表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/78

理想の世界

前回、ナガスが構想してた異世界転生の話をしたけど、異世界転生といえば「理想の世界の構築」が前提となっている。

しかし理想の世界って、なんだ? 自分の欲望に沿って、都合のいいように事が運ぶ世界が理想の世界なのか? という話。


最善世界観って知ってる? この世界は僅かな罪や間違いはあるけれど、概ね矛盾なく機能していて、ほとんどの事が数学で表現する事が出来る、神が作り出したち密な世界。考えうるどんな仮想世界よりもこの世界は素晴らしい故に、この世界が最善だ。という、頭ハッピーセットな説。

いや、わかるよ。少しでも神の計算が狂っていたら、この世界はもともと存在できていない。逆に言うと、完璧なバランスで成り立っているから存在できてる。それがこの世が神に愛されている証拠であり、神に愛されているのだから最善だ。と言いたいのでしょう。

この説を唱えた人は、天才ライプニッツ。彼が居なければ「異世界」や「パラレルワールド」という概念自体が無かったかもとも言われてるし、微積分法を考え出した、超超大物数学者であり哲学者。だから考え方も論理的で数学的。たとえば「重力が0.1違うだけで世界は存在できてない」という理屈なんだね。すごいすごい。


だけどさ。

お前は恵まれた環境と頭脳を得た。チヤホヤされただろうし食い物に困ったりもしなかったのだろうさ。そりゃあ「この世は素晴らしい。理想の世界だ」と感じるでしょうよ。

でも、人の数だけこの世に対する世界観がある。その中には「神もこの世界もクソだ」と思っている人がいる。それを「ささいな矛盾」と切り捨てるお前は、類まれな頭脳を持った者の傲りであるし、それ故に弱者の痛みをわかってない。

生涯を通して千人以上の人間と文通し見識を広げてきたのだろうけど、その殆どが識者で賢人。学問が貴族の贅沢だと言われていた時代に識字が出来、住所があり、手紙を書き、金を払ってソレを出す余裕のある人。そして権威ある貴方を立てるイエスマンばかりだったのだろうさ。そんな人達と話してたら「自分は正しいんだー」と、思考が凝り固まる。

つまりいくら考えたところで「理想的な世界」とは「貴方にとっての理想の世界」であり、救われない痛みもあるし苦しみもある「誰かにとっての地獄」なんだよ。

それが最善? ナガスにはとてもそうは思えない。


最善世界……理想的な世界……それはなんだ? 痛みの無い世界? 苦しみの無い世界? 誰も死なない世界? 自分の思い通りになる世界? 税金のない世界? 違う。それらは「理想の世界」ではなく「願望の世界」である事を前提として話さなきゃ進まない。

あくまで現段階でナガスが思う「理想の世界」は、優しい世界かな……。

神による優しい世界じゃないよ。神はただの概念。愛だ救いだなんだと言っているが、神の愛や救いは、生きてるうちに感じたことねぇもん。少しも神に愛されず不幸になっていく人を見てきたもん。


余談になっちゃうけど、不条理に痛みを感じる病気にかかり、長い間痛みに耐え、痛みを抱いたまま死んでいく人のどこに救いがある? 治療師として面倒を見ていた人に包丁突きつけられて「休憩時間にヤリまくってんだろ」と暴言を吐かれた人のどこに救いがある? 二ヶ月で三回強姦された人のどこに救いがある? いずれも知人だよ。この三つの事例がナガスをアンチクライスト化させたわ。まぁ、もともと神は好きでも嫌いでもなく「ちょっと怖い存在かな。触らぬ神になんとやら」程度の認識だったんだけど、何があっても救わない神を嫌いになったよ。日本のも海外のもさ。

神を信じろ? それは神の存在を? それとも神の愛? 救済? そんなもの映画か視聴率を狙ったテレビ番組のドキュメントでしか見た時ねぇよ。

神は乗り越えられる試練しか与えない? お前が乗り越えられる試練しか体験してこなかっただけだろ。今すぐ中東行って内戦とめてこい神の下僕が。

ライプニッツおめー、全ては神の予定調和だと言ってたな。どんだけ神はエコヒイキすれば気が済むんだ。神を信じていれば死後、神の国で報われる? だけど、苦しみや悲しみを与えた加害者本人も神さえ信じていれば救われるんだろ。しかも神を信じていなかったら、不条理な目にあった人は救われないんだろ? もう訳わかんねぇんだわ。

それが本当に神の意思なのだとしたら、そりゃルシファーも勝てないとわかって尚、神に挑むわ。悪魔が人の欲望を叶えるって話は古今東西たくさん聞くけど、天使や神が人を救った話はきかねーんだわ。それなのに人が人を救った時は「白衣の天使」だとか「救いの神」だとか「奇跡のミワザ」だとか比喩として使われて、いい御身分ですなぁ聖なる存在は。


さらなる余談で申し訳ないけど、これも言いたい。

公平世界仮説に取り憑かれた人も嫌い。日本人は公平世界観や自業自得というものを感覚として持っている人が世界一多い国らしいよ。

公平世界観のいい面は「老人を助けたからいい事が起こった」というもので、悪い面は「アイツは裏で悪い事をしていたの『だろう』から裁かれて当然だ」というもの。酷くなると「アイツが報われないのは、前世で何か悪い事をしたからだ」とか「若い女性が薄着で外を出歩くから襲われるんだ」という所まで飛躍する、クソのような理論。

病気になり痛いまま死ななきゃイケナイ罪って何? 治療した相手に包丁つきつけられる恐怖に見合う罪は? 二ヶ月で三回強姦されなきゃいけないほどの罪は? んなもんねぇんだよ。公平世界仮説は「認知の歪み」で、酷ければ病気扱いされるもの。ちったぁ脳みそ使って考えろ。徳とか罪とか因果の意識を変えたほうがいいぞ。

と、思ってる。

ちなみに、ナガスが思う徳や罪というものは、作品を通して表現しているので、そちらでどうぞ。


話は戻って。ナガスが思うのは、人を救うのは神ではなく、あくまで人。痛くても苦しくても、寄り添ってくれる人がいる。そして今度は、自分が寄り添いたいと思える循環。それをそのまま大きくしたものが優しい世界。

「人を救うのは人であってほしい」というのも「願望」なのかも知れないけれど、どうかそうであって欲しい。そんなふうに思うのです。


魂を救うほどの優しさは、ソレに触れただけで「死んでもいい」とすら思えるもの。矛盾するようだけど、魂が満たされるのだと思う。

だけど救いを得るには、痛みや苦しみが前提となってしまう。痛みや苦しみの多くは人から与えられるものであり、ソレらが存在している地点で「優しさの循環」と矛盾してる。

仮に「救い」を得るために「悪意」を肯定するとなると、その「救い」や「愛」が売り物として成立するのも、なんだか釈然としない。金がなきゃ救われる資格すらないのか? と思ってしまうし、傷ついた人を騙して益を得ようとする人も絶対にいるしね。それは金銭的だったり性的だったり。

それに優しさに慣れすぎると「優しさ」と感じることが出来なくなり「自分は特別なんだ」と傲慢になっていく。

だからもっと詰めて考えなきゃイケナイのだけれど、ライプニッツと違ってナガスは凡人だからさ。ここらが思考の限界なのかも。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