恋の始まり
HANABIと申します。
なろうで小説を投稿するのは今作が初めてなので緊張しています。
なぜだろうか?
僕が君に恋をした理由を知りたい。
恋とは美しいものなのだろうか?
それとも醜いものなのだろうか?
それともその両方なのだろうか?
僕はこんなことを無心で思っている。
無心なのだからこれは本心なのだろう。
人というものはどうやら体に抵抗して動く。
それが意志を持った行動だと思う。
好きな人に告白・・・。決めたのだ。
だから頑張って告白するのだ。
失恋したら〜なんて考える。
そもそも振られたら失恋なのだろうか?
もちろん世間の一般的な解釈としてそれは正しい。
ただ自分は周りの言ってることを素直に鵜呑みすることができない性分なのだ。
そんなことをもう既に葉桜になりきってしまった桜の木を教室の窓を見下ろしながら考えていた。
友達からは恋愛の権化などと言われている僕ではあるが、それは恋愛アニメ、恋愛のラノベをたくさん見たり、読んだりしてさらに自分でも恋愛小説を書くほど恋愛が好きな僕への皮肉の意味を込めてそう呼んでいるに違いない。皮肉を言われている僕ではあるが客観的に見て、僕が恋愛の権化と言われるのは仕方ないかもしれない。そう思うほどに僕の娯楽は恋愛もののコンテンツにあふれている。
僕の高校生活は・・・いや、学生生活は俗に言う陰キャだと決まっている。それは間違いでもなんでもない。ただひとつの事実としてそこにあるのみだ。間違っても陽キャになることはない。あれは自分の性に合わない生き方をしている。
僕はまだ高校生であるから大学に行って大学デビューなんてことがあるかもしれないそんなことを考えても無駄なのだ。高校生にもなって寝癖が髪型などと豪語するこの男に大学デビューなどと言う大層なことをする気にもならないのだろう。例え友達に勧められても面倒だからと大学デビューの提案をなんの迷いもなく蹴るだろう。そう言う人間なのだ。
だから僕の学生生活は陰キャであると決まっているのだ。
君への想いが溢れて仕方なかった。苦しかった。
恋の悩みなどと言うアオハルチックな悩みを抱える予定はなかった。
ただ恋愛ROM専でアニメやらラノベやら自分が作った小説やらでキュンキュンしているだけでいいと思っていたのだ。だがしかし、今の自分は予定外にも恋の悩みに振りまわされている訳だが・・・。
恋という感情なのかなんなのかわからないものに僕の心は完全に支配されていた。人という生き物は未知を嫌う。この苦しさから逃れたい。この願望もそんな未知を嫌う人間の習性から来る物なのかもしれない。恋の苦しさから逃れるたくて告白を決意した。相手の脈なんて無いに等しくても良いのだ。なぜなら目的は恋を成就させるためではなく恋というものがもたらす苦しみから逃れたくて告白するのだから。
『どうやら矢野さんのことが好きみたいなんだ』
そのことを高校で初めて出来た友達、月島柊にLINEで相談した。高校の中でも1番の友達なのは間違いない。その友達は僕が恋する君と同じ部活に所属していた。楓乃とそれなりに仲がいいらしい。いくら恋の苦しさから逃れるために告白すると言ってもせっかくなら恋を成就させたい。
『おおー、なんだか面白くなってきたな』
それから柊に色々話したり、アドバイスをもらったりした。恋を実らせるために色々なことを考えてるうちに心を蝕んでいたものは少し軽くなった。もしかしたら自覚したのなら行動しなさいという居るか居ないかわからない神様とやらが送ってくれた合図だったのかもしれない。
それでも自分に自信が無いからか楓乃の彼氏として楓乃の隣を歩いている自分を想像できない。なんだか告白する前から失恋している気がしていやになる。ベットと合体している体を起こして、ぐーっと背伸びして気分転換に散歩にでも出てみようかと思い、ボサボサ頭を気持ちばかりなおして、タンスの中から適当に服を引っ張り出して外に出る。
今住んでいるというか居候させてもらっているアパートは幼い頃住んでいたところなので当時の記憶をたどりいつものお散歩コースを歩いて見ることにした。
