私メリーさん、探偵になってみるの! ~私立探偵・伊面帝太がメリーさんと“偽メリーさん事件”に挑む
俺の名は伊面帝太、30歳。とある町の雑居ビルの2階で探偵事務所を開いてる。
名前を入れ替えると『名探偵』になるが、名探偵というほどの腕はなく、かといってヘボ探偵というほど自分を低く見積もるつもりもない。
浮気調査や身辺調査で何とか食えている、ごく平均的な探偵ってとこだな。
平日の午後1時、俺はデスクに座ってコーヒーを飲んでいた。
今抱えている依頼は特にないのでのんびりとしたものだ。
普通のサラリーマンなら昼休みが終わって午後の仕事に取り掛かる頃、といったところだろう。そんな時間にこうやってくつろげるのも探偵業の特権かな、と思う。
だが、俺の平均的なりの探偵としての勘が告げていた。
今日は依頼が来る、と。
すると――
プルルルルル……。
デスクの電話が鳴った。
3コールほどで取る。
「はい、こちら伊面探偵事務所」
「私メリーさん、今あなたの探偵事務所が入ってるビル前にいるの」
これだけで切れた。
女の子の声だった。
間違い電話やイタズラ電話は別に珍しくないが、こういう電話は初めてだった。なんだったんだ……? と考えてると再び電話が鳴る。
「はい、こちら……」
「私メリーさん、今あなたの探偵事務所の前にいるの」
さっきより近づいている。事務所の前にいるということはもう数メートルの距離だ。
俺はこの現象に覚えがあった。
都市伝説の――
三度目の電話。受話器を取る。
「私メリーさん、今あなたの後ろにいるの」
俺は振り向いた。
そこには少女がいた。
ロングの金髪に青い目、西洋の人形のような顔立ちをしており、フリルのついた白のワンピースを着ている。体型は小学校低学年といったところ。
「あれ、あまり驚かないの」
「驚いてるよ……。ただ、驚いてもあまり叫んだりしないよう、訓練はしてるからな」
「さっすが探偵さんなの!」
ドアが開いた様子はなかった。ワープして入ってきたことになる。俺は単刀直入に尋ねる。
「君はあの……都市伝説のメリーさんなのか」
「そうなの!」
都市伝説のメリーさん。
電話をかけて、どんどん近づいてきて、最後には後ろにいる。あのメリーさんが俺の前に現れたのだ。
だが、不思議と危機感はなかった。目の前の少女から殺気のようなものは感じられなかったからだ。
「そのメリーさんが……何しに来たんだ?」
「私、依頼に来たの!」
依頼ときた。
「君は都市伝説だと捨てられた人形が恨みを持って誕生した存在ってことになってる。まさか持ち主の居所を捜せとか?」
「ううん、そうじゃないの。持ち主はきっちり脅かして、反省してもらったからもういいの」
どうやら復讐はもう済んだらしい。わりと穏やかな方法で。
じゃあ、なんで……?
「じゃあ、なんで俺のところに来たんだ?」
「ある事件の調査をして欲しいの」
「事件?」
「今ね、この町でひどい事件が起こってるって耳にしちゃったの」
メリーさんが語り始める。
「スマートフォンに電話がかかってきて、それを取ると『私メリーさん、今あなたの後ろにいるの』って声がして、そのとたん殴られるらしいの」
ずいぶん乱暴な事件だな、と思った。
「怪我した人が何人も出て、中には今もベッドから起き上がれない人もいるらしいの」
完全な傷害事件である。
「そんな事件がここらで起きてるってのか?」
「そうなの」
「で、俺にその……偽メリーさんを捕まえて欲しいと」
「そうなの! このままじゃ私のコケンに関わるの!」
沽券ときたか。
確かに都市伝説のホラーなメリーさんのイメージとはだいぶ違う事件な気がする。いきなり電話をかけてきて殴るなんて粗暴すぎる。じわじわと接近するところこそがメリーさんの醍醐味だろう。
だけどこれって俺の仕事か?
「そういうのは警察の仕事じゃないのかなぁ」
「警察署みたいな人が大勢いる建物に入るのは怖いの」
意外と人見知りなのか……まあ都市伝説だしな。ひっそり暮らしたいか。妙な理屈で納得する俺。
「じゃあさ、さっき俺の背後を取った能力で、犯人のところに行けばいいじゃん」
「ダメなの。相手の居場所が分からないと、あの能力は使えないの」
そりゃそうか。ワープし放題になっちゃうもんな。とにかくメリーさんが自力で解決するのは難しいようだ。
ただ、こんなわけの分からない存在に関わるのは正直ごめんだった。
俺はたまたまあったキャンディでもあげて、帰ってもらおうとする。
「引き受けてくれないと……」
メリーさんの顔が変貌する。髪が逆立ち、目が光り、口が裂けたように開く。
「……引き受けよう、メリーさん」
「やったなの!」
やっぱりメリーさんは怖かった。俺は依頼を引き受けてしまった。
「じゃあ、これ依頼料!」と100円玉を手渡される。
使ったら呪われそうだな……と思いつつ俺は受け取るのだった。
まず、調べるべきことはメリーさんの言ってる傷害事件が本当にあるかどうかだ。これは簡単に分かる。
「今から知り合いの刑事に電話してみる」
「刑事さんの知り合いがいるの?」
「まあな。こういう商売してると人脈も広くなるさ」
刑事のスマホに電話をかけ、傷害事件の有無を聞く。
「そんなの聞いたことねえな」
「じゃあメリーさんの噂は?」
「知らないなぁ」
俺と同世代の刑事は、俺の問いをあっさりと否定した。
正直これは予想がついていた。連続傷害事件なんて起きてたら、流石に俺の耳にも入る。
「そんな事件ないってさ」
「そうなの!?」
「そうなの」
「真似しないでなの!」
怒らせてしまった。さっきの本気ビビらせ顔は怖かったが、怒った顔は結構可愛い。
それはさておき、これでメリーさんの言う事件は存在しないと分かったわけだ。
「事件はなかったってことは偽メリーさんなんていないってことなの?」
「そうだな」
「分かったの……。じゃあ私帰るの」
少し寂しそうなメリーさんの声に、俺は放っておけないものを感じた。
「ちょっと待てよ、メリーさん」
「?」
「確かに事件はなかった……けど、そういう噂があることは事実だろ? そいつの正体がなんなのか俺たちで調べてみようじゃないか