29.紗羅さんの話②
紗羅さんは、私の目を見つめたまま、話の続きを話し始めた。
「重症心身障害児たちは、医療がなければ死んでしまうのです。他にも風邪など病気になる人がでて、薬が必要な人もでてきました。
初めに私が連れてきた子は、ケイジさんです。脳性麻痺で呼吸もあまり上手にできず、痰がたまってしまうので、毎日窒息の危険がありました。食事も口から食べることができず、胃瘻を作る必要がありました。緊張も強く、発作もあるため、薬が必要でした。
私は薬草作りに励みましたが、やはり現代医療には追いつきません。
山田さんと相談をして、草原の家だけは電気を通し、医療を整えようということになりました。
電気は太陽や風から発電できるように計画をしました。しかし、電気を作る工事や医療の設備費や薬代、多額のお金が必要になってきたのです。
私と山田さんは、考え、考えた結果、お金になるものを発明したのです。
いえ、品種改良に成功した、と言った方がが正しい表現です」
紗羅さんは、そこで口を閉じた。話はだいたいが終わったようだったが、肝心のプレハブの内容がわからなかった。
「品種改良?麻薬ではないの?」
私は、頭の中で話を整理しながらも、混乱をしていた。
紗羅さんがやってきたこと、やり続けていこうとしていることは、人を助けることにつながっているのだろうか。
「いえ、麻薬ではありません。この霊山だから作られるものなのです。実際に見てもらった方が良いでしょう。明日、朝早くにまた山田さんが来ます。きっと、アキヲさんは見張っているはず。早朝にまた来てください。一緒に行きましょう」
紗羅さんは、それ以上は何も言わせず、私を教会の入り口まで誘導をする。
「紗羅さん、私はまだ紗羅さんの話を理解できていません。私も精神疾患です。いつも人に見捨てられることを恐れ、時には見捨てられないように体を重ねたり、依存してしまいます。見捨てられたと思ったら、したくないのにひどく傷つける言葉を吐き、攻撃してしまう」
私は、何を伝えたいのか、何を言ったらいいのか分かっていなかった。ただ、紗羅さんに私は見捨てられることを恐れていた。
「リサさん、見捨てられ不安は、愛情の欠落からきてます。あなたは、愛に飢えているのです。大丈夫、私はあなたを見捨てません。明日、ここに来てください。待ってますから」
紗羅さんは、ロウソクを持たない手で、私の髪を優しくさわりながら告げた。
私は頷くことしかできなかった。
確かに、私は愛に飢えていた。まるで、マンホールが私の心にあって、愛を吸い続け、決して愛が満たされることはない。
私は、愛が満たされるために、酒を飲んだり男と体を重ねたり、リストカットを繰り返していたのだろうか。
宿への帰り道、なぜか行く時よりも、ロウソクの灯りが、優しく感じられた。
この村に住んでいる人々は、下界では生きられない人たちが集まっている。
私もその一人だった。
自殺サイトにメッセージを送っていたのは、紗羅さんと山田さんだった。
生きれない人たちに対する、メッセージ。それは、救いなのか、偽善なのかわからない。
ただ、私はおそらく家族のところに戻っても、生きられるないだろう。
この原始回帰の村の生活は、私の心を穏やかにしている。この生活は、科学が発達する下の世界では、得られないものであった。
だが、草原の家がある限り、癒しの村にも、一部は科学は必要なのだ。科学の全てを否定することは、間違っている。




