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妹と人を殺した・4

5

 土は幸い緩くなっていた。先ほど降り終えた雨の影響であるのは間違いないが、このこと自然の偶然ぐうぜん産物さんぶつにさえ僕は自己の行為の後押しを感じた。


 後援者こうえんしゃの存在はそのさびだらけのシャベルを振るう腕の疲労を緩和させ、肩の荷を少しだけ、降ろさせる。


 ふと、妹を見やる。グリンと首を回して、触れる頭から脂汗がしたたる。


 妹は車の中でじっとしている。流石の精神的疲労での困憊こんぱいかと見える。ただ、その時は気分が変に良かったので、気に障ることも無かったし、1人で行う穴掘り作業というのが、実利じつりかなった最善の方法だと認識していた。


 そのような状態の妹を連れてきた事にも後悔は覚えなかった。この連帯れんたいの意識を擦り込ませる事こそが、僕らにとって必要だった。行動的な第三者であろうと、側にいて死人を視認させる、それだけでメリットがあった。


「お兄ちゃん。もう、いいんじゃ無いのかな。掘れたんじゃないのかな。野生動物に掘り起こされない程度には」

 ドアを開けて妹が近くにかけて来ていた。傘を開いて。妹の雨合羽(あまがっぱ)は用意できなかった。道半ばのコンビニに下手に寄るわけにもいかなかったし、手持ちには無いと言うからだ。


 手には、僕の着替えの服を持っている。


 泥汚れを持ち帰りたく無い為に、捨てても良い着替えと、靴を一揃え用意していた。その着替えを車中から妹が取り出して来たのである。


 少し僕は、ピシリと言う音を頭に感じた。感じだがここでも暴発は抑えた。これが、妹の小さな抵抗であり、限界のアクションである事が分かったからだ。


 なるほど、もう帰りたいのである。


 ふと、一息吐き出すと言う。


「そうだな。もう、そろそろ大丈夫そうだ。捨ておこうか」

 およそ、妹の望んだ通りの返答であったが、その顔には安堵あんどよりは疲労が強く映った。いささかばかりの解放感のみは見える。


 感激に目を光らせる程を期待はしていなかったはずだが、不満を覚える事も無かった。ただ、ここに僕は小さな不安を感じずにはいられなかった。


 ひるがえって、僕の言葉に二の句は繋げずに、トランクを開けに行った妹の背にかける言葉は無かった。


 見ていれば、妹はその荷物に四苦八苦しくはっくと言った様子である。それはそうだ、一つで約50kg。血をある程度抜いたと言えど、軽いはずもない。


「重いから、持たなくても良い。助手席に先に入っていてくれ」

 冷たさが乗るように言った。そうしなければ、もう2秒ほど挑戦ちょうせんするかのような擬似を見た気がしたからである。


 言葉に妹は従う。妹は助手席に、僕はその背中に避けられるようにトランク側へ向かう。


 トランクの肉塊を下す。


 トランク側に穴を掘る事ができれば良かったが、掘る際の光源こうげん盲点もうてんとしていた為に出来なかった。


 距離にして数メートル。ヘッドライトに照らされた山の出来上がった地点を目指す。


 重量はあれど、1人で運べないほどでは無い。自宅での、人体の破壊と、血抜き、梱包作業こんぽうさぎょうで輸送に関して言えば、文句の付けようが無いほど丁寧に出来上がっている。


 不器用な僕ではなく、妹の力作なのだが。僕からすれば、ことこう言った作業において、妹はよく出来る奴である。


 こう言った点で、僕は自分の得意不得意の有無を理解しているからこそ、1人作業は好まない。何をするにも、1人より2人である。


 と脳内で言っている間に、肉塊は穴の付近に運ばれる。一度ひとたび覗けば、光の未到みとう箇所かしょ深淵しんえんである。どこまでも、その暗闇が続いてしまうようにさえ見える。


 僕は投げ捨てた。名残なごり惜しく、上方向のベクトルをつけて捨てた。ふわりと浮いて、無重力を感じた塊は、重さを味方に付けると、ギュンと落ち沈んだ。そして、深淵に音を立てて死んだ。


 もう一度、その深淵を覗こうとしたが、砂山に突き立てていたシャベルの取っ手が僕の肩を叩いた。だからと言うこともないが、出した素っ首(そっくび)を引き戻すと、急いでシャベルで穴を埋めた。


 仕事を終えて、車に搭乗する。いやな汗が垂れた。


 妹は俯いたままである。


「……その手にある着替えをくれ」

 妹に向かって普段通りをして命令した。白い小さな妹の手がスっと上がるが、ほんの数センチである。僕はその着替えを奪い取った。


 着替えて、ビニールに入れる。妹の汚れた靴と、僕の物とを合わせて一纏(ひとまと)め。


 エンジンを始動。出発した。


 捨てるものは、行きに見ていた雨で流れの強くなっていた川に向かって投げ捨てる。持って来ていたペットボトルをくくり付けて、重量をカバーさせ、証拠になりかねないゴミが川底に沈まず、海まで遊泳する事を願う。


 僕は帰った。何事も無いように、ただ自然に。

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