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21話 私を夜会に連れていかない殿下


「はぁーー……終わった」


 

 ジョシュア殿下もトユン事務官もいなくなった夜の執務室で、私は大きなため息とともに机に頭をのせた。

 大量にあった令嬢たちの情報書類の中から、最終候補として3人の令嬢をなんとか選び抜いたのだ。




 もしこのまま殿下が妃候補を決めてくれなかったときの予備として、提出できる書類は準備しておかないとね!


 

 

「このご令嬢たちで殿下が許可してくださればいいけど……」


 

 自分で選んだ3人の令嬢たちの写真を見て、ボソッと呟く。



 

 将来王妃となる方だもの。

 優秀な方や家柄の強い方など、なんとか国にとって有力な方を選べたと思うわ。

 

 本当は殿下の好みを考慮して選びたかったけど、教えてくれる気はなさそうだし仕方ないわよね。



 

「もう! 私が勝手に選んじゃいましたからね!?」


 

 そう言いながら、今は誰も座っていないジョシュア殿下の席をキッと睨みつける。



 

 もしこのまま殿下が最後まで誰も選んでくれなかったら……そして陛下に提出を求められたら……強行突破として、この方々を候補として提出しちゃいますからね!

 

 それが嫌だったら、ちゃんとご自分で選んでください!



 

 心の中で叫んだだけだというのに、まるで本人に言ったような気分になる。

 少しだけスッキリした私は、選んだ3人の候補者をファイルにしまい、他の候補者たちの書類をまとめだした。



 

 でも……本当にこの方々で大丈夫かしら?




 自信を持って選んだはずなのに、どんどん不安が押し寄せてくる。



 

 家柄や学業の成績などをメインに考えてしまったけど、やっぱり性格も大事よね?

 殿下の奥様になるわけだし……。



 

 書類には、令嬢たちの性格を書く欄がきちんとある。しかし──。



 

 どのご令嬢も、『優しい、品がある、礼儀正しい、女性らしい』……同じことしか書かれていないわ。

 まぁこれを書かれたのがご両親なのだから、みんな娘のことはそう書くのでしょうけど。



 

「でもこれではなんの参考にもならないわね」



 

 ジョシュア殿下本人が選んだ方であれば何も問題はないけど、私が選んだ方に何か大きな欠点があったら……そして、それが殿下の許容できるものでなかったら……私の責任になってしまうわよね?

 

 たとえば男性関係が派手であったり、お金遣いが荒かったり、表と裏で性格が違っていたり……って、これはジョシュア殿下も同じか。



 

「んーー……やっぱりその辺もしっかり調べたほうが良さそうだわ」



 

 とはいえ、どうやって調べればいいのかしら?

 ジョシュア殿下の秘書であることを隠した上で、会うことはできないかしら?



 

 女学園に通っていたにもかかわらず、勉学に励んでいたせいで私には友人がいない。

 秘書官で働いている今も、私にお茶会のお誘いはこない。

 

 そんな私がご令嬢に会うには──。


 

「……夜会に行けば会えるかしら」


 

 この国では毎月数回の夜会が開かれる。

 既婚者しか参加できないものから、未婚の人しか入れないものや身分を隠した仮面舞踏会など様々だ。



 

 実は、私はまだ一度も夜会に参加したことがないのよね。

 もう23歳だというのに。



 

 完全寮生活だった女学園時代にも参加はできず、18歳で卒業したあとはずっとここで秘書官として住み込みで働いている。

 

 ジョシュア殿下は何度か夜会に参加しているけれど、なぜか私を一緒に連れて行ってはくれなかった。

 きっと私に対する嫌がらせだ。



 

 私が夜会に行ってみたいと思っていることをわかっていて、邪魔しているんだわ。



 

「でもそろそろ夜会にも参加しないと、それこそ出会いなんてないわよね。候補のご令嬢たちとも実際にお話ししてみたいし、今度の夜会に参加してみようかしら?」

 

「夜会がなんだって?」

 

「っ!?」


 

 誰もいないと思っていた夜の執務室。

 突然背後から聞こえた声に、私は驚きすぎて声すら出すことができなかった。

 

 振り向くと、そこには普段より軽装のジョシュア殿下が立っている。


 

「で、で、で、殿下ぁ……お、驚かさないでください」


 

 まだバクバクする心臓を押さえ、私は涙目で殿下を見上げた。


 

「別に驚かせてないけど。セアラが勝手に驚いたんだろ?」

 

「そうですが……」


 

 ジョシュア殿下はスタスタと自分の机に向かい、数枚の紙を手に取った。

 おそらく寝る前に寝室で少し仕事をするつもりなのだろう。

 

 そのまま出て行くと思ったのに、殿下は振り返って私を見た。


 

「それより、夜会がどうとか言ってなかったか?」

 

「あ、はい。今度の夜会に参加してみようと思いまして」

 

「そうか。却下だ」

 

「実は……って、ええ!? 却下って! 私個人の予定ですよ。殿下の付き添いで参加するわけではないですから」

 

「余計に却下だ」



 

 なぜ!?



 

 そう叫びたいのを我慢して、私は口をつぐんだ。



 

 仕事内ならまだしも、個人的な予定なのにどうして殿下に却下されなくちゃいけないのよ。

 関係ないじゃない! ……って言いたいけど我慢よ。

 

 ここで反抗したら、殿下はどんな手を使ってでも私の夜会行きを邪魔してくるに決まってるもの。

 とりあえず、今は素直に受け入れるのが正解だわ。



 

「わかりました」


 

 私の返事を聞いて、ジョシュア殿下は眉をピクッと反応させた。


 

「随分と素直だね。セアラ?」

 

「殿下の意見に従っただけですわ。うふふ……」



 

 うう。なんだか疑ってる目だわ。

 でも、夜会に行くためには絶対に隠し通さなくちゃ!

 殿下にバレないように、顔を隠せる仮面舞踏会のある日まで待って、素性を隠して参加するとしましょう。


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