4.家族との語らい
「この村のことを知りたいのですが」
アキヲは、半分ほど口をつけた皿を置き、改まったように正座に座り直した。
「この村は、不思議な村に見えるでしょう。電気が通っていないし、人の気配もなくて。この村のことは、明日、紗羅さんのところに行って聞いてください。私たちは、あなた様方をもてなすように言われただけなのです」
母親は、ひと言ひと言、ゆっくりと話す。
「紗羅さん?」
「そうです。この村のシスターです。あなた方を、この村に導いた方です」
母親は、それ以上は聞かれたくない様子で、この話題を終わらせようと、席を立とうとする素振りを見せた。
アキヲは納得していない様子であったが、それ以上は聞くことを控え、口を閉じる。
「あの、もう一つ、聞いていいですか?」
私は、母親が立ち上がりかけたところを呼び止めた。
「ええ。なんでしょう?」
嫌そうな表情なく、笑顔で頷く。
「あの、私、お金をあまり持っていなくて。宿代とか食事代とか、どれくらいかかりますか?」
気になっていたことを、思い切って聞いてみる。死ぬつもりで来たのだ。現金は、五千円もあるかないかであった。
「お金は、いりません。ここにはいたいだけいてもらって大丈夫です。食事は、簡単なものですが用意しますよ」
母親に変わり、父親が答えた。母親は、笑顔で頷いている。
「なんで、見ず知らずの他人に、そこまでしてくれるのですか?」
アキヲは、心底不思議そうに聞く。
「それは、これからわかりますよ。ただ、これだけは、知っておいてほしいです。」
父親は、言葉を切り、間を置いた。
「私たちは、あなた方の敵ではありません。大変なときは、お手伝いします。この癒しの村は、助け合いの精神が基本にあることを、覚えておいてもらえたら」
父親の眉は太く伸び、意志の強さが感じられた。綺麗事や、私たちを騙そうとしているようには見えなかった。
アキヲは、憮然とした様子で、
「とりあえず、今日はお言葉に甘えさせていただきます」
と、礼儀上頭を下げるような素振りを見せる。
両親は、満足そうに頷き、
「では、私たちはむこうで食事しますので、皿などは置いたままでけっこうですから。今日は、ゆっくり休んでくださいね」
母親はそう言って、自分たちの夕飯を鍋から皿によそい、隣の和室に行ってしまう。
ナミは一言も話さず、父と母の後ろについて行ってしまった。お金がかからないと聞いて、安心したのが本音であった。腹がすいてたまらずら私とアキヲは黙々と鍋と煮物を食べた。
ブックマーク、評価、よろしくお願いします!