癒しの村 エピローグ
アキヲが去った後、癒しの村に、霧がたちこめ始めた。
「癒しの村を囲む霧は、霧立つ成分が舞う、ラリキヌスという花があります。教会の鐘の側に植え込みがあり、そこから霧を発生させています」
紗羅さんは、濃くなっていく霧が、四方へ広がっていくのを見上げながら言った。
癒しの村へと登るときに、同じように覆われた深い霧とまったく同じだった。視界が霧に覆われて、今、自分がどこにいるのかわからなくなるのだ。
陽が傾いていく。だんだんと空の雲が厚くなり、薄暗くなっていく。あの日と一つも変わらず同じ状況だった。
「ただ、霧は自分の意思で動いているようなのです。無事に帰すも帰らさせないのも、全ては霧の意思です。私たちは、そこまで操作はできません」
紗羅さんは、次第に冷えてくる冷気に、身をすくめて話し続ける。
「アキヲは、無事に、下の世界に到着できるのでしょうか」
私は、せめて無事に到着することを願っていた。霧に迷い込み、霧の中で意識を失っていくのはあまりにも酷いと感じられた。
「それは、わかりません。すべては、意思をもつ霧のみが知っています」
紗羅さんは、十字を胸元で切りながら言った。
霧は、どんどんと濃くなっていく。
霧の中を迷い込みながらも進んでいく、アキヲの姿が脳裏に浮かび上がる。
「大丈夫、きっと大丈夫‥‥」
私は、霞んでいく霧に祈りをこめるように、何度も呟き続けた。
~完~




