喧嘩と仲直り
いつもなら体が重くて仕方ない月曜日の朝ではあるが、今日は体がすこぶる軽かった。昨日の楓乃とのデートで告白し、まさかのOKをもらえたのだ。これがもし振られていたのであれば現在進行形で皆勤賞の学校を休んでしまうくらい体が重くて仕方なかったのであろうが、失恋すると思っていた恋が成就した喜びに浸りきっている今の僕には関係の無いことだった。
いつもならまったり朝風呂に入ってゆっくり朝ご飯を食べる僕ではあるのだが、今日はお風呂も朝ご飯も爆速で済ませた。理由は簡単である。早く学校に行き一分一秒でも多くの時間を楓乃と過ごしたかった。男は単純なのだ。ちなみに一緒に登下校は互いの家の場所が全くの逆方向だったためかなわなかった。
教室に着くと
「おはよー」
そう楓乃が声をかけてきた。
「ん、おはよ」
僕も楓乃にそう挨拶を返す。ただそれだけで嬉しくなる。
これだから恋愛というものは苦手だ。
その後楓乃と少し雑談をした後楓の友達が登校してきたため、楓乃はそちらに行ってしまった。
女子の人間関係というものは、僕たち男子には想像も出来ないほどの恐ろしさを孕んでいるらしい。
楓乃が行ってしまったので僕は持ち歩いている本を出した。楓乃とのデート前に楓乃が興味を示した小説、「いつでもあなたを想う」がもうすぐ読み終わるところだった。続きが気になり、本に目線を落とし読み進める。残り50ページほどだっただが、15分ほどで読み終わった。感想を述べるなら美しい恋物語というのが感想だった。最初は両片想いだった主人公たちがふとしたきっかけで素直に気持ちを伝えることで想いが通じ合った、勘違いから喧嘩してしまうがまた仲直りをして物語が幕を閉じた。
この小説のように現実の恋愛はその大半がハッピーエンドならない。というよりもハッピーエンドで物語が終わる。現実ではほとんど結婚しない限り恋人は破局するし、結婚したって離婚したり、お金目的で結婚したけど配偶者に恋愛感情を抱いたことはないと言った夫婦もいるだろう。つまり現実は小説のようにきれいではないのだ。
そんなことをぼんやりと考えていると担任の先生が教室に入ってきた。先生は委員長に号令をさせてホームルームが始まった。
「テストも一通り返却されたみたいだし1限の私の数学の時間に席替えします」
静寂に包まれていた教室が席替えすると聞いて教室が再び騒音に包まれた。
おそらくは席替えが楽しみということで友達と話していたり数学の授業の一部が潰れると歓喜していたりするのだろう。僕は楓乃と近くの席になりたい、席が近くになれないにしても隣の席が女子であって欲しいということしか頭になかった。我ながら独占欲が立派に育ったものだなと思った。
席替えの方法は一番の席の希望者は好きな席を選ばせてもらえてそれ以外はくじ引きで決めるというまあどこの学校にもあるような決め方だった。
「それでは前の席を希望する人は授業が始まる前に申し出てください。」
先生は席替えの簡単な説明したあとにそう言い残して職員室に行ってしまった。
「楓乃、一番前の席で隣にならない?」
思い切ってそう楓乃に提案した。微妙な顔されませんようにと心の中で神頼みしながら提案した。
「え?」
楓乃は少し驚いたような表情を見せた。
「俺たち来年は受験生だしそろそろに授業だけでも真面目にっていうのは6割くらい建前で、本音は楓乃とどうしても楓乃と隣の席になりたい」
続けてそう言った。
「ふふ、よくできました。仕方ないから一緒に前の席になってあげます。」
そう言った楓乃は少し嬉しそうだった。
「ありがとう。」
「いらないよ、感謝の言葉なんて私は華弥がそう言ってくれて嬉しかったんだもん。」
その言葉を聞いた瞬間なぜか言葉の裏に「好き」って言って欲しいそんな楓乃の気持ちが隠れてる気がした。
「うん、好きだよ楓乃。」