坂を上ると当時はなかった新しいアパート、路地裏にあるガス管がシューシューと音をならし反対側の家からは聞き覚えのない猫の鳴き声がした。路地裏を抜けるといつも遊んでいた公園が見えてくる。相変わらずたくましいくらいに大きくそびえ立つ5本の木、その木々の後ろに見える町で一番大きなマンション、当時はまだ建設中だった。
思い出に浸っているとなんだか悲しくなってきて嫌になり特に何をするでもなく帰路についた。家に帰り、中間テストが来週に迫っているのを思い出し、気が進まないテスト勉強を半ば無理矢理始めた。嫌々始めたテスト勉強ではあったが一度始めてしまえばそこそこ集中できるものでその間だけはまだまるで失恋をしたかのようなこの感情を忘れることができた。
いつの間にかに寝てしまっていたらしく目を覚ますと朝日がまぶしかった。今日は学校があるのでいつも通り準備をして戸締まりをして学校に行く。学校に着くともう既に登校している生徒がガヤガヤとしゃべっていた。同級生の群れの中にいる一人の生徒に目がとまったその生徒こそ僕が乙女チックな悩みを抱えている元凶・・・・・・・・・つまり僕が現在進行形で恋をしている女の子、矢野楓乃だ。そんな僕の心情なんぞお構いなしに
「華弥、放課後数学教えてくんね?」
僕が学校に登校するなりすぐにそう声をかけてきたのは柊だった。
「わかった、じゃあいつも通り放課後俺のクラスに来てくれ」
「助かるよ華弥、じゃまた放課後」
そう言い残して行ってしまった柊というやつはいつも忙しそうにしている数少ない友人の彼に対する印象はそんな感じだった。
授業は特に問題なく進み放課後となった。
しばらく自分のテスト勉強を進めていると柊が来た。
「時間もらっちゃってごめんな。」
この柊という男の根幹には礼儀というものがしっかりとあるのだ。僕は柊のそういうとこを気に入っているし、だからこそ彼の周りにはたくさんの人であふれてるに違いないと思う。
柊に先生から配られたテスト対策プリントを元にテスト範囲を一通り教え終わり気づけば完全下校時刻が迫っていた。
「ちょうど帰る頃合いだな。」
「そうだな。」
「そうだ、華弥、矢野さんのこと頑張れよ。」
そう柊は思い出したかのように言った。そのたった一言の柊の言葉からは言葉だけの意味じゃない幸せを後は自分の力でつかむんだぞとそんな風なメッセージも込められてる気がした。
「わかった。柊には色々お膳立てしてもらってるしやれるだけはやってみるよ。」
柊には楓乃と同じ部活に所属していることもあり、何かと気をまわしてもらっているのだ。
「おう、頑張れ。」
こんなやりとりをしてしまったからにはもう後には引けなくなってしまった。それはある意味ではよかったのかなとも思った。今まで告白したことがないわけではない。中2の時に告白したことがあるのだ。愚かにもLINEで告白した僕は当然のごとく振られただけでなく、その後告白した女子のグループの人たちから冷たい態度を卒業するまでとられ続け軽くトラウマになってしまっているのだ。
いまいち一歩踏み出せずにいる女々しい僕の背中を押してくれる柊はやはりいい友達だなと心の中で苦笑した。
さて、どう告白したものかと考えたが中学の時の二の舞は踏みたくなかったので直接告白することにした。後はタイミングだ。告白はタイミングが命だと聞いたことがあった。例えば今のようなテスト期間真っ只中に告白してもテスト前はピリピリしていたり、何かとやらなきゃいけないことがあったりと忙しいので告白の成功率は下がる。だから告白のタイミングはテストが終わった日にデートに誘い、次の日曜日にデートを取り付けてデート終わりにうまく雰囲気を作って告る。おそらくこれが迅速かつ最適な告白のタイミングだと思う。だから今はテストに集中しようと思い、苦手な英語の教科書とにらめっこする。
テストも無事終わり、苦手な英語も赤点の心配がない程度の手応えを感じて告白に集中できるなと思っている自分がいることに気がついて内心驚いた。テスト最終日の夜早速楓乃にLIMEした。
『次の日曜日2人で遊ばない?』
そうメッセージを送る。色恋めいたメッセージを送って返信を待つ間のなんとも言いがたい焦燥感のようなものを感じてどうにも落ち着かない。
『いいよ、どこ行くか決めてるの?』
そう5分ほどで返信がきた。この5分間は過去一長い5分間だった。
『映画館か水族館で考えてるけど、どっちがいい?』
