20話 俺は本気で好きなんだよ
「好きな女には男として見られたい、と思うのは普通だろ?」
「す……?」
好きな女……って……あっ!
「悲しいよ。俺はセアラのことを女だと意識していたのに、セアラは俺をまったく男として見ていなかったなんてね」
「…………」
ジョシュア殿下の不自然な答えに、今まで疑問と恐怖でいっぱいだった頭が一気に冷静になった。
体の震えも止まり、怯えるようにして見ていた目も今では軽蔑するような目に変わったことだろう。
……わかったわ。
これも、殿下の意地悪の1つだったのね。
怯える私を見てからかって遊んでいるんだわ。この人はもう!
「殿下。私は真面目に話していたんですよ?」
「俺だって真剣に言ってるんだけど」
「どこがですか!」
「あれ? 信じてないの?」
「…………」
信じられるわけないけれど、それをハッキリ言ってしまっていいのか悩む。
この笑顔に騙されて失礼な発言を繰り返せば、あとで必ず倍返しされてしまうのだから。
まったく……そんな聞き方されたら、ウソでも信じてるって言うしかないじゃない。
「殿下が私を『女』として見ていたことは信じます(棒読み)」
「絶対に信じてないだろ」
「……わかっているなら聞かないでください」
ムッとした私の顔を見て、なぜか殿下も不機嫌そうな顔をしている。
私をからかって怒らせたときはいつも楽しそうなのに、そんな様子は微塵も窺えない。
いつもの愉快そうな意地悪モードじゃなかったから、嫌がらせだって気づくのに時間がかかっちゃったわ。
「はぁ……。殿下。そろそろ遊びはおしまいにして、真面目に妃候補の方を決めましょう」
「俺はいつだって真面目だ」
「期限が近づいてきているんです。私がある程度まで人数を絞りますから、殿下の好みの女性がどんな感じなのか教えてください」
「セアラ」
「え?」
「俺の好みの女はセアラだよ。これでいい?」
ジョシュア殿下はムスッとした表情のまま、投げやりな言い方をしてきた。
まだこの冗談を続けるのかと、いい加減うんざりしてしまう。
「殿下。真面目に答えてください」
「だから俺はいつだって真面目だけど」
「…………」
こんな態度で吐き捨てるように言われ、どう信用しろというのか。
ジョシュア殿下が自暴自棄になっているように見える。
今日の殿下は本当にどうしちゃったのかしら?
いくらなんでもしつこすぎるわ。
……でも、そっちがその気なら、私だって反撃してやる!
「わかりました。では、私に似た女性を何人か候補に入れておきますね!」
あとで後悔したって知らないんだから!
殿下の悪ふざけに合わせてそう言えば、慌てて「さっきのは冗談だ」と言ってくると予想していた。
──それなのに。
「セアラに似た女が好きなんじゃなくて、セアラが好きなんだよ」
「!?」
ジョシュア殿下は、慌てるどころか眉根を寄せてぶっきらぼうにそう言った。
「……殿下。前から思っていましたが、女性にそんな冗談を何度も言うのはよくありませんわ」
「冗談じゃないけど」
「じゃあ悪ふざ──」
そこまで言ったとき、ジョシュア殿下の顔が近づいてきた。
すぐ目の前に立っているとはいえ、背が高い殿下と私は少し距離があった。
しかし、今は触れてしまいそうなほど近くに殿下の顔がある。
王家特有の美しい黄金の瞳で、真っ直ぐに私を見つめるジョシュア殿下の顔が。
「悪ふざけでも冗談でもない。本当に俺はセアラが好きなんだ」
「…………」
作られたような微笑みも嫌味っぽい笑みもない、真剣な表情のジョシュア殿下。
殿下…………本当にどうしちゃったの?
今までの嫌がらせとは違う。
いったい何を企んでいるの? そんなに妃候補を決めたくないの?
綺麗に整った殿下の真剣な表情が、だんだんと呆れたように歪められていく。
「……ここまで言っても信じないの?」
どうやら、私の様子でまったく信じていないことが伝わったらしい。
きっと普通なら頬を赤らめるような場面で、険しい顔をしていたからだろう。
でも、それは仕方ない。
今までの殿下の言動を振り返ってみても、思い当たる節は1ミリもないのだから。
「殿下。殿下がそういう作戦でこの妃候補決めから逃げようとしているのはわかりました」
「違うけど」
「ですが、私も負けません! 絶対に候補の方を決めていただきますからね」
「…………はぁ」
こちらが気合いを入れて宣言しているというのに、なぜかジョシュア殿下は天井を見上げてため息をついた。
作戦がうまくいかなかったことを残念に思っているのかもしれない。
いくら私が男性との交流に免疫がないからって、そんな簡単に騙されたりはしないわ!
まぁ……少しは……ドキドキしてしまったのも事実だけど。
疲れきった様子のジョシュア殿下を横目でチラリと見る。
憂鬱そうに前髪をかき上げ頭を押さえたその姿が、やけに色っぽい。
こ、これは仕方ないわよね?
こんな方がさっきまで私のほんの目の前にいたのよ!?
少しでも動けば、お互いの顔に触れてしまいそうなほど近い場所にあった殿下の顔。
その綺麗な瞳が今でも頭から離れない。
うう! 思い出しただけでも恥ずかしいわ!
先ほどまでは冗談を言い続ける殿下に苛立っていたため普通にしていられたけれど、今になって急に心臓が速くなってきた。
顔も赤くなっている気がする。
こんな顔、殿下に見られないようにしなくちゃ!
私はジョシュア殿下から顔をそらしながら、なんとか部屋から出て行った。
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