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新人と初めての仕事②

「あー、では窓口の仕事を教える」


 局内の掃除を一通り終えたあと、シュガーは腕組みをしながら言った。ヴァーズは眠気に負け、暖かい窓際でスヤスヤと昼寝を始めていた。


 シュガーが『窓口』と呼ぶスペースには様々な書類やお金や重りを測る道具がおいてあり、机を挟んで椅子が対面で並べてあった。


「へぇー、郵便屋さんって手紙や荷物を配達するだけが仕事じゃないんですね」


 ツバサが置かれている書類を見ながら不思議そうに言った。


「そうだ。お金を預かったり、渡したり、あと冒険者ギルドで出してる保険の手伝いもしている。もちろん、手紙の配達もやってるから、あとで教えるからな」


「そんなにたくさんあるんだ……」


 レーベンは思わず声に出してしまった。


「ね! 覚えられるかな?」


「ふ、不安ですよね……」


 ツバサの問いかけにレーベンは返事をした。そういえば、今の会話が挨拶以外では初めてだったことにレーベンは気付いた。なぜか胸の奥がくすぐったい気持ちになった。


「まだ店を開けるまで時間があるから、一回練習して見るか

。じゃあ、レーベンちゃん最初だな」


よいしょとシュガーが向かいの席に座った。


「それじゃあスタート。はい、今お店に入りました。まず、『いらっしゃいませ』だね」


 なるほど、とレーベンは思った。たしかに他の食べ物屋さんやお洋服屋さんでは、お店に入るとそのような出迎えがある。


「い、い、い、いらっしゃいませ……お、お、お嬢様……!!」


「あはは。そこまでかしこまらなくていいよ。でもいい声だ。ツバサも言ってみな」


「い、いらっしゃいやせーーーー!!!」


「あはは!! 声がデカいわっ!! おっけー。じゃあ続きね。この手紙を出したいんだけど」


「は、はい!」


シュガーが差し出した手紙を受け取ろうとしたが、レーベンは緊張でガタガタと震えてしまってなかなか受け取れなかった。


「落ち着いて、落ち着いて」


 レーベンの手をシュガーが優しく撫でる。


「がんばれ! レーベンちゃん」


 ツバサも声援を送る。


 二人の励ましもあり、無事に手紙を受け取ることが出来たレーベンはホッと胸を撫で下ろした。


「最初は緊張するもんだから。その手紙に相手の住所と名前、あと持って来た人の住所と名前を書いてもらって。まあ、慣れてる人は書いて持って来るけどさ」


「これは……入ってないですね……。記入お願いいたします……」


「はい、わかりました」


 シュガーは再び手紙を受け取ると、近くにあった鉛筆でサラサラと書いていく。


「あー、そしたら、この書いた手紙の住所と名前がが間違いないか地図と合わせるんだ。そこの本棚にあるから取ってきて」


「え、あ、はい……」


 さすがにレーベンの頭は一杯になってきていた。頭では分かっているが、身体が追いつかない。本棚を探すが、なかなか地図が見つからなかった。同じ場所を何度も見直してしまう。


「にゃー(どこ探してんのさ)」


 声をする方を見ると、ヴァーズが肉球で地図が挟まった本を取り出していた。


「ヴァーズ! ありがとう!」


レーベンは思い切り頭を撫で感謝を伝えた、


「よし、ありがとう。その後は自分がやるから、もしいなければ呼んで。住所と名前が間違ってなければお客さんに『ありがとうございました』でおしまい。あ、お金は届け先でもらうからね」


「ありがとうございま……した……」


「ありやとやしたー」


「……ツバサちゃんは変な癖があるな……」


「父のマネなんですが……」


「面白いからいっか! じゃあ、お店開けるよー」


レーベンは、また胸の鼓動が早くなるのを感じていた。今度は本物のお客さんが来ると思うと、また体が震え始めていた。


 怖い。


 その思いが溢れ始めた時だった。


 右手に人の体温を感じた。


 見ると、ツバサがレーベンの手を握っていた。


 「ね、緊張しちゃうね」


 ツバサの顔は、頑張ろうという気持ちと不安な気持ちが入り混じった、とても不安定な表情だった。


 (ツバサちゃんもこんなに緊張してるんだ)


 そう思ったレーベンは、


「ほんとだね。一緒に頑張ろうね」


 と言い、ツバサの手を強く握り返した。


 手の汗がーーー伝わる。


 二人の震えが止まった。


 扉が開いていく。朝の日差しが二人を包む。


 いよいよ二人の新しい1日が始まるのだった。

読んでいただき本当にありがとうございます。どうかここまでの評価をいただけるとありがたいです。どうぞよろしくお願いいたします。

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