表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
癒しの村 プロローグ  作者: yuriko
6/33

5.境界性人格性障害

 私とアキヲの夕食が終わるのを見計らったように、ナミはやって来て、客室に案内をしてくれる。


 ナミは一日の疲れがでているのか、あくびをあふあふとよくした。それでも、和室に二組の布団を敷いてくれる。


「お風呂は、炊事場の隣にあるよ。湯を沸かす薪がもったいないから、このあとすぐに入ってね」


 そう言って、素っ気なく部屋を出て行ってしまった。


 私とアキヲは、部屋に二人っきりになる。一つの部屋に寝るのだと思うと、急に緊張してくる。


「風呂入ってくれば?俺は、後でいいかな」


 アキヲも少しは緊張しているのか、口調は重かった。


 背負ってきたリュックには、一応着替え一式や歯磨き、タオルなどは入れてきていた。


 私は無言で頷き、部屋を出る。


 炊事場は、もときた通路を戻っていけば良かった。


 家は広そうに見えるが、段々と位置がわかってくる。


 炊事場が離れにあり、母屋は和室四部屋と囲炉裏の部屋、その奥に作業部屋と玄関がある。


 月光だけが、通路を照らしていた。


 歩くたびにギィギィと鳴る板は冷たい。ナミが言ったように、炊事場の隣に一つ戸があり、浴室と推測できた。


 戸を開けると、細い通路が庭へとつながっていた。


 板の壁が庭から隠すように仕切りになり、土が盛り上がった場所に土管が置かれ、薪が焼かれていた。


 夜空がよく見える。風呂場もまた、星々の光と月光だけで、照らし出されていた。


 私は流し場で服を脱ぎ、土管をまたいで湯に入った。薪で焚かれた湯は熱く、体が芯から温まってくる。


 鈍い光、輝く光、青白い光、見上げた星々も様々であった。


 

 ここまで来るのに、夢中だった。


 親の言うままに有名大学に入学した。大学に入ってからは、この先に自分が何をしたいのかがわからなくなった。


 何をするにも憂鬱で、気力がなかった。


 自分の意志が感じられなかった。


 そんな私を、周りの人は、みんな笑っているように感じられた。大学のみんなも、近所のみんなも、意志のない私を笑う、敵であった。


 家族は、妹二人に両親で五人家族だが、みんな私を馬鹿にしているように感じられた。


 なぜだろう、人が信じられない。口では良いこと言うが、裏は何を思っているのかわからない。信用も信頼もできなかった。


 だから、夜は酒を飲んだ。飲んでも飲んでも、眠くならなくて、飲めるだけ飲んだ。酔っ払い、記憶をなくしたり、知らない男が部屋にいたことなど、しょっちゅうだった。


 それでも、飲まなければ、私を陥れようと狙っている影から、逃れることができなかった。

 

 ある日、周りではなく、自分がおかしいのだとわかった。きっかけは、そのときに付き合っていた彼氏だった。


 ある日をきっかけに、彼氏と連絡がとりにくくなり、私は彼氏が浮気をしているのだと思った。私は、彼氏から先に別れを切り出される前に、新しい男を作った。


 クリスマスの日、高いブランドの指輪と花束を持って、彼氏は私の家に来た。


 指輪を買う為に、今までバイトをしていたのだと言う。私は、信じられなかった自分を愚かに感じた。そして、たぶん、わかっていても、私は同じことをしただろうと思った。


 信じられないのだ、人を。私は、人が敵だと、植え付けられている。なぜだろう、私には意志がない。幼きときから、親に従ってきた私には、自分というものがないと気づいたのも、この時だった。

 

 彼氏は私を許そうとしたが、私は、私が許せなかった。私には、愛がなかった。そのときあったのは、ちっぽけなプライドだけであった。


 私は、大学には行かずに、自分が、なぜ人を敵だと思うのか、人を信じられないのか、徹底的に精神科の本を読み、調べた。


 その結果、自分が境界性人格性障害ではないか、とわかってきた。


 酒やセックスに依存してしまうのは、自分を信じられないから。自分が信じられないから、自分の意志もなかった。


 自分の意志がないから、酒やセックスなど、何か依存しやすいものに、依存しようとする。


 そして、なぜ自分が信じられないかというと、幼少期に親に否定的に育てられ、信頼関係を築けなかったからだと専門書には書いてあった。


 だから、治療するとするなら、一番はタイムマシーンに乗り、親の信頼関係を獲得しないといけないという。それは不可能なので、じっくりカウンセリングをしていくのが望ましいという。


 私は、治療という治療がないことを知り、絶望的になった。この先、どのように生きていけばいいのかわからなかった。


 無気力だった。浴びるほど酒を飲み、翌朝、知らない男とベッドにいるたび、死にたくて、たまらなくなった。自殺サイトをながめるようになったのは、大学四年生の春頃から、進路がいよいよわからなくなったときだった。

ブックマーク、評価、よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