「私も華弥のことが好きだよ。」
そこでしばらくの沈黙がながれる。沈黙、しかしお互いに見つめ合っていてどちらも目線を外さない。楓乃が何を考えているのかはわからない。ただ確かなのは、今この沈黙が心地の良いものであるということだ。
先生が「じゃあ前の席希望する人は来て」そう呼びかけながら入ってきた。
言葉を交わさずに僕たちは2人並んで先生のもとへ行く。
「「前の席を希望します。」」
僕たちの言葉を聞いた先生は、驚いたような表情を少しした後優しく微笑み
「2人はどこの席が良いの?」
「僕は、廊下側の一番端で」
「私は、その隣で」
「わかったわ。でもあまり2人の世界を作りすぎないように注意してちょうだい。」
「「わかりました。////」」
他の生徒がくじを引き次々と席が決まっていった。中には後ろの席だとか友達と近くの席だとかで歓喜するものから前の席だとか周りが異性ばかりで嫌だと嘆くものまで生徒の反応は様々だった。僕らには席替えで一喜一憂はしていなかった。せいぜい周りが誰なのか少し気になる程度であった。
僕らの後ろの席の2人は楓乃の友達の女子であった。授業などでグループを作るときも僕と楓乃、楓乃の友達の女子2人の4人グループになるだろう。少し気まずさはあるが楓乃がうまくフォローしてくれることに期待することにした。
席替えが完了すると担任が数学の授業をやりますと宣言した。そんな容赦ない担任の宣言に小言を言う生徒も少なくなかった。それを担任はグループで問題演習だからとなだめた。問題演習とは近日に控える模試対策と称して教科書のまとめ問題をグループの4人協力してで解いてみましょうというものだった。おそらくグループのみんなと顔合わせ的な側面もあるのだろう。
「2人って付き合ってたの」
そう友達の1人が僕と楓乃に問いかけた。その問いかけの返答にどうしたものかと楓乃の方を見る。
「うん、昨日からね観覧車で華弥が告白してくれたんだ」
楓乃がそう言った。
「いいな~私もそんな雰囲気を大切にしてくれる彼氏欲しい~」
「もう、唯ったらあんた彼氏いるでしょう」
「あっごめんね~、凛は彼氏できたことないからわからないのか~」
そんなことを楓乃の友達2人が話しているのを聞いて唯さんと凛さんというのかとぼんやり思った。彼女の友達の名前くらいは覚えておいた方が良いだろう。ちなみに最初に付き合っているのかと問いかけてきたのは唯の方だ。席は僕の後ろだ。凛は楓乃の後ろである。
2人の僕の接してみた感想はと言われれば、唯は天真爛漫な少女といった印象で、凛はクールビューティーなしっかり者のお姉さんといった印象を受けた。
女子特有の性格というものだろうか、雑談を交えながらもしっかりと堅実に言われた通り教科書の演習問題に取り組んでいる。これが男子であればいつまでも演習をやらず雑談をしてそうなものだが、女子はどうやら違うようだった。一方の僕はと言われれば、勉強はある程度できる方だと自負しているので眠たい授業を聞くのは憂鬱だが問題演習は主体的に取り組めるので結構好きだったりするのだ。
特に数学は最も得意な科目で授業の半分ほど立ったところで指定された問題をすべて解き終わってしまった。
「沖野君、もう終わったの?」
唯がそう聞いてきた。楓乃と凛はというとそれぞれ一生懸命問題に取り組んでいた。
唯は見た目と最初に受けた印象とはうって変わって案外周りを見たり、気を遣ったりすることに長けているのかもしれないと思った。
「まあ、一応」
そう答えると唯はすごい!と言って
「すごい、問4ってどうやって解くの?」
躓いている問題を聞いてきた。
「そこは教科書の応用例題3を参考にすれば解けるんじゃない?」
楓乃のことを考えるとあまり丁寧に教えると嫉妬させちゃうかもなと思い、ヒントのみを教えた。
後はうまく理解してほしい。
