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25話 露出の多いドレスがそんなにお嫌いですか?


 ジョシュア殿下は、まるで憎いものでも見るような目で私のドレスに視線を移した。


 

「これですか? たしかに私も最初は派手で驚きましたけど、ここに来たらみんな似たようなドレスだったので特に気にならな……わっ」


 

 まだ話している最中だというのに、突然顔に何かの布が被さった。

 それがジョシュア殿下の着ていたジャケットだと気づいたのは、殿下の服装が薄着になっていたからだ。



「殿下、なぜ脱いで……。風邪をひいてしまうのですぐに着てくださ──」

 

「いいから、それはセアラが着て」

 

「え? ですが、ドレスの上にジャケットを羽織るのはマナー違反──」

 

「そんなのどうでもいいから。着て」

 

「でも──」

 

「着ろ」

 

「…………はい」



 

 こんな華やかな場所で、ドレスにジャケットを羽織るなんて……もう絶対に婚約のお話なんていただけないわ。

 あっ、でも私だってバレなければ大丈夫かしら?



 

 私の戸惑った顔を見て、ジョシュア殿下がめずらしくフォローしてくる。



バルコニー(ここ)にはあまり人はいないし、君が誰かもわかっていないはずだから気にせずに羽織れ」


「はい……」


 

 

 たしかに、この姿でいるのがバークリー家の娘だなんてわかるわけないわね。




 ジョシュア殿下の言葉を聞いて、ひとまずホッと胸を撫で下ろす。




 それにしても、なんで殿下はこのジャケットを羽織らせたのかしら?

 肌が出すぎているって言っていたけど、もしかして露出の多いドレスがお嫌いなの?


 長く一緒にいるけど初めて知ったわ。


 ……でも、待って。

 ここは暗いけど、会場は眩しいくらいに明るいのよ。

 いくら誰だかわからないとしても、やっぱりこの格好で歩くわけにはいかないわ。



 

「殿下。申し訳ございません。やっぱりこのジャケットはお返しいたします」

 

「……なんで?」


 

 ジョシュア殿下が不快そうに眉をひそめる。


 

「会場を歩くには目立ちますから。見つかるかわかりませんが、一応候補のご令嬢がいるか捜してみようと思います」


「捜す必要ないよ。セアラはこのまますぐに帰って」

 

「必要あります! 経歴や家柄だけでなく、性格や雰囲気も知っておきたいんです」

 

「なんでセアラがそこまでするの?」

 

「殿下が真剣に選んでくださらないから、私が真剣に選ぶ必要があるんです!」

 

「!」


 

 ジョシュア殿下を責めるような言い方になってしまったけど、本音なので仕方ない。



 

 ここまでハッキリ言えば、納得してくれるでしょう。



 

 私の言葉を聞いて、殿下はグッと歯を噛み締めた。


 

「……わかった。とりあえず候補は選ぼう」



 

 え? 今、わかったって言った?

 あの殿下が!?



 

「本当ですか!?」

 

「ああ。だからセアラは帰って」


 

 なぜそうまでして私を帰らせようとしているのかはわからないけれど、殿下の口から候補を選ぶと言ってもらえたのは大きな収穫だ。



 

 それだけで、この夜会に参加した意味があったわ。

 よかった!

 一応私が勝手に決めた候補者リストはあるけど、ジョシュア殿下本人に選んでもらえるほうがいいに決まってるもの。



 

「ところで、そのドレスは誰が選んだの?」

 

「これは母が選んでくれました」

 

「なるほどね。セアラはこのまま王宮に戻って、そのドレスをすぐに処分して」

 

「……はい?」


「代わりに新しいドレスを数着バークリー公爵家に送るから」

 

「え。あの、なぜ……」

 

「もう二度とセアラがそのドレスを着ることがないように……だよ」

 

「…………」



 

 え。殿下ってば、そんなにもこのドレスがお気に召さなかったの?

 

 ジャケットで隠そうとしたり、わざわざ処分させようとしたりするなんて……ここまで毛嫌いしているとは知らなかったわ。

 覚えておかないと。



 

「わかった?」

 

「は、はい」



 

 お母様には申し訳ないけど、ここは殿下の命令に従っておかなくちゃ。

 

 


「あの、では帰るために会場を通るので、このジャケットはお返ししますね」


「ああ。じゃあ、ジャケットの代わりにこっちだな」



 返したジャケットを羽織るなり、ジョシュア殿下は腕をグイッと差し出してきた。

 まるで掴まれとでも言っているようだ。



「……こっち、とは?」


「早く掴まれ」


「えっ?」




 掴まれ!? 殿下の腕に!?

 な、なんで?

 



「いえ、あの……掴まれって……」



 思わず一歩後ずさった私を見て、ジョシュア殿下が目を細める。



「パートナーのフリだよ。セアラ1人で歩いていたら、またさっきみたいな男が寄ってくるかもしれないだろ」


「だからって、殿下の腕に……」


「今夜は仮面舞踏会だ。身分は気にしなくていいパーティーだぞ」


「それは、そうですが」



 たしかに仮面舞踏会の本来の目的は、身分を気にせずに楽しむためのものだ。

 しかし、そうはいっても相手がこの国の王子だとわかった状態と知らない状態では話が違う。




 あの殿下をパートナーとして扱うなんて、秘書官の私には無理だわ!




 この国の夜会でのパートナーの立ち位置は、女性のほうが上なのだ。


 男性は女性に尽くすように丁寧に扱う。

 手を差し出して重いドレスを着た女性を支え、誘導するように女性に合わせて歩く。




 そんなの殿下にさせられるわけないっ!




「やっぱり無理です。私は1人でも大丈夫ですから」


「セアラが他の男に声をかけられるのは見たくないんだけど」




 なんで!?




「で、でしたら、近くを……横に並んで歩いてくださるだけで大丈夫です」


「俺の腕に掴まっているほうが確実だろう?」


「ですが……」


「いいから早くしろ」


「は、はい」



 急にビシッと命令されて、拒否権がなくなってしまった。

 ここまで強く言われたなら言う通りにするしかない。




 うう……本当に殿下の腕に掴まっていいの……?




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