元令嬢と旅と新たな出会い
翌日朝。
早速、レーベンが働くことになるネオの郵便局へ向かうことになった。
「普通郵便の箱はそこに置いておいてね。急ぎの郵便は奥の方」
「はいっ! よいしょっと」
レーベンは箱を持ち上げ馬車に乗せる。昨晩と今日の朝にしっかりと食事をしたこともあって、体力が回復していた。
「綺麗なお洋服って嬉しいな」
何よりレーベンの心を躍らせたのは、この青のワンピースだ。リアンからもらった数ある服の一つだった。
作業用の女性の服であり、余計な装飾が一切ない。機能性に特化したワンピースであったが、レーベンにとっては綺麗な服であるということが嬉しかった。
今日はゆっくりしていいとリアンから言われたが、昨晩お風呂や食事、そしてリアンの家に泊まったこともあり、レーベン自ら手伝いを申し出たのだった。
リアンがここで生活するために持ってきていた書物や服、雑貨はもう既に乗せ終わっていた。今はフウドリアからネオ経由の郵便物を預かっているところだった
ヴァーズは手伝えることがもちろんない。そのため馬に挨拶をしていた。
「にゃん!(今日はよろしくな)」
「ヒヒン(まかせろ)」
ヴァーズは馬の頭に乗っかり出発を待った。やることが本当にないのだ。
「こんなものかな」
パンパンと手の埃を落とし、リアンが荷物を確認した。
「ちょっと待ってくれリアン、郵便追跡の魔法陣の紙を追加でくれないか?」
少し老けた男性の郵便局員が慌てて飛び出してきた。
「あれ? 昨日補充したよ?」
「さっき追跡手紙の注文が多く入ってしまったんだよ」
「あーそういうこと。局長も大変だね。今出すからちょっと待ってね」
「悪い」
そんなやり取りをレーベンは関心して眺めていた。
****
馬車が出発したのはお昼が少し過ぎた頃だった。
「じゃあ気を付けて。今年ある全国の集まりで会おう。ちゃんと来いよ」
「気が向いたらね」
手を振る局長に見送られながら出発した。
「はい、食事。お昼遅くなっちゃたね」
馬を操りながらリアンは植物の葉で包まれたお弁当を取り出し、中でヴァーズのお腹を撫でまわして遊んでいたレーベンに手渡した。
「ありがとう。何かな」
「にゃ……(もっと撫でて……)」
レーベンがワクワクしながら葉を開くと、中には溢れんばかり肉をパンで挟んだサンドイッチが出てきた。
「すごく美味しそう! お肉がいっぱい」
「この辺りで有名な羊肉だよ、クセがないし、柔らかくて旨いんだ。ヴァーズにはこっちあげて」
「にゃん!!(おお! めっちゃうまそうだ!!! リアンありがとう!!)」
「喜んでるねえ」
羊肉であることは匂いで分かっていたヴァーズは、受け取った弁当に飛び込んでいった。その様子を二人は笑顔で眺めた。
レーベンは小さい口で、葉の周りに広がった羊肉を、恥ずかしそうに拾い上げなら食べ始めた。
「違うっ違うっ」
そんな遠慮がちに食事をするレーベンを見かねたリアンが言った。
「いい? よく見てなよ~」
小さい身体に似合わないほど大きな口を開け、サンドイッチにガブリと嚙みついた。
「ほうはっ!みはか!(どうだ見たか)」
汚した口を襟袖で豪快に拭い、さらに楽しそうに笑った。
「す、すごい……!」
リアンよりは身長があるレーベンであるが(140㎝代の勝負ではあるが)、口のサイズ比べではリアンの圧勝だった。
レーベンは思い切り口を開けて頬張った。
しかし、サンドイッチの端っこを噛むのがやっとで、後ろから肉が少しはみ出てしまった。
「おいひいれす……(おいしいです)」
一生懸命に口を動かし、ゴクリとなんとか飲み込んだ。
「ちょっと甘くて、ちょっと酸っぱい……。こんなソース初めて食べた……」
「さすがお姫様。いい舌してるね。そのソースは最近外の国から入って来たトマトって植物を塩や砂糖とかで煮詰めたソースなんだよ。美味しいからネオで流行ってるんだ」
「こんに美味しいのがあるんだ……。お肉に合う」
「でしょ? ネオには他にも珍しい食べ物がいっぱいあるよ」
「たのひみふぁなあ……」
レーベンは口をモグモグとさせながら答えた。
***
旅は順調に進み、中間地点であるカロ湖のほとりに到着した。日は落ちかけており、夕日が湖を赤く染めていた。
「お疲れさま」
道中二度ほど馬の交換があり、この馬は三頭目だった。レーベンは労をねぎらい優しく頭を撫でた。
「お馬さんって早いなあ」
「にゃ~ん(目が回りそうだった)」
「ただの馬じゃないしね。輸送用に魔物の血を混ぜたハイブリット種で、早いだけじゃなくて、長い距離も走れるし悪路にも強い」
「すごい! 無敵だね」
「そそ。さて、日が沈む前ささっとテント立てちゃうよ」
「はーい」
レーベンはリアンに教わりながらテントを立て、焚火を作り、食事の準備をした。今日一日の出来事は、全てが初めての経験だった。
食事を終え、他愛ない会話をし終えると、レーベンはヴァーズを抱きかかえたまま電池が切れたように眠ってしまった。
「さてと」
リアンはレーベンに毛布をかけると、魔物よけの魔法陣の確認作業を始めた。
この世界から魔力の元である『マナ』が減少を始めてから数百年が経過した。現在、マナは絶滅の危機に瀕していた。
魔術師が体内や空気中にあるマナを使い、自在に魔法を使用する時代は遥か昔のこととなっていた。
現在の魔法は、限られた人種(例えばエルフ)がわずかに残った体内のマナを使用して、紙と文字で記した魔法陣を媒介に使用する方法だけだった。
使用用途も、もはや戦いで人を殺めたり人を癒すような破壊的で神秘性な要素は一切なくなってしまった。
この魔法も、魔物が少なくなり本来の用途として使われることが少なくなったが、野盗避けとして重宝されていた。不審な人間が近づくと使用者に知らせてくれるだけの魔法だった。
「これだけ魔力が残ってるなら朝まで大丈夫かな」
リアンはメシ国でも数少ない魔法を使うことが出来る人間だった。
****
翌日の正午頃、二人と一匹は目的地のネオに到着した。リアンの自宅は中心市街地から少しだけ離れている場所だった。
雨が強く降っていることもあり、新たな街に感動する暇もなく荷下ろしを開始した。
ふと―――レーベンとヴァーズは人影に気付いた。
「にゃにゃ?(誰かいるぞ?)」
「こ……こんにちは………」
レーベンは喉の奥から必死に言葉を絞り出した。初めて会う人はやはり怖かった。
「こんにちは」
姿を現した少女はニッコリと微笑み挨拶を返した。
少し茶色ががったショートカットで、レーベンより身長は10㎝以上高く160㎝くらい。体格はもちろんのこと、特に胸周りはメロンとまな板くらいの差があった。
(おっきい女の子だな……)
「にゃ……(おっぱいがすげえでかい……)」
とレーベンとヴァーズは思った。
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