「ん~、やっぱりわからないよ」
そんな僕の願いもむなしく唯は理解できなかったらしい。
楓乃の嫉妬が怖かったがだからといって楓乃の友達と関係を悪くするのは良くないだろうと自分の中で言い訳をして唯に丁寧に教えた。
「ここのxがこう変形できるから・・・・(以下略)」
「なるほどね、沖野君教える才能あるんじゃない?」
一通り教えたところで楓乃の方を見たが特に気にする様子はなく真面目に問題に取り組んでいた。
そんな楓乃を見てなんだか複雑な気持ちになった。もしかしたら僕が嫉妬して欲しいと思っていたのかも知れないなと思った。
「はは、そんなことないよ」
「いえ、唯がこんなにすぐに納得するなんて沖野君やっぱり教えるうまいよ」
そんな風に凛にまで感心されてしまった。
「華弥君にそんな特技が?私も教えて欲しい!!」
「いや、楓乃は時間はかかるかもだけどちゃんと解けるでしょ。ほら今解いてるの最終問題じゃんそれもほとんど解き終わってるし」
そう僕が言うと「む~」と楓乃は不機嫌そうに頬を膨らました。可愛い。
唯に教えているときは気にしてる様子はなかったのだが、楓乃の内心はそんなことは無かったようだ。
グループを作ると僕と楓乃は対面になり、僕は唯と楓乃は凛と隣になる。それも楓乃の中では面白くなかったのかもしれない。
その日の授業も終わり放課後になった。
「ずいぶんと唯と仲良くなったね。」
そう楓乃は不安げに言ってきた。
「ごめんね、僕唯さんや凛さんとどう接したらいいかわからなくて。」
「2人のこといきなり名前呼びも私嫉妬しちゃうの。」
「でも2人のフルネームわからないしなんて呼んでいいかわからなかったんだ。」
「もうちょっとクラスの人に興味持った方がいいとおもうよ。2人の呼び方は下の名前で呼んでたのに急に上の名前よびになったら不自然だしそのままでいいよ。」
「ごめん、僕もなるべく気をつけるようにするけど嫌だったり不安なことがあったら言って欲しい」
「ありがとう。でも今みたいのっていいよね」
「どういうこと?」
「なんかさ、2人で問題を解決して今後の再発防止してなるべく笑ってられるように努力する姿的な?なんかそういうのに憧れちゃう。」
「じゃあさ2人で作っていこうよ僕らなりの恋人の形をさ」
そう言って僕は額を楓乃の額にあてた。
そうしてる間の僕らには会話はなくただただ互いが互いを認識して喜びに浸っていた。
どことなく楓乃との心の距離が縮まった気がした。
その日の夜、一件のLINEが来た。
名前の欄にYUIと表記されてあった。
『後ろの席の唯だよー、よろしく』
そうメッセージが来ていた。
おそらく楓乃が連絡先を教えたのだろう。
そう思い、楓乃とのトークルームを開いて、確認すると、『唯が、華弥に相談したことがあるらしいから相談にのってあげて欲しい』とメッセージが来ていた。彼女が了承しているとはいえ恋人がいる身でほかの女の子とLINEするのはなんだか後ろめたさがあった。それでも彼女の友達を冷たくあしらうのは気が引けて結局その相談とやらにのることにした。
『よろしく、楓乃から相談したいことがあるって聞いてるんだけどどうしたの?』
『彼氏がねなんか最近冷たくてさそれで喧嘩が多くなっちゃって別れた方が良いのかなって』
『一応言っておくけど僕恋愛経験あんまりないよ』
『みんなが恋愛の権化なんて言ってるのは恋愛もののコンテンツが好きで恋愛もの以外にあまり興味を示さない僕への皮肉だからね』
『それ、楓乃にも全く同じこと言われた』
『でも大丈夫、少し男子意見が聞きたかっただけだから』
『ほかの男子だと色々勘違いされてめんどーだし』
『モテる人はつらいのね』
『そうやって私の期待通りにおだててくれるのは華弥君だけだよ』
『とにかくまあ本題ね・・・・(以下略)』
