妹と人を殺した・3
4
ガタリと、荷の重量分、鉄製の車体は大きく上下動する。
ふっと息を直すと、残りの荷物は妹に任せて、運転席にかける。乗り込み、エンジンをかけて、ヘッドライトを点灯させる。
自動車。父親が今、個人的に使用する車の一世代前に使っていた車。母からは、維持費がバカにならないからさっさと売るなり、捨てるなり、してくれと口酸っぱく言われている遺物だった。
金銭管理を一任されている母にとっては、パキリと分かりやすく数字上の無駄でしか無かっただろうが、がこう言う時に光るもので、この存在は助かった。
捨てる前に、死体を捨てる役割が出来た車というのには同情するけれど。仕方あるまい。
古い車種であるが、医者の父のお金を食っているだけあって、まだまだ使える状態であり、フロントガラスの上にかかる土埃を払いのければ、新品のようでさえある。
女の子の重量であれば、8人くらいまでなら余裕そうな面持ち。実際の、今回の2人という数字ならば、ペーパードライバーの僕でさえ、運転に支障は出なそうである。
「では、行くか」と、一息つきたそうな妹に向かって、敢えて告げる。
実際のところ、僕としては、この身内の不幸中の不幸の事件が、火の粉として自己に降りかかる事だけが気がかりだった。
所詮、妹の体力など、この場合試算の一つにさえ組み込まれていなかった。生き急いでいた。死なせ急いでいたとも言える。
助手席に乗り込む妹はやけに青ざめている。青々として、冷気を排出していそうな位だった。そんな雰囲気に耐えかねて、僕は口を動かす。
出庫した車が鳴らす駆動音が、僕の言葉と混じって車内に聞こえる。
「隠さないと、まずい状況だろう?間違いなく、責任追及の目は向く事が考えられるし」
そう事務的に言った。つくづく、自己しか見えていなかったと思う。対して、妹は恐る恐ると言った感じで口を開く。ミラーに映る彼女を見たが、まだまだ青みが強い。
「うん、うん……」
妹は頷きを音にした。言葉の終始、下を俯くばかりで顔を上げようとはしない。その姿に苛つきを覚えたが、震える手をハンドルに握らせて、抑える。
ただ、すっとして言葉だけは続けた。
「特に、僕らの家は世間体が大事だ。お得意様が出来てやっと成り立つ部分もある。そして、何より、医者は関係が全てだ。お金では動かない。そんな部分で生き悩む人種では無いからだ」
妹に、そして何より自分に問い責めるように言った。
「医学生のお兄ちゃんは医者になるんだもんね。将来は家を継いで、立派な町医者になるんだもんね」
細々と妹は言う。
「そうだ。僕らの人生に石ころがあってはいけないんだ。躓けば僕も苦心し、君も苦心する。親もする、それは困るだろう?」
「……うん」
1テンポ空いての、小さく同意。間隙目掛けて、僕は焦って間髪の言葉を挟み込む。
「だから、仕方ないんだ。薬品管理の手薄さは信頼を損なう。しかも、それを自殺の為にとは……」後半になるにつれて、完全に独り言として述べ変わっていった。それも分かってか、妹は何も言葉を返さない。
ポツリと、緩く降っていた雨がまた足を早めた。