デートの予定は基本男性が決めるものだがデート場所をどこが良いかその選択を女性に委ねるのは聞き方に気をつければ問題ない。このように2択多くても3択に絞ってから聞くと選ぶ側もストレスはすくなるし、ある程度行きたい場所を決められるので失敗しにくい。映画館と水族館を選択肢として示したのも映画館は時間を大きく潰すことができてなおかつ映画を見終わったあとの話題には困らない。水族館は告白を計画しているデートで雰囲気を作りやすいという利点がある。もっとも告白は3回目のデートが良いとよく言うが、恋の病特有の苦しさから一刻も早く解放されたい僕には余計な知識である。こんな知識をまだデートすら未経験の僕が持っているのはあまり認めたくはないが恋愛の権化と呼ばれるのも仕方ない気がしてくる。不服だ。
『映画館行きたい。ちょうど見たい映画があるんだけどそれ見てもいいかな?』
『うんいいよ、どんな映画?』
『えっとね、「ただ君に伝えたい」っていう恋愛映画なんだけどいいかな?』
楓乃が見たいと言った映画は最近JKの間で話題になっているらしい映画だった。流行に疎い俺でも知っている程度には有名な映画である。俺も気になっていた映画だったのでちょうどよかったと思いつつデートの誘いにのってくれて脈なしではないことがわかり安心していた。
『いいよ、ちょうど俺もその映画見たかったんだ~』
『よかった~』
『日曜日何時集合にする?』
『9時半に駅で待ち合わせよ』
『了解、映画のチケットは先に俺がネットで買っておくよ』
『ありがと!』
『華弥君ってさ結構恋愛物好きだったりするの?』
楓乃が話題を振ってくれたこんな客観的に見ると小さなことでも跳び上がるほど嬉しいがベットにダイブして足をバタバタさせるのに留めた。それでもこんな小さなことでこんなに嬉しくなるのは紛れもなく恋の仕業に違いない。
『結構好き~でも女子向けに作られた恋愛小説は苦手かも何というか読んでて恥ずかしくなる』
『え?かわいい笑』
楓乃がつかった「笑」をみてまた嬉しくなる。我ながら楓乃にゾッコンだと思う。
『世の中の女の子はよくすました顔で読めるなって思いながら読んでた笑』
ミラーリングを意識的にしてみる。こんなモテ男しか知らないような無駄な恋愛の知識も過去の僕が無差別に恋愛ものに触れて心みたしていた副産物としてたまたま身についた知識だ。僕の多くの知識はそうして身についた副産物なのだ。
『心の中でキャーって言いながら読んでいるんだよ。女の子はポーカーフェイスが得意なのです。』
なんだか楓乃がトークルーム越しにドヤ顔をしているのが容易に想像できた。なんだか可愛いなと思ってしまうのはきっと惚れた弱みなのだ。
『そうなの?』
『だって女の子はときめきたくて恋愛もの創作物に触れるんだよ。きゅんきゅんしない恋愛ものに触れる意味ないじゃん。』
納得させられてしまった。
『めちゃくちゃ納得したわ』
そこで一旦会話が終わった。
『じゃあ日曜日楽しみにしてるね。デートに誘ってくれてありがとう。』
しばらくしてそんなLIMEが送られてきた。
スタンプを送信してその日のLIMEのやりとりは終了した。
楓乃はデートに誘われていると自覚して誘いにのってくれたのかと思うと嬉しくなった。それこそ跳び上がって喜んだ。母にうるさいと注意されて幼稚な行動だったと反省した。
ある漫画で恋愛は先に惚れた方が負けと言っていたが、一見、惚れたら負けだとそれを意識して恋愛に発展しないのだからそもそも勝負が始まらないという矛盾をはらんでいるようにも思えるがそんなこと無いのだと自らの恋を通して理解した。
翌日、僕は一つの決心をした。せめて寝癖くらいは直して登校しようそう決めた。そうは言っても特別大きく何かを変えるわけではない。せいぜいこれまでは夜に入っていたお風呂を朝、お風呂入るように変える程度だ。このが恋が無事玉砕するのであればなんの問題もなかった。しかし、楓乃の脈があるかもしれないと昨日のLINEのやりとりで感じたのだ。もし告白が成功したら、これまでのような自分の評判が自分にだけ影響するものではなくなるのだ。そう、楓乃の彼氏というたったそれだけの肩書きが追加されるだけで僕の評判は楓乃にまで影響するのだ。自分はどれだけ悪く言われても大して気にはならないが好きな子までも悪く言われるのは耐えがたいのだ。