簡単に相談の内容をまとめると付き合いたての頃は彼氏、すごく優しくて気遣ってくれたのに3ヶ月たった今、冷たくなったと。
そう3ヶ月なのだ。恋愛において3とはあ大きな意味を持つ数字なのだ。
例えば今回の唯の悩みは一言で倦怠期をどう乗り越えるかという相談なのだろう。本人はそのことに気づいていないかも知れないはたまた心のどこかでは気づいているかも知れないがそれを認めるのを全力で拒否しているのかも知れない。
倦怠期は平均して3ヶ月で来ると言われている。その他にも人の恋愛感情は3年しか持たないだとか、知り合ってから3ヶ月以上たつと恋人というより友達という認識になってしまい、付き合える確率はぐっと下がるだとか、恋愛において3絡みの悩みの種は根深いのだ。
『僕はその彼氏さんじゃないからどう思ってるとか冷たくする理由はとか想像はできても答えはわからない。それは唯さんも一緒で、彼氏さんも唯さんが不安がってるなんて全く気づいてないかもしれない。だから一度2人で面と向かって話してみるのが良いと思うな。』
唯さんからひとしき愚痴だの不安な気持ちだの彼氏に対する想いなどを吐き出させたあとそうメッセージを送った。
『ありがとう。楓乃は良い男つかまえたね。』
不意に唯に褒められた。自分の彼氏と比較でもしたのだろうか、唯はそんな少し意味ありげなメッセージを送ってきた。
『そう言ってもらえると嬉しいよ。』
『相談にのってもらってますます華弥君に興味を持ったよ、明日から学校でも絡みにいくから覚悟しておいてね。』
『楓乃に嫌な思いはして欲しくないのでほどほどにね。』
今日少し喧嘩じみたことがあったのでその反省も踏まえて唯を少し遠慮するよう伝えた。
『ほんとに君は良い彼氏だよ、どこまでも彼女ファーストなんだから。』
唯はそんな僕の意図をくみ取ってかそんな返信をしてきた。
唯は今日の学校での印象は天真爛漫で良い意味で空気を読まない女子というような印象だった。
しかし、LINEで会話したことでその印象は大きく変わった。相手を理解し相手に合わせて自分を変化させているのかもしれない。僕に対して絡みにいくだとかと言っているがそれはいわばお世辞のようなもので実際にそうするつもりはないように感じた。ただそうしなければならなかったのは楓乃と全く違う印象を与えてはいけないという唯の心理から来る物だろう。そのことに気がついた僕は唯も苦労しているのだなと同情した。いや同情することしかできなかったのだ。
そんなことを考えているうちに寝てしまったらしく目を覚ますとカーテンから木漏れ日がこぼれていた。スマホを確認すると楓乃からものすごい数のLINEがきていた。何事かと思いトークルームを開くと唯の相談はどうなったのかという内容のLINEが始まりでそのLINEに返信が来ないのでどうやらおいLINEをしたらしかった。そのLINEに『ごめん、寝てた』と返信しておいた。
学校に行く準備をした。一通り準備をおえてLINEを見ると、『学校で2人で話したい』とLINEが来ていた。また怒られてしまうのかと憂鬱な気分になった。まだ付き合って3日目だというのに喧嘩ばかりで先が思いやられる。
学校につき教室に前まで来るとすぐに楓乃の姿が目にとまる。席が隣でしかも廊下側の一番前の席なのだから当然だ。
「おはよう、昨日はごめんね先に寝ちゃって」
楓乃を見るなり僕はすぐに謝罪をした。一方的に僕が悪いと本当に思っているかと問われれば答えは否であるがそれでも自分の言動で彼女を傷つけたという事実は変わらないのでるから謝っておいた方が良いと思った。
「それは私も冷静になって理不尽だって思ったから私もごめんでも謝ってくれてありがと。」
どうやら楓乃にも罪悪感はあったらしい。
「うん、あのさ提案なんだけど僕らだけの恋人のルールを作らない?」
