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癒しの村 プロローグ  作者: yuriko
23/33

23.私のとる道、アキヲのとる道

 私は、この先、癒しの村でどうしていきたいのか。頭をからっぽにして、ゆっくりと自分自身に問うてみる。

 

 この村に慣れてきて、毎日穏やかな生活を送ることができている。酒も時々、こっそりと台所に忍び込み、何杯か飲むくらいだ。


 明日の草原の家の仕事に差し支えないようにと、酒量は減っている。


 酒量が減っているから、気分が落ち込むこともない。自分が嫌になってリストカットすることもなくなった。


 ボーダーは、寛解することがあると、書物で読んだことがある。


 草原の家の仕事、村に電気やガスが通っていない原始の生活が、居心地よく感じられてきている。


 携帯がないから、誰かからの着信を待つ必要はない。返信がないからと気に病み、酒を飲む必要もない。挙句に無性に寂しくなり、男を求めて、彷徨い歩くこともない。


 この村では、その日に会った人と、話し合えば良い。寂しくなることがない。同じように、精神疾患をもつ、うつ病の人や、障害をもつ人は、私にとって身近であり、共感できる人たちでもあった。


 ボーダーという病気に、良い影響がでてきているのだ。


 だけど、依存性はまだまだ私にこびりつくように、染み付いてしまっている。


 私の意見、私の主張が、私にはわからない。


「私は、この癒しの村の生活が、気に入ってきている」


 今は、とにかく、嘘をつかないで、アキヲにそのままの気持ちを伝える。


 これも、私にとって大きな変化だった。今までは、相手の顔色を伺い、私の気持ちを押し殺し、相手が気にいるようなことを言っていた。


「麻薬を作って売る組織かもしれないんだぞ?」


 アキヲは、冷たい声で問いかける。


「まだ、決まったわけではないわ。もしかしたら、違うかもしれない」


「いや、俺はあの日から、ずっと、毎朝あの森の入り口に行って探っている。日中は畑を耕し、子どもたちの面倒を見て、時間があれば、何か異変はないかを見に行っている」


 アキヲの声は、闇に紛れても、なお透き通って私の心に響いてくる。


「それで、何かわかった?」


「いや、黒い衣をきた男が、大体は見張っているんだ。たぶん、あの寺の僧侶か、その仲間だ」


「見張っている?」


「そうだ。中に入ることが難しい。いつも荷車を持って入り、荷台に何かを詰めて出ていく。だけど、ある時、誰もいないから、森の入り口に入ることができた」


「入れたの?確か、色々な草花が植えられていた!」


「そうだ。でも調べてみたら、その草花は、ただの草花だった。珍しい木花だけど、野草や野花だろう」


「では、やっぱり麻薬とか変なものではなかったんだわ!」


「いや、でもそこから進むと、扉があった。その扉はかたく閉ざされ、鍵がかかっていた」


「鍵がかかってる?だって、森なのに、そんなことできるの?」


「プレハブみたいに、その空間だけ木の板に囲われている。空気が循環するように、小さな穴をいくつもあけている。ずいぶん、厳重に管理されているだろう。きっとその中で、麻薬を作っているんだと俺は思ってる」


 アキヲは話しつくすと、疲れたように、私から相対して寝返りを打った。


「あの霧も変だ。あの祈りの時間、みんな目を閉じていて、何も見えなかった。きっと、あのプレハブで栽培した麻薬を使って、みんなに幻想を見せたんだ」


 アキヲは確信に満ちて、きっぱりと断定をして言った。


「アキヲは、どうしたいの?」


 私は、怖いものに触れるように、恐る恐る聞いてみる。


「俺は、この村の悪事を暴いて、今まで俺がいた世界に戻る。俺は、現実から逃げていた。元いた世界の、両親や友達と向き合って、乗り越えていくべきだった」


 アキヲは、力強い声で、まるで自分に言い聞かせるように言った。


 アキヲは、この村に来て、今まで目を逸らしていたものと対峙しようとしていた。


 私が憧れる人たちは、いつもアキヲのように、逃げずに立ち向かう人たちだった。強い光を目に宿し、理不尽で冷酷な社会に立ち向かおうとする。


 私は、いつもそのような人に憧れ、そして恐れていた。


 なぜなら、私には不可能なことをしているから。私は決して、現実を乗り越えることはできないから。


 私の現実は、病気だ。


 この精神疾患からは、逃げることはできない。向き合うことだけで、精一杯だ。治療方法はない。


 社会の人々に立ち向かい、戦っていくことに何の意味があるのだろう。


 私は、私の心が穏やかになるほうに耳を傾けて、歩いていくしかないのだ。


 アキヲから、話疲れたのか、寝息が聞こえてくる。戦士の休息というのだろうか。


 月光がアキヲの背中を照らした。


 私は、月明かりに光り輝くアキヲの背中を見つめながら、アキヲのとる道と私のとる道が、だんだんと分かれていくことを予感した。


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