学校全体がテストから解放感からか昨日までのどことなく図書館のような雰囲気を感じさせた空気とは打って変わりいつものガヤガヤとした学校特有の雰囲気が戻ってきた。
僕は楓乃と話したい気持ち半分ちょっと気まずい気持ち半分といったなんとも複雑な気持ちでいた。どうしたものかと思いながら泣けると話題の恋愛小説を読んでいると
「華弥君、何読んでるの?」
そう楓乃が話しかけてきた。
「今話題の『いつでもあなたを想う』っていう小説、昨日本屋によって自分のご褒美に買ったんだよ。」
昨日、本を買うときにはもう既にデートに誘うと決心していたのでその時から緊張していたがそれでも日課の本屋に行くことは造作も無いことだったようでなぜか落ち着いたのを覚えている。
「それテレビ番組で紹介されてたやつだ。」
僕がこの本のことを読みたいと思ったきっかけもテレビ番組だった。もしかしたら同じ番組を見てるのかも知れないと心が躍った。
「されてたね」
「面白かったら私に貸してくれない?」
「面白かったらなんだ」
「知らない人が言っててもあまり読みたいってならないんだよね。だから読み終わったら華弥君の素直な感想が聞きたいかな。」
楓乃の意外な特性というか生態を教えられることになった。
「うん、わかった。でも矢野さんって意外な生態してたんだ。」
そうからかうと、意外な生態って何よもぉ~と少し顔を紅潮させながら「じゃあね」とその場を去って行った。少しどころかだいぶキモかったかなと反省した。
僕はどこに行く楓乃の背中をぼんやり眺めていると楓乃が振り向いたかと思えば小動物みたいにちょこちょこ小走りで戻ってきたかと思えば
「日曜日、期待してるよ」
楓乃は僕の耳元でそう囁いた。
楓乃はすぐにUターンしてどこかに行ってしまった。
楓乃が僕に何を期待しているのかは定かではない。ただ脈なしよりは脈ありよりであることを感じて胸の高鳴りを覚えた。
楓乃との学校での雑談やLINEのやりとりが増えたこれまでもまったくなかったわけではないが今までの比じゃないほど増えた。
日曜日
9時半に駅で待ち合わせだったので僕は少し早めに待ち合わせ場所に着いた。スマホで電車の時間とシャトルバスの時間、映画の時間の最終確認をした。緊張のあまり何回も調べた交通機関や映画の時間を確認するのは仕方ないことだろう。確認が終わり内心そわそわしているのを必死に隠して平静を装いながらスマホで何をやるではなく見慣れたホーム画面のかわいい女の子を目にとめながら意味もなくスクロールしていると、
「お待たせ華弥君、だいぶ待たせちゃった感じかな?」
そう少し申し訳なさそうにしながら楓乃が来た。
「そんなことないよ、時間通りだし。」
「ありがとう。」
「早野さんの私服初めて見たけど似合ってるよ。可愛い。」
楓乃は白いワンピースに薄いピンクのカーディガンを羽織っていた。言葉ではそれだけ、そうそれだけなのだ。だけど私服姿の楓乃には言葉ではなんとも言い表せない美しさがあった。もちろんそこには、朝早く起きてメイクや前髪を頑張った楓乃の努力、楓乃を見る僕自身の目のフィルターの好きな子補正、もしかしたら楓乃が僕のことが好きで恋する乙女の補正もかかっているのかも知れない。最後のは少しどころかだいぶ僕の願望が混じっていたけれどおそらくそういう楓乃の努力だったり、色々な補正だったりとにかく目に見えないものが楓乃を美しく、そして可愛くしているに違いなかった。
「ありがとう、嬉しい。華弥君もかっこいいよ。」
僕が容姿的にかっこよくないことは僕が一番わかっている。普段の僕であればかっこいいと言われるより可愛いと言われた方がまだ否定的な自覚が薄いため素直に受け取りやすいという理由から嬉しいのだが、そんな屁理屈好きな女の子を目の前にした今の僕には全くの無意味だった。
「ありがとう。」
お互いに褒め合って照れてなんとなく気まずくなり沈黙が流れる。なんとも初々しい限りで、小学生か中学生の恋愛かよと心の中でセルフツッコミを入れておいた。
「とりあえず行こ。」
デートは男がエスコートするものというのが世間の認識らしいので柄にもなくリードしてみる。
「うん」
