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癒しの村 プロローグ  作者: yuriko
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3.鍋のご馳走

「この村、変だよな。本当に電気がないのか。今時、おかしいよな。田舎暮らしの番組でも、電気は通ってるよな」


 アキヲは、溜め息をついて、話し出した。


「でも、月が綺麗に見えるし、月光や星の光がこんなに明るいなんて、知らなかった。火の灯りも懐かしくて、温かいよ。なんだか、蛍光灯って、冷たい感じがしない?」


 私は、素直な気持ちをアキヲに話してみる。


「火が灯っていても、電気がなければはっきり見えないし、読み書きも難しい。家事になる危険もある、いつ転ぶかわからない。安全も利便性もない」


 アキヲは、馬鹿にしたように私を見下す。蛍光灯のように、冷たい光がアキヲの目の奥から感じ取れた。


「アキヲって、科学信者なの?」


 私は、冷たさに怯える心を隠したくて、茶化すように言った。


「は?いま、何世紀だと思ってるの?二十一世紀だよ。これから科学はどんどん進歩をして、鉄腕アトムみたいな世界になっていく。それが人間の進化だよ」


 アキヲは、私を言い伏せるように、早口で話す。


「そうかしら?鉄腕アトムの世界みたいに、車が浮いて空を走るなんて、今の科学では、限界があるように思うけど。それに、科学が進めば進むほど、心がおかしくなっていく人が増えている気がする」


 アキヲに負けないよう、声を高くして言う。


 なぜか、アキヲには言っていいような、気を許せる部分があった。自殺サイトを同じように見て、ここに来たという、仲間意識のようなものがあるからだろうか。


「心がおかしくなっていく?うつ病とか?それと科学が何の関係があるの」


 アキヲは眉をかしげて聞く。


「だって、機械って、無機質で、冷たいから。囲炉裏の火を見て思う。温かいって。自然のほうが、愛があるような気がする」


 私は、火の灯りに、確かにぬくもりを感じた。


「そんな抽象的なこと。リサが冷たいと感じるだけで、誰もがそう感じるわけではない。主観だよ。根拠も論理もない。リサは、囲炉裏のようか珍しいものを初めて見たから、貴重だと思い込んだだけさ」


 アキヲは鼻で笑う。


 私は根拠と言われ、それ以上は何も言えなくなる。


 確かに、火の温もりも、蛍光灯の冷たさも、私が、なんとなくそう感じるだけであった。


 私が黙ると、しんとした空気が流れる。


 そのとき、ナミが、盆を持ってやって来た。


 私とアキヲの前に茶の湯気がたつ、湯呑みが置かれる。


 ナミが、どうぞ、と言うので、私とアキヲは湯呑みを手に取り、口をつける。


 茶の熱さが全身を駆け回り、安堵の溜め息が漏れた。


 続いて、ナミの母親と父親もやって来る。父親は、囲炉裏に鍋を置き、母親は私とアキヲの前に里芋の煮物が盛り付けられた皿を置き、それぞれ囲炉裏のそばに座った。ナミも母親と父親の後ろに、ちょこんと正座する。


 葱、シイタケ、春菊、豆腐、鶏肉などが入った鍋は、煮立っている。部屋中に湯気が漂う。


 母親は、皿に鍋の具を取り分けてくれ、箸をのせて私とアキヲに渡した。


 私は、二日ぶりにまともな食事をとれるのだと思いながら、豆腐を口に入れる。


 アツアツの豆腐は、薬味の出汁がよく効いていて、美味しかった。涙が出てくるのを、抑えられなかった。


「良かったら、お酒もどうぞ。うちでつけているんですよ。少量なら、体も温まり、リラックスできますよ」


 母親は、私の涙に優しく寄り添うように、酒をついでくれる。目が見えているかのように、全ての動きがスムーズであった。梅の香りが良い、梅酒だった。私は、一気に飲み干した。


「あらあら、良い飲みっぷり。お酒は好きな口かしら?」


 母親は、声をたてて笑った。


「そうですね。眠れない時に、少し飲む習慣があります」


 私は、さしさわりなく、聞かれたことに答えた。本当は、毎晩、浴びるように飲んでいた。飲まないと、眠れないのだ。


「そうね、お酒も適量なら、楽しみね」


 母親は、頷いて、笑う。私は、適量という言葉を噛みしめながら、とても適量とは言えないお酒の量を思い浮かべる。


「食事をしたら、お風呂が沸いてます。布団も敷いてあるので、ゆっくり休んでくださいな」


 母親は、私の皿に、二杯目の、鍋の具を取り分けながら、言った。

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