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17話 フレッド王子の訪問が気に入らないみたいです


「セアラ。実家の急用はなんだったんだ?」



 ジョシュア殿下が分厚い資料本をパラパラとめくりながら尋ねてきた。

 遅刻した罰として、ついさっき離れた書庫から私が運んだ資料のうちの1つだ。




 まったく。「実家は遠いんだから間に合わなくても仕方ないから大丈夫だよ」なんてメイドの前では言っておいて、いなくなった途端に「資料本を持ってこい」だもん。

 さすが腹黒王子様だわ!




 そんな恨みは心の中にしまい、普通に返事をする。



「お客様がいらしたので、そのご挨拶に呼ばれたのです」


「お客様?」


「はい。私も行くまで知らなかったのですが、ルイア王国のフレッド殿下でした」


「!」



 相手が王子だからか、ジョシュア殿下の眉がピクッと反応を示した。

 トユン事務官は期限間近の書類に不備があったらしく、私たちの会話に耳を済ませることなく必死の形相でペンを走らせている。



「たしかセアラの姉の義弟にあたる方だったな。……何をしに来たんだ? バークリー家に泊まったのか?」


「いえ。ホテルを予約されていたらしいのでお帰りになりました。姉の結婚式でお会いできなかったので、挨拶をしに来てくださったんです」


「……10年以上経ってから?」



 声のトーンで、殿下がその理由を疑っているのがわかる。

 



 殿下も私と同じように疑問に思ってるわ。

 まぁ、たしかにちゃんとした理由を知らないと不自然だもんね。




「最近、姉の家で私たち家族の写真を見たそうです。それで、挨拶していないことに気づいて連絡してくださったとか」



 こう説明すれば、殿下も私と同様に納得すると思っていた。

 しかし、殿下の顔はやけに不穏そうに歪められている。




 な、何この顔……。




 怒っていても笑顔(作りものだとしても)でいることの多いジョシュア殿下が、めずらしく不快そうな様子を全面に出している。



「セアラの写真を見たら急に会いにきた……か」


「?」




 家族写真って言ったのに、なんで私の写真ってことになってるの?




「それで、実際に会ってみてフレッド殿下はどうだった?」


「どうだった……とは?」


「そのままの意味だよ。セアラが俺以外の男に興味を持ったんじゃないかって心配でね」


「…………」



 殿下は不快そうな顔から一転、いつもの作り笑顔に変わった。



 

 そういえば、そんな冗談を言われている最中だったわね。




 妃候補にまったく関係のない話題のときにもこの冗談を言うのか……と、つい殿下に呆れた目を向けてしまう。

 いろいろ否定したくなるけれど、とりあえず無視して質問にだけ答えることにした。



「そうですね。お兄さんとは違って、あまり笑顔のない方でした。でも……思ったよりも話しやすくて、優しい方でした。それに……」



 知っている人に似ている。

 そう言おうとして、言葉を止めた。




 ……私の初恋の男の子に似てるだなんて、そこまで話す必要はないわよね?




「それに……なんだ?」


「い、いえ。なんでもないです」


「なんでもなくはなさそうだが? 言え」



 笑顔のまま低い声で命令されて、思わず「ひっ」と声が漏れる。



「ほ……本当になんでもないですからっ!! 私、この確認してもらった決裁書を提出してきますっ!!」


「あっ……!」



 ジョシュア殿下に呼び止められる前にと、返事も聞かずに執務室を飛び出した。

 手に決算書を持っていてよかったと思いながら、足早に廊下を進んでいく。




 ああ……戻ったときのために、いろいろと言い訳を考えておかなくちゃ。




 また違う罰を与えられることを覚悟して、私は大きなため息をついた。









「セアラ秘書官」



 決算書を提出し、腹黒悪魔の待つ執務室への廊下をトボトボ歩いていると、急に背後から声をかけられた。

 その明るく可愛らしい声で、振り向く前にメイドのドロシーだとわかる。



「あっ。ドロシー」



 マーガレット王女の専属メイドとして働いているドロシーは、今日もニコニコしていてご機嫌だ。



「なんだかお久しぶりですね」


「そうね。マーガレット殿下はお変わりないかしら?」



 最後に会ったときの王女の様子が気になり、深い意味に捉えられないように軽く尋ねてみる。

 王女は私が殿下の妃候補決め担当をしていることが不満らしく、その事実を知ってショックを受けているようだった。



「ええ。……と言いたいところですが、実はそうでもないんですよね」


「えっ?」



 ドロシーは急に声を小さくして、周りに聞かれないようにコソコソと話してきた。

 廊下の真ん中にいた私たちは自然と端っこに寄り、顔を近づけて会話を続ける。



「やけにイライラした様子で陛下のところへ行ったと思ったら、今度はガックリと肩を落として戻られて」


「……陛下に何か言われたのかしら?」


「きっと、マーガレット殿下の思惑とは反することを言われたのでしょうね。……実は、私はそれにセアラ秘書官が関わっているのではないかと思っているんです」


「えっ? 私が?」



 ドロシーは真面目な顔でコクコクと頷いている。

 私が? と驚いてみたものの、正直私には思い当たることがあるためつい目が泳いでしまう。




 まさか……妃候補決めの件?




「マーガレット殿下がよくブツブツ呟いているんですよ。「なんでセアラが……」とか「お父様はどうして……」とか」


「そ、そうなの……」




 絶対に私が担当を変わった件ね!

 そのことを陛下に伝えて、何か納得できない答えが返ってきたんだわ。


 私にはまだ何も連絡がないけど、このまま進めても大丈夫なのかしら?




「あっ! 私、そろそろ行かないと。では、また。セアラ秘書官」


「ええ。またね」



 慌ただしく去っていくドロシーを見送った後、私も執務室に向かって歩き出した。


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