新人と赤魔女②
「ここがネオの中心、キューマル広場だよ。大聖堂の一番上に大きな鐘楼があってね、観光客はみんなそれを見に来てる感じだね。ツバサちゃんはよく知ってると思うけど」
リアンは大聖堂を指さしながらレーベンとツバサに説明をした。
「それが地元過ぎると意外と来ないんですよ! 子供の時に見たきりでしたけど、大人になるとまた違って見えますね。でっかくてすごいです」
「私も子供の時に一度だけ見た記憶があるんですが……。ちょっと忘れちゃいました」
二人は小動物のようにキョロキョロと落ち着かなかった。見るもの全てが驚きに満ちていた。
『あれ、赤魔女さんじゃない?』『かわいい! 本物を見れると思わなかった』『お仕事中かな』
レーベンは周囲の観光客が自分たちの話をしていることに気が付いた。
「え……、えへへ……」
とりあえずリアンに言われたように、レーベンは慣れない笑顔で手を振って答えた。
『すごい緊張してる! 新人さんかな?』『がんばれー新人さん!』
そんな励ましの声が、なんともくすぐったかった。
一方、ツバサも頑張って手を振っていた。慣れないのはレーベンと同じであったが、体全体を使って大きく手を振っているため、遠くの観光客の反応も多かった。
「ちょっと人が集まってきちゃうから広場から離れようか。走るぞ~」
スルスルと人ごみをすり抜けながら走るリアンを、二人は必死になって追いかけた。
****
広場を脱出した二人は、再び細い路地に入った。
「また道がすごく狭くなった。水路も多いし、不思議な街ですね……」
レーベンはリアンに話しかけた。
「水路を使って小舟や魔物に乗って移動するのが普通だからね。ほら、今船が入って来たでしょ」
「ほんとだ……。ツバサちゃんの家の周りもこんな雰囲気なの?」
「うちの周りには水路はないね。海からかなり離れてるから。こんな感じなのは、海に近い場所や本島だけなんだよ」
「そうなんだ。おもしろいね」
二人の会話が弾む。リアンはそんな二人を微笑ましく見ていた。
「さてお嬢さん方。お仕事の時間だよ」
リアンはそう言うと、持ってきた地図を広げた。
「この辺りで三件配達するからね。まずはこの家から。手本を見せるよ」
持っていた杖をレーベンに預け、リアンは鞄から手紙を取り出した。
「これは普通のお手紙ね。記録とか残らないやつで、一番基本的なサービス」
手紙を二人に見せた後、リアンは扉をノックした。
「はーい」
扉から出てきたのは赤ちゃんを抱いた若奥様だった。
「こんにちは。ネオ郵便局です。お手紙を届けに参りました」
「いつもありがとうございます。主人からですよね。今お金を持ってきます」
奥様のパタパタと小走りをする音が家の中から響く。
しばらくすると、再び扉が開いた。
「お待たせしました。500Gの銀貨1枚ですよね」
「たしかに。ありがとうございます」
「ふふ、今日は三人なんですね。シュガーさんでもないですし、新人さんですか?」
「新しく入ったレーベンとツバサです。今後ともどうぞお見知りおきを。なんと、記念すべき初配達です」
「あら、光栄だわ。これからもよろしくね」
レーベンとツバサは流されるまま挨拶をし、奥様が抱っこしていた赤ちゃんと一通り戯れた。
「赤ちゃんかわいいね……」
「かわいい!!」
****
二件目はレーベンが配達をすることになった。
相手は紳士的なおじさまであった。しかし、人見知りからくる緊張のせいもあり、手紙を落とし、お金を落とした。
「ごごごごごごごごご……?」
「ありがとうございましゅ…!!!」
言葉を噛む、頭が真っ白になり何度も会話が止まるなどボロボロの内容であった。
「かわいい赤魔女さん。これからも頑張ってくださいね」
ニッコリと微笑む老紳士にレーベンは救われたのだった。
「ま、窓口の時はもう少し上手にできたのに……」
「おじさん上機嫌だし、成功成功」
リアンは落ち込んでいるレーベンの頭を撫で励ました。
三件目はツバサだった。
相手は穏やかな老婆だった。
ツバサも緊張しいではあったが、こと今回に関しては大きな失敗もなく上手くいった。強いて言えば、
「そんなかわいいお洋服、もう少し若ければ来てみたかったねえ」
という老婆の問いかけに言葉が詰まり、リアンに助けを求めたくらいだった。
こうして初めての配達は無事全て終えたのだった。
その後はいくつか配達とお客さんとのお喋りを続け、気付けば日が傾き始めていた。帰り道にレーベンは一つの疑問を抱いた。
「リアンさん……この杖って何に使うんですか? いらないんじゃあ……」
ずっと使いどころが分からず、オシャレ以外に意味を見出せない逸品だった。
レーベンからすれば、手紙とお金を落とした原因の9割はこいつのせいだと思っていた。ちょっとプンプンなお怒り案件である。
「あははは! 説明忘れてた。それ、防御魔法が仕込んであるから忘れずに持ち歩いてね」
思いがけない回答にレーベンは目を丸くして驚いた。
「な、なんでですか……?」
「今お金持ってるじゃん? この辺りは悪い人がいないから大丈夫だけど、念のため。あと絶対一人では配達させないから安心してね」
「わ……わかりました」
ちょっと怖いなとレーベンは思い、ツバサの方を見た。どうやらツバサも怖かったようで、ばっちりと目が合ってしまった。
恥ずかしくて二人の顔は真っ赤になった。
郵便局の前ではヴァーズが三人の帰りを待っていた。
「にゃ~にゃ~(早く風呂いこうぜ~)」
昼間中寝続けたため、元気が有り余っている子猫がそこにいた。
読んでいただきありがとうございます。前半部の改稿を行いました。