これは付き合った日から思っていたことだった、同時に少し憧れてもいた。
「私たちだけのルール?」
楓乃はきょとんとしているあまりイメージがついていないようだった。
「そう僕らだけのルール、いくらお互いに惹かれ合って結ばれた恋人でも価値観が完全一致をすることはないと思うんだ、あったとしてもそれは長い時間をお互いに寄り添って過ごした恋人とか夫婦に起こることだと思う、どちらにしろ恋人3日目の僕らには難しいよだからルール作ったらどうかなって思ったんだ。」
「私たちだけの恋人のルール作の賛成、このまま何もしないままで華弥と喧嘩ばかりで別れちゃうのは私も悲しいもん。じゃあさ今日の放課後私の家でゆっくり話さない?私の両親今日も帰り遅いし。」
「楓乃の家は少し緊張するけどわかった。」
その日は授業もよくわからないまま終わった。理由は簡単である。無論楓乃が私の家来ないと誘ってくれたからだ。現実の恋愛経験皆無の僕にとってJKの部屋に行くのに記帳するなと言うのは無理な相談である。
清掃も終わり楓乃を待っていると「お待たせー」と楓乃がやってきた。
「うん」とだけ返事をする。
「家のお菓子きらしてるから先にコンビニ行こう」
「わかった」
楓乃の家の方面の道はほとんどわからないので楓乃について行く。
コンビニに着くなり楓乃は迷うことなくお菓子を買い物かごに入れていく。
「結構買うのね。」
「お菓子の買いすぎは良くないけどお客さんに茶菓子を出さないのは申し訳ないからね」
「友達とかよく来るの?」
「友達も来るんだけど一番は親戚が多いかな」
「なるほどね」
「まあお客さんが来たら茶菓子を出すというのは大義名分で茶菓子たくさん食べちゃうんだけどね」
急にそんなことを言い出す楓乃をみて僕は思わず笑ってしまった。そんな僕を見て楓乃がなによと頬を膨らませていたが2人の雰囲気は温かく幸せそのものだった。
そうこうしているとどうやら楓乃の家にに着いたらしい。
楓乃は僕を家に上げると
「お茶入れてくるから階段上がった真正面の部屋で待ってて」
と言って行ってしまった。
楓乃に言われた通り階段をのぼり真正面の部屋の扉を開けた。
そこには自分の家の部屋とは全く違う部屋があった。
綺麗に整理整頓された机、化粧台、部屋全体は白でまとまっている。
そんなことはただそこにある事象であり、僕が受けた印象の説明には全くなっていない。
なんと言いうか空気が華やかなのだ。これがJKの部屋なのだと思った。
「お待たせー」
と楓乃がお盆に緑茶の入ったコップを2つ乗せて部屋に入ってきた。
「お茶ありがと」
「どういたしまして」
そう楓乃が言うのを聞いてからお茶を一口頂く。
「華弥、早速本題にはいろ」
楓乃は少し緊張したようにそう言った。
「そうだね」
「恋人のルールって具体的にどんな内容にするつもり?」
楓乃は少し不満げにそう言ってきた。もしかしたら私たちにそんなルール必要ないと言いたいのかもしれない。
「まあ一番イメージしやすいのは所謂束縛だね、でも僕は楓乃と他の男と絶対関わっちゃだめなんて言う気はないよ。たださ、それでもお互いに嫌な気持ちになるようなことは避けたいって考えた時にちゃんと話し合ってルールを作ったら恋人関係がうまくいくんじゃないかなって思ったんだ。」
そう恋人のルールを作るべきだと思った経緯を説明した。
「例えば?」
いまいちピンとこないのか楓乃はそう言ってきた。
「毎日LINEするとか、デートの時はちゃんと好きだよってお互いに伝えるとかこんな感じでさ嫌な気持ちになるだけじゃなくて幸せになれるようなルールーも作りたいかな」
恋人のルールを作るならこんな感じかなという物をいくつか例としてあげた。
「わかった、じゃあさっき華弥が言った2つは採用ね。あとはなるべく毎日電話したい」
