妹と人を殺した・5
6
彼は供述を終えると、話す気力というのを、肩越しから腕へとダラリと失っていく様にした。任せられた重量はパイプ椅子の背部へと、かけられてギシリと音を上げる。
彼はこれ以上、話さないのだと私は直感した。およそ、彼はこのまま何時間でも、上を見たままの体制を貫き、腕に痺れが来て、腐っていくまで、静止を好むのだろうと思った。
だから、こちらから話す。
「1人は嫌ですか?」
この質問に目だけがコチラを見た。こっちを見て、また上を見て、次に口が動いた。
「1人は嫌ですね。自分の行動に自信が無いので。ともすれば、自分の間違いは他人になら、もう1人なら簡単に見つける事の出来る事柄が、人生を分けかねないと思うので」
「1人で犯罪を犯すのは恐ろしいと?」
「はい、とても」
無感情に言っている様に聞こえなくも無かったが、過去語りを聞く限りの経験の私としては、その言葉に不明の信頼感を持たせられていた。
この謎の青年の真偽を分かりかねるべきであるのに、分かるつもりでいる状態から抜けるのが困難に感じられた。
「それが、このお話の隠された意味で、事件の全容なのですよね」
「さぁ、どうなのでしょう」
彼は茶化した。私は窮した。
「未解決の女子高生消滅事件がこんな全容だったとは。やれやれ、と言うしかありませんね」
「すみません、この程度で。それでどうするんですか?あなたは」
飄々《ひょうひょう》として、凛として、楽しみなんて無い様だけれど。真剣に、まるで国家資格試験に臨む様な面持ちで、ゲームをする様に彼は言った。
私は、それに軽んじた。
「そうですね、カツ丼でも用意しましょうか?三つ葉は食べる事は出来ますか?卵はどの程度?」
「ふん、面白い事を言う。この期に及んで、あなたは、警察でも無いのに」
一手、彼は全容に踏み入った。
「いえ、警察の風にすれば、盛り上がるかと思ってね。さして、そうでも無かったかな」
「取調べは勘弁ですよ。それをされない為に貴方に来ている。貴方に会いに来ている」
「会いに来ている。意外にも、1人でね」
「いえ、1人では無いですよ」
彼の手は、赤いメタリックのトランクケースに向けられる。かかるスポットライトが彼から、ケースに動き、エッジの反射が私の目を焼いた。
けれど、驚きというかが脳を侵蝕して目は一向に閉じようと出来なかった。から、言葉を代わりに繋いだ。
「そこに、居るのですね。妹が。あなたと共に、人を殺した妹が……」
「死体処理のプロフェッショナル様は至って勘が良いですね。尊敬しますよ。全く」
彼は同意をした。同意をしたから、こちらも我慢ならなかった。流れる推理が悉く、波の様に引き寄せる。
「つまりは、『妹と人を殺した』とは、ただ、その存在を殺したとか、外因で殺したとかチャチなものでは無く。直接だったのでしょう?」
「直接、妹と貴方が人を殺したのでしょう?」
「ふん、そうですよ。正解です。1人は嫌ですからね。僕は1人では出来なかったから。妹に頼んだのですよ。妹を殺す事を……ね」
「貴方には妹が2人居たのですね。そして、1人の妹。同級生が自殺してしまった要因を作ってしまった妹を殺した。もう1人の妹に手伝わせて」
「僕の人生が嫌な目に遭うのは耐えられないので、仕方なかったのです。死人に口無し、死人に罪無しですから」
「もう1人の、そのトランクの中の彼女はどうしてなのです?」
「これは、いえ失礼。この妹はどうやら自責の念にやられた様で、自首すると言い出しまして」
私は絶句した。有体の、死体処理などと言う、表向きでは無い職業にして、多岐を見て来た自分にして、彼の動機に受け止めきれなさを感じたのが、恥であり、恐ろしくもあった。
言葉が詰まった。
「死体処理屋さん。どうしましょう。僕は1人では何も不安で出来ないのです。お金は出します」
「死体処理屋さん、これはどうしましょう?」
彼の声が反響し、反響は地面を叩き、視界を誘導する。斑らのコンクリートの冷たさの上にトランクから水溜りが出来上がるのが、横目に映った。