駅から目的の映画館までは無料のシャトルバスが出ているのでそれを利用することにした。バイト禁止の自称進学校に通う高校生にとっては節約は大切なのだ。
「華弥君が恋愛系のコンテンツが好きなのって意外だったよ」
「よく言われる。まあでも好きな物は好きだしそれを自分のイメージに合わないからっていう理由で好きな物を隠すのは違うかなって。」
ありのまま、思っている通りに僕は話した。それは僕の一つの信念のようなもので、好きになったものは堂々と話せるような自分でありたい。きっとその好きなものに自分は何度か救われているのだからせめて好きなもの好きだと堂々と言うことがそれを制作している人たち、そのコンテンツへの礼儀ではなかろうか。そう考えているのだ。
「華弥君のその自分を貫く姿勢みたいなのってかっこいいと思う。」
楓乃は、そう褒めてくれた。自分が持っている信念を誰かに話したことはないが、なんだか「君は間違ってないこのまま自分を貫き通して」そう言われてる感じがして嬉しかった。
「ありがとう。なんかこうして褒められるのって恥ずかしいね。」
「そうだね。」
こんな他愛もない会話でさえ楓乃と話す時間が楽しいと思えた。やはり恋とは偉大な物なんだなと苦笑した。それから映画館に程なくして映画館につきあらかじめネットで購入した映画の電子のチケットを入場券となる紙のチケットに引き換えてポップコーンとジュースを買ってシアターに入場した。シアターに入って席に着くといつも映画の広告やらが流れていた。数作品の広告が流れたあと映画泥棒の動画が流れた。そして映画の本編が始まった。
物語の始まりは主人公の男の子がヒロインの女の子に恋するシーンから始まった。そこから連絡先を聞いたり、友達を含めた数人で遊びに行ったりする描写がされた。物語が進むにつれてヒロインが次第に主人公に惹かれていったが、主人公に想いをよせる女の子が二人の恋の障害となった。しかし、最後は主人公がヒロインに懸命に想いを伝えることで二人の恋は成就するという内容のハッピーエンドだった。
エンドロールを最後までみた後、僕と楓乃は席を立った。
「期待通りすごく良かったよ~。」
そう楓乃は満足げにそう言った。
「確かに登場人物の心情描写がしっかりされていて良かったよね。」
「うん、わかる。」
「もっと落ち着いたところで映画の感想を語り合いたいから昼食がてらにフードコートに行かない?」
一応事前に立てたデートプランは順調に遂行している。
「それいいね。」
「さっきのポップコーンとジュース代は割り勘だったからお昼はおごるよ。」
なんだか最近世間の男女間の間でデート代を男性がおごるおごらない論争が活発化しているのでそう申し出てみた。とは言っても僕自身好きな子や彼女とのデート代は男が出した方がわかりやすい格好の付け方だしその方が良いと思っているが、諸々の理由からそうしない方が良いもしくはそうできないことがあるカップルも少なくないだろう。なので僕の見解は、人間にそれぞれ個性があるようにカップル間にもそれぞれ個性がある。だから世論どうこうではなく私たちはこうする、という感じで二人で決めていけば良いと思う。つまりそもそも恋愛的な問題について男女で言い争うこと自体が不毛というわけである。
「えー、悪いよ。ちゃっかり映画のチケット代も出してくれるつもりみたいだし流石に悪いよ。」
楓乃は、申し訳なそうにしているが一日デートで連れ出しているこちらの身からすればこの程度安いものである。
「気にしないで、僕が誘ったんだし少しはかっこつけさせてよ。」
「わかった。その代わり次のデートは私がエスコートするから諸々の代金は私に出させてよね。」
そう微笑みながら言う楓乃を見て脈があるのだとわかってこの後に待ち構えている告白という一大イベントの良い結果に期待した。
フードコートに着き二人とも揚げ物の定食を注文した。席に着くなり楓乃はおいしそうに天ぷらを頬ばった。
「矢野さん、そんなに揚げ物食べてカロリー的に大丈夫?」
客観的にみてデリカシーの欠片もない発言であったのは自覚しているがからかわずにはいられなかった。最も楓乃は笑って許してくれるに違いない。彼女のそんなついからかいたくなってしまうところ、からかっても一緒に笑ってくれるところに僕は惹かれたんだ。
