新人と自己紹介
「はじめまして、ヴェルト・ツバサです。年齢は15歳。ツバサって呼んでくれると嬉しいです。どうぞよろしくお願いします」
大きな体に明るい声。やっぱり自分とは正反対だなとレーベンはうなだれた。初めて会った時に挨拶はしたものの、その後、食事から就寝するまで一言たりとも話すことが出来なかった。さらに、朝食とリアンの自宅から職場までの移動時間にすら話をしていない。「おはよう」と挨拶を交わしただけだった。
「こんにちは」と「おはよう」この二つの言葉が二人の間で交わされた全てであった。これにはもちろん理由があった。レーベンは、とりわけ同世代の人と話すのが苦手であった。
「レーベン・デ・オルフェ……です。15歳。よろしく……です」
レーベンは小さな声を震わせながら自己紹介をした。声は風に流されてしまいそうなほど弱弱しいが、彼女とっての精一杯だった。
そんな二人の自己紹介を見ていたリアンは嬉しそうに頷く。
「改めてよろしくね。知っての通り、うちの名前はリアン・オリエント。このネオ郵便局の局長をやってるよ。んで、こっちの子は先輩のシュガー」
リアンはそう言うと、小さな体を目一杯伸ばし、隣に立っていた女性に自己紹介をするよう促した。
「あー、自分はラゴム・シュガーだ。ここで働いて14年くらいだ。よろしく」
女性は少し気だるげに言った。
ツバサよりさらに身長が高く、まるでモデルのようなスラリとした体形。そして、背中まで伸びた黒髪と、少し釣り目がちな大きな目が特徴的な女性だった。
「年齢は29歳だよ」
「局長……うるさいよ」
気だるげな雰囲気とは裏腹に、いかにも仕事が出来る女性という雰囲気を醸し出していた。レーベンはちょっと怖いなと思った。
「他に言いたいことあるんじゃない?」
リアンが笑顔でツッコミを入れ、ポンポンとシュガーの肩を軽く叩いた。
「あーーー……。ない―――と言いたいところが。そこに座っている猫ちゃんは誰の飼い猫だ?」
「……」
レーベンは恐る恐る手を上げた。もしかしたら怒られるのではないかと思ったからだ。
ヴァーズが行きたそうな顔をしていたこともあって、レーベンはリアンにお願いをして許可をとっていた。ただ、やっぱり職場に猫はよくないのだとレーベンは思った。
「あ、あとで触らせてくれないか……」
「にゃ!(なんだそれ!)」
シュガーは少し頬を染めながら恥ずかしそうに言った。先ほどまでの『デキる女性』の姿はなく、背中を少し丸め、申し訳なさそうにレーベンに問いかけている。
その予想外の申し出にレーベンは少し困惑してしまった。
断る理由もないので、レーベンは困惑を抱えたままコクリと頷いた。もしかしたら、見た目の印象より怖い人ではないのかなと思った。
「にゃ~(やっぱり拒否権はないのか)」
「ごめんねヴァーズ」
シュガーを怖いと思ったのはツバサも同様であった。シュガーの自己紹介から、内心ずっとドキドキしていた。緊張しすぎて、この職場に猫が紛れ込んでいるのに今気付いたくらいだった。
「助かる」
シュガーが深々と頭を下げお礼をした。
「よかったねえ。シュガーずっと気にしてたもんね」
「ずっとは……気にしてない」
「猫、大好きだもんねえ」
「きょ、局長も好きだろ。私だけじゃない!」
「素直じゃないねえ。まあ、ヴァーズを連れてきたかいがあったよ。シュガーの面白い表情も見れたしね! よーし仕事はじめるよー。シュガーが先生だから教えてもらってね」
「あー…まったくそういう……。まあいい……。じゃあ、二人ともついてきな。朝一の仕事を教えるから」
「は……はい」
「はい!」
レーベンとツバサは返事をし、速足で奥の部屋に消えていくシュガーの後を追いかけた。
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