僕が具体的に考えていることをなんとなく理解したのかさっきまでの不満げな表情とはうって変わってノリノリで恋人のルールを決めようとする楓乃の姿がそこにはあった。ただ毎日電話は少しきつい、いくら楓乃が好きでも1人の時間も欲しいのだ。
「毎日電話は僕が疲れちゃうからせめて週4にして欲しい」
「わかった」
少し楓乃の表情は納得してなさそうだった。
「ごめんね、話す内容もなくなっちゃうだろうし沈黙が多くなって段々億劫になっちゃうかもって思ったんだ。毎日電話は無理だけど毎月1回はデートしよ。」
不満気な楓乃をなだめるためにそう言ったのは間違いではないが前提として楓乃とデートをたくさんしたいと思っているのだ。
「ほんとに?毎月デートしてくれるの?華弥は引きこもりがちだからデートは三ヶ月に1回とかになるかもって思ってたんだ。だから華弥から毎月デートしたいって思ってくれてるって知れて嬉しい。」
楓乃の心の奥底で恋人になるに当たって我慢が必要だと感じさせてしまったことを悟り反省した。
「うん、でもデートプランは交互に決めたい。男として毎回エスコートしたいけど疲れちゃうかもだから。それに楓乃がどんなデートしたいのかもわからないしそれを知るためにも少なくとも当分はデートプランは交互に決めるのが良いんじゃないかなって思うんだ。」
正直デートはしたいがその都度デートプランを立てるのはしんどそうだった映画館に行った時でさえ途中で少し億劫になってしまったのだ。この提案は楓乃を好きでいるための言わば自己防衛であるに違いなかった。
「うん、全然OKだよ。」
そこまでルールを出し合ったところで詰まってしまった。しばしの沈黙がながれる。
「あのさ、言いにくいんだけど女子とLINEするなとは言わないけどLINEしたら教えて欲しいの。」
そんなことを楓乃は言った。
「報告は事後報告でも良いかな?例えばサプライズを計画したとして途中でばらすわけにもいかないし毎日のように同じ他の異性とLINEしたって報告してたら不安にさせちゃうと思うから。内容は基本的には報告するけど内容によってはLINE相手の承諾を得た上で内容報告するってことでどうかな?」
「うん、問題ないよ。あと異性関連で異性がいるメンバーで遊び行くときも言ってほしい。」
「そうだね、細かいことはLINEと同じで大丈夫?」
「うん」
とまあこんな感じで恋人のルールが決められていった。
ちなみに最終的な恋人のルールはこんな感じである。
1毎日LINEをする
2週4で電話
3デートは月1回以上
4デートプランは交互に決める
5異性とLINE場合は内容は伏せても良いから報告する(事後報告で良い)⟵サプライズの相談等の関係
6異性がいる遊びに行く場合は事前に報告する。
7好きをデートの度に伝える。
87以外のスキンシップを欠かさない。※TPOをわきまえること。
9細かなことでも不満があったら相手に伝える。
10悩みを抱え込まない相談する恋人の前くらいは弱い所をさらけ出す。
最初はルールの上で恋人をやるのはと少し渋っていた楓乃ではあったが後半にいくにつれてノリノリになった。このルールはほとんど楓乃の提案に僕が少し口出しながら決まった物である。
やっと楓乃と本当の意味で恋人になれた気がする。そりゃ楓乃が初めての彼女で恋人になって2日目なのだから少しうまくいかないことがあっても仕方ないと思うところもあるのだが、それでも嬉しいのだ。確かに付き合う少し前から両想いであったことは恋人になった今ではなんとなくわかる。しかし、どこかお互いに遠慮している節があった。恋人のあり方について細かいことを言うつもりはないのだがそれでも遠慮しあってるのは恋人とは違う気がするのだ。
僕と楓乃は今日、恋人として本当の意味でのスタートを切ったのであった。
前回の投稿からだいぶ時間がたってしまいすみません。