新人と赤魔女①
昼食を食べ終え、片づけが全て終わった頃、ちょうど教会の鐘が鳴った。
「さて、午後はうちが教えるからね。まず、これに着替えて」
リアンは赤の麦わら帽子と白のドレスを二人に手渡した。
「これっ! これに憧れてたんです!」
ツバサは嬉しそうにドレスを広げ、鏡の前に向かていった。
「配達用の服だよ。いいでしょ」
リアンはレーベンに言った。
「そうなんですね……。こんなにかわいい服を着てお手紙を配達していたなんて知らなかったです」
「この街だけだからね。うちが考えたんだっ!」
「すごい……」
「もっと褒めて」
リアンはムンと胸を張った。この仕草はリアンの癖なのだろう。
「レーベンちゃん! た、助けて!」
声がする方を振り向くと、ピッチピチなドレスを着たツバサが苦しんでいた。ドレスは、かわいそうにも、今にも張り裂けそうな勢いであった。
「サ、サイズが……あってないんだね…!」
「ごめん! もう一つサイズが大きいやつだった」
レーベンとリアンは慌ててかけより、ツバサがドレスを脱ぐのを手伝った。
***
「ちょっと別のサイズ探してくる」とリアンは階段を降りていった。
「あたし待ってるから、先に着替えちゃっていいよ」
ツバサはそう言うと、大きな体を小さく屈め、ちょこんと体育座りをした。着替えず下着姿のままなのは、少しものぐさなツバサの性格が良く出ていた。
レーベンは、着替えている姿を見られ続けるのは少し抵抗があったが、「見ないで……!」と伝えることの方が勇気がいるため、諦めて観賞用になることを決めた。それでも、ただで下着は見せまいと、手を足を利用して隠すように必死に着替え続けた。
「わー!!! かわいい!!!! なんというか。うん! うん! すっごいかわいい」
相変わらず語彙を失うツバサであった。それでもレーベンは、褒めちぎられたことで顔を真っ赤にして喜んだ。白のドレスのスカートをヒラリとひるがえす。
「えへへ……そうかな」
「うん!! あたしが憧れた『赤魔女さん』そのものだよ!」
「あ、あかまじょ……?」
「そう! この街の郵便屋さんはみんなから『赤魔女さん』って呼ばれてるんだよ。みんなが使えない魔法も使ってるのもあるけど、配達用の服が魔女みたいでかわいいからね! この後、杖と鞄をもらえると思うよ」
「へえ……そうなんだ……」
レーベンはもう一度鏡の前でクルリと回った。早く外に行きたい衝動にかられた。ワクワクしていた。
「新しいドレス持ってきたよ~って、レーベンちゃんかわいいね。やっぱり似合ってる」
一階から上がって来たリアンはツバサに新しいドレスを手渡した。
「ん?………」
何かに気付いたリアンは頭を抱えた。
「ごめん、もう一回下に行ってくるわ。レーベンちゃん、申し訳ないけど、全部服脱ぐつもりで待ってて」
「え……なんでですか?」
「あ! 下着だ! すっごい派手な下着がちょっと透けてる!!」
ツバサはレーベンを鏡の前に連れて行った。さっきは浮かれていて気が付かなかったが、よく見ると、白のドレスの下に、うっすらと下着のシルエットが見えた。派手目に装飾された下着であることがしっかりと確認できる。
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「レーベンちゃん、結構派手好きなんだね」
「ち、ち、ち、ち、違うの!!! これはリアンさんから今日もらった下着でええええええ!!!! いつもはもっと地味なやつでえええええええ!! 普通の白なの!!!
いつもは!!!」
レーベンは目をグルグルと回し、顔を真っ赤にし、伝えなくてもいい情報まで伝えるほど混乱してしまった。恥ずかしさのレベルは100に達していた。
服の持ち合わせがなかったレーベンは、服を一式リアンからもらっていた。しかし、寝起きでぼんやりと着替えをしていたレーベンは、誤って派手な下着を選択したことに気付かなかった。
「好みは人それぞれだし、それもかっこいいと思うよ!」
ツバサが親指を立て、『いいね』と伝えた。
「ちがうってーーーーーーーーーー!!!!!!」
レーベンはツバサの腕で掴み、子供が買い物の駄々をこねるように訴えた。
****
「まだ行ってなかったのかよ」
暇そうにヴァーズの頭を撫でていたシュガーは呆れながら言った。一階の郵便局の窓口は、午前中の来客が嘘のように閑散としていた。
「ちょっとバタバタしててね。お留守番頼んだよ」
「おっけー。まあいつも通り暇だと思うけど」
「全然お客さん来ないようだったらお店閉めちゃって。先にお風呂に行ってていいから」
「一杯やってるわ。しかし―――赤魔女も三人揃うとなかなか見ごたえあるねえ」
シュガーは、二階から降りてきた二人とリアンの配達姿を見てしみじみと言った。
「金髪のちっちゃい局長に、茶髪のおっきい新人と銀髪のやっぱり小さい新人。そして自分は黒髪か。赤魔女も色鮮やになったもんだ」
「ねっ、今度四人並んで絵描き屋さんに似顔絵でも描いてもらおうか?」
「それいいな。おっと、遅くなっちゃうといけないから早く行きな」
「いってきま~す」
***
郵便局を出ると、太陽はまだまだ空高く、少し暑いくらいであった。
「わ~『あかまじょ』さんだ~」「おしごとがんばれ~」「すっごくかわいいね」近くにいた5歳くらいの双子の女の子が手を振っている。リアンは「ありがとう、がんばるよ」と声をかけると、一緒にいた母親も嬉しそうに会釈をした。
「見たことない双子ちゃんだね。観光客かな」
「かわいいですね……」
「うん! 双子ちゃんかわいい!」
「けっこうな頻度で声をかけられると思うから、あんな感じで挨拶してあげてね。すっごく喜ぶから」
三人は広場を目指して歩いた。潮の香が鼻をくすぐる。海が近い証拠だった。馬車も通るのが難しいほどの狭い路地裏を通り抜け、水路を渡る。
そしてさらに路地を抜けると―――ネオを代表する大聖堂が姿を現した。大聖堂の前の広場では、あふれんばかりの観光客で賑わっていた。
「お、おっきい教会だなあ……」
レーベンは口をあんぐりと開け、教会を見上げた。
空は蒼く、海風が三人の髪を撫でた。
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