8.癒しの村のしきたり
紗羅さんは、イエス・キリスト像を仰ぐように見ながら、ゆっくりと話し出した。
「この癒しの村は、社会では生きていけない人たちが、助け合って暮らしています。お金という流通はなく、基本的に自給自足で、誰もが自分が人にできることを負担がないように行ってます」
私は、紗羅さんの言葉を一言一言、逃さないように聞いた。
頭の中は、どういうことなのか理解しようと、くるくると猛回転している。
「慈善集団ってこと?」
アキヲは、神経質そうに足を揺らしながら聞いた。
「慈善団体のように、恵まれない人に支援をしているわけではありません。この村に来た人は、村のしきたりに共感して残っているのです」
紗羅さんは、アキヲの方を振り向き、諭すように話した。
「この村にいるには、俺たちも、誰かのために、働かないといけないってことだよね」
アキヲはぶっきらぼうに呟く。
「この村にいるか、去るかは、あなた方の自由です。ただ、この村にいるならば、しきたりを守っていただきたい」
「私が誰かのためできることなんて、わからない。あるのかしら」
私は、村のしきたりに従うことに、抵抗はなかった。
ただ、自分に何ができるのかわからなかった。
「リサさん、大丈夫よ。村のある人は、村人のために畑を耕したり、ある人は、動けない人の看病をしたり、あなた方がお世話になっている、佐藤さん一家は、村に来る旅人の宿泊のお世話をしています」
紗羅さんの話から、ナミの家族が佐藤さん一家であることがわかる。
盲目の佐藤さん一家。社会で辛いことでもあり、癒しの村にやって来たのだろうか。
「わかりました。私ができること、探してみます」
私は、そんなに難しいことをしなくても良いのだと知り、安堵する。
「アキヲは、どうするの?」
私はアキヲをちらっと見て聞いた。やはり、目を合わせてくれない。
「行くとこがないんだ。ここにいるしかなだろう」
アキヲは、皮肉そうに笑って言う。村のしきたりに従うことが、本意ではないのだろう。
「神のご加護を。私はいつでも相談にのるので、好きなときに来てください」
紗羅さんは私たちの頬にキスをして、教会から出て行った。
紗羅さんからキスされた頬から、温かいものが感じられた。
私は、この村のしきたりが、嫌ではないようだった。
「とりあえず、何したらいいか、宿に戻って考えようぜ」
アキヲは前髪を揺らし、不機嫌そうな表情で言った。
しばらくアキヲと共同生活をするのだと思うと、自然と胸が高鳴ってくる。
面長で長身、リーダータイプで、理系男子のアキヲは、私のタイプの人だった。
「私、もう少し癒しの村を散歩したいわ」
どんな人がいるのか、興味があった。
この村の人々は、みな、誰かのために、働いている。
自分のことだけ考えている、今までの人たちと、違うように感じられる。
「どこに誰がいるかわからないだろう。戻って、ナミに聞こう」
アキヲは、紗羅さんに聞くよりも、ナミと話したいみたいであった。
おそらく、子どもであるので、心を許せるのだろう。
「わかった。一回宿に戻ろう」
私はアキヲの気持ちがわかり、心よく返事をした。