夫か? セアラ」


「あ、はい。大丈夫です。フレッド殿下」


「そうか。じゃあ、このあと──」



 フレッド王子がそこまで言ったとき、ジョシュア殿下が言葉を遮って話に割り込んできた。



「申し訳ございません。フレッド殿下。セアラ秘書官は、このあと重要な会議が入っているんです。あまりにも遅いので探しにきたんですよ。もう本当に時間がないので、そろそろこの辺で失礼してもよろしいでしょうか?」


「…………」



 ジョシュア殿下の早口の説明を聞いて、フレッド王子が私に視線を向けてきた。

 無表情で黙っているけれど、『本当か?』と聞かれているような気がする。



「そ、そうなんです。申し訳ございません……」


「そうか。それなら仕方ないな。また改めて面会の要請を……いや」



 フレッド王子はそこまで言いかけて、なぜかチラッとジョシュア殿下を横目で見た。



「またセアラの家にでも行かせてもらおう。……王宮(ここ)では長く話もできないみたいだからな」


「?」



 

 な、なんでジョシュア殿下を見ながら言ってるの?


 ジョシュア殿下もいつも以上に作った笑顔だし、キラキラオーラがまったくなくて少し怖いわ。

 他国の王子様の前で爽やか完璧王子を演じなくていいのかしら?




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