「いいもん、ダイエットまだダイエットするような体重にはなってないし。でも明日の放課後は少し運動しておこうかな。」
「やっぱり少し気にしてたのね。」
「流石にね~、でもおいしかったからつい」
「確かに、ここの天ぷらおいしいよね」
「うん」
それから映画についての感想をお互いに言い合った。最もそこにほとんど知性はなかったわけで感想だと言うのも憚られるほど中身のない言い合いだった。
時計を見ると時刻は2時を指していた。僕の予定では4時くらいから観覧車に乗って一番上で告白する予定なのでまあまあ時間がある。
「この後ゲーセンでも行く?」
「おお、いいね」
「じゃあ行くか」
「うん」
ゲーセンに着くと今日見た映画のキーホルダーがクレーンゲームの景品であった。
「これ華弥君とお揃いにしたい。」
「良いけど、学校のみんなにばれちゃうよ?」
「なあに?華弥君は私とデートしたこと隠したいわけ?」
「そういうわけじゃないけど、恥ずかしい・・・・・・。」
「まあでも2つ取ろうよ。別に家に置いておくだけでも良いからさ。」
「それならまあ」
そのキーホルダーは比較的取りやすそうな台だったので2つ合わせて1,000円ほどで取ることができた。それからプリクラ撮ったりと楓乃に振るまわされっぱなしだった。
「そろそろ出よっか。」
「うん、もう帰る?」
「いや、最後に一カ所だけ付き合ってもらえる?」
「良いけど、どこ行くの?」
「観覧車乗らない?」
楓乃は告白されるのを察したのか少し緊張しているように見えた。
「いいよ」
なんとなく気まずくなって観覧車まで歩く間沈黙が流れた。
観覧車の乗り場に着くと運良く人が少なくてすぐに乗ることができた。
ゴンドラは次第に上がって行きそろそろてっぺんに差し掛かろうかというところで僕は沈黙を破った。
「早野さん、あなたのことが好きです。付き合ってください」
「華弥君、よろしくお願いします。」
楓乃はそう言うと泣き出してしまった。
「矢野さん、どうしたの?」
「だって、だってせっかく華弥君がデートに誘って告白まで計画してくれたのに観覧車乗りたいって華弥君が言った時観覧車で告白してくれるんだってわかっちゃってそれで私緊張しちゃってなんかずっと気まずくなっちゃって告白してくれそうだったのに台無しにしちゃったかなって落ち込んでたのに華弥君は告白してくれ嬉しくて・・・・・。」
泣きながら、つっかえつっかえ頑張って言葉を発している楓乃をみてこんなにも僕のことを想ってくれていたのかと嬉しくなった。
「そっかありがとう早野さん。」
「華弥君はもう私の彼氏なんでしょだったらちゃんと名前で呼んでほしい。」
そう可愛くいう楓乃が今や僕の彼女なのだと思うと胸の高鳴りが止まらなかった。
「わかったよ楓乃。」
そう言ったところで、観覧車を降りるところまでゴンドラが来ていた。
観覧車を降りてバス停まで歩く。
「そう言えば楓乃は僕のこと君付けのままなの?」
「気になる?じゃあ華弥って呼ぶね」
楓乃はすまし顔でそう言った。
「よく平然と言えるよね。」
「そんなことないよ顔が赤くなりそうなくらい恥ずかしいよ。前も言ったでしょ、女の子はポーカーフェイスが得意なのです。」
前も思ったがこれは楓乃がポーカーフェイスが得意なだけではなかろうか。
「じゃあ楓乃のポーカーフェイスを崩せるように頑張るね。」
「ほどほどにお願いします。」
「あれ?ほどほどにはやって良いんだ?」
「だってせっかく恋人になったのにドキドキ出来ないのは悲しいじゃん。」
「それもそうだね。」
こんなやりとりが今はただ幸せだった。
「あっ、あそこにクレープの屋台あるよ。僕小腹空いたから食べたいけど楓乃はどうする?」
楓乃は、うつむいて少し考えているようだった。
「半分こしよ。」
苦渋の決断と言わんばかりの表情をしてそう言った。こんな彼女の姿でさえも可愛いと思う僕は思ったよりも楓乃にベタ惚れだったらしい。
「明日は、一緒に運動しようね。」
そう僕は提案した。明日もまた楓乃と二人きりになりたいという密かな願望も孕んでいた。
「うん」
そう言った楓乃の表情はさっきとは打って変わって明るかった。
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