フェンリル①
「あ、頭が痛い……」
シュガーが頭を抱えて机に突っ伏していた。
午前中の繁忙時間を終え、午後の郵便局内はゆるい空気が流れていた。
「コーヒーもう一杯飲みますか……?」
レーベンはシュガーが前に淹れたばかりのコーヒーを置いた。
「うう……ありがとう……」
燃え尽きそうな声でシュガーが答えた。
(シュガーさんって見かけによらず意外とポンコツなのでは?)
とツバサはその様子を見ながら思ったが、あえて口には出さなかった。
ツバサは抱いていたヴァーズのあご下のプニッとした部分ををいじり倒している。ヴァーズも気持ち良さそうに目を細めていた。
「ただいまー。今戻ったよー」
「「おかえりなさい!」」
レーベンとツバサはリアンを出迎えた。
「配達……お……おつかれ……」
「まーだ二日酔い治らないのか~。昨日調子にのって飲みすぎだったんだよ」
「うう……申し訳ない」
「いいよ」
リアンはシュガーの頭をぽんぽんと軽く叩いた。
「ん? あれって……」
レーベンは局舎の外の大きな影に気付いた。その謎の物体をリアンに聞こうとした瞬間だった。
「フェンリルだ!!!」
その言葉とともに勢いよく局舎を飛び出したのはツバサだった。
「にゃ~!!(いきなり離すな!!)」
眠りかけていたヴァーズはツバサの突然の行動に驚きひっくり返った。
「あれ? 『ウル』をここに連れてくるなんて珍しいね」
シュガーが不思議そうに聞いた。
「ははは、いや、ちょっと忘れ物をね」
リアンは照れくさそうに答えた。
「なるほどね。せっかくだし、ウルを二人に紹介するか」
よいしょとシュガーが重い腰を上げた。
「ウ、『ウル』ってフェンリルなんですか?」
レーベンは昨夜ツバサの「フェンリルを操る赤魔女は地精霊と呼ばれる」という言葉を思い出していた。
「そうだよ。私達の相棒だ」
***
局舎の外には、ピンと背筋を伸ばす、ご主人様の戻りを待つウルの姿があった。
「うわー! すごいなあ! 本物だ!!」
ツバサは少し離れたところから様子を伺いつつ歓声をあげていた。人が一人乗れるほどの大きさと、鋭い目と牙をのぞかせているため怖くて近寄ることが出来なかった。
「レーベンちゃんはフェンリルを見るのは初めて?」
ウルはシュガーの声に反応して耳をピンと立てた。
「は、はい。もっと小さな……混合種って言うんですかね……。それなら見たことがあります」
「あーわんちゃん系だね。ペット用に改良されたやつだ。この子は昔ながらの魔物だね」
リアンがそう言いながらウルに近づくと、尻尾を振りながら頭を地面につけた。「よしよし」とリアンが頭を撫でた。
「あたしも撫でても大丈夫ですか!!?」
様子をうかがっていたツバサがリアンに問いかけた。
「もちろん。いいよねウル」
「ぐるる……」
先ほどのまでの厳しい目つきはなくなり、優しい目に変わった。
ツバサは恐る恐る背中を撫でた。モフモフとした感触がなんとも言えず、何度も何度もその感触を確かめながら撫で続けた。
「レーベンちゃんも撫でててきな。かわいいから」
触りたそうにウズウズしていたレーベンを見て、シュガーが背中を押した。
「は、はい!」
シュガーにうながされ、レーベンはウルに駆け寄った。近くで見ると、やはりウルは少し怖かった。優しい目になっているとは言え、大きな口と牙の存在感が凄い。レーベンは背中すらも躊躇し、ウルのお尻近くを撫でた。
「ふわふわだぁ……」
あまりの気持ちよさにレーベンは蕩けそうになった。ヴァーズもモフモフ度を100とすると、150くらいはあると思った。
「ガル…」
ウルが、二人が気づかないほどの小さな声をあげた。
「にゃ(俺もよろしく頼むよ)」
ヴァーズが近づいたことにウルが反応したのだった。
「グルゥ?(猫か? いや…なんとも不思議な気配だ)」
「にゃにゃ(分かるのか。どうやら転生前は人間だったらしい)」
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