婚約破棄から始まる物語~事件の全貌と前日譚にかわる短編~
伯爵付き事務官の男性二人が話をしている。
「サタディ卿の御令息とオルフェ卿の御令嬢の婚約が破棄されたようだ」
椅子に腰かけた上司の男が言った。
「ええ! とんでもないニュースじゃないですか」
驚いた部下の男は仕事の手を止め、上司の顔を見た。
「ああ。サタディ卿の御令息から断りを入れたそうだ」
「婚約までしておいて……ひどい奴ですね」
「いや、そうでもないらしい。どうもオルフェ卿の御令嬢はそもそも婚約したことすらしらなかったそうだ」
「知らないってどういうことですか? 婚約してたんですよね?」
「どうも政略結婚だったようだな。書類だけ動いていた」
「うへえ……」
「メシ国王の、遠くとは言え親族関係にあるオルフェ卿に、国王との繋がりが欲しいサタディ卿が近づいたのが最初ということだ」
「その話だと、よくオルフェ卿が承諾しましたね。御令嬢を嫁に出してもメリットがない」
「外部から見ればそうだろうが―――俺もだが、お前もなんとなく分かるだろう?」
「あ……ああ……確かに……メリットありますねえ」
「このフウドリア地区内においてオルフェ卿の力が弱まっているからな……この地区で絶大な力を持つサタディ卿に近づきたかったのだろう」
「オルフェ卿、何年も一緒に仕事させてもらってるから言えますけど、めっちゃいい人なんですけどね……」
「だが、いい人では上にはいけない。オルフェ卿のメリットだって想像でしかないが、長年オルフェ卿に仕えた私から言わせてもらえば、そんな政略をするか方ではない。ただ―――」
「ただ?」
「権力―――つまり影響力が落ちているというのは事実だ。上の立つ者にとって権力の失墜は死と同義だ。政略に走ったのも理解できる」
「なるほど……。なんか仕事やりづらいですね。オルフェ卿が来たらなんて声をかけたらいいんですかね?」
「オルフェ卿はもうここには来ない。手続きが済み次第、子爵の身分はく奪される」
「ええ! どうして!?」
「本当は死罪だった。サタディ卿の厚意ということで、身分はく奪による平民堕ちですんだ」
「……なんかおかしくないですか? ただ政略結婚が失敗しただけの話ですよね?」
「言いたいことは分かる。本来、どちらが悪いという問題ではない。だが、サタディ卿の御令息を利用しようとした事実は残った。実際に御令息はお怒りだからな。だから婚約も破棄している。当事者間の話し合いで終わればよかったのだが、オルフェ卿と敵対する貴族にサタディ卿の失墜を狙った策略だと騒がれてしまった」
「え、最初に近づいたのは……」
「言うな。そこは上下関係だ。悲しい話ではあるが、失態の責任は下の人間が取る。下手をすれば王家に取り入ろうとすればサタディ卿もただでは済まない。子爵として、サタディ伯爵に仕えてきたオルフェ卿の最後の仕事だったのだろう。彼は素直に罪を認めたそうだ」
「そんな……」
「いい話と悪い話がある」
「……」
「まずいい話からしよう。噂では、裏で第四王子が動いたという話がある」
「王子が? 遠いとはいえ、親族関係が残ってるからですか?」
「それもあるだろう。ただ、この件で王家の動きは鈍かった。影響力が落ちるとはそういうことだ。もちろん死刑にならなかったのは王家の働きかけではあった。ただ、そこまでが限界だったようだ。そこから先、一家終身刑もありえた状況で、オルフェ卿の子爵の称号はく奪、そして『最低限の自由による平民化』まで勝ち取ったのが第四王子らしい」
「そうだったんですね……一度お見かけしたことがありますが、16歳とは思えない落ち着きと、顔がかなりいいという記憶があります」
「どうもレーベン嬢に好意をよせていたなんて話がある。オルフェ卿の御令嬢なんて、無口で愛想もないのになんで気に入ったのかみんな不思議がっていた」
「かっこいいですね。それなら御令嬢と結婚なんて展開もありえるかもしれませんね」
「そこで悪い話だ」
「?」
「第4王子は―――3カ月前から行方不明だ。公式にはもちろん伏せられている。絶対に他言するなよ」
「ええ……まさか……」
「そう、そのまさかだ。すでに近衛兵によって実行犯が捕まっている。さらに、この事件を主導した貴族は特定されていて、フウドリア憲兵の監視状態にあるという話だ。捕らえられるのも時間の問題だろうとも言われている。王子が手紙を残してくれていたおかげだそうだ」
「終わりですねその貴族。ざまあない。それより、王子は大丈夫なんでしょうか?」
「……分からない。残念だが、すでに死亡しているという噂もある」
「そうなんですね……」
「さてと」
上司の男は立ち上がり背伸びをした。
「今回は見逃されたが、今後サタディ卿だってどうなるか分からない。事務官である俺達の仕事にも影響があるだろうな」
「そうか……あー……。異動くらいですめばいいなあ。新しい仕事探しておこうかな」
「人生何があるか分からないからな。一寸先は闇だ。とりあえず今日の仕事を始めるぞ。サタディ卿がいらっしゃるかもしれないしな」
「はい」
部下の男はうなだれながら返事をした。
読んでいただきありがとうございます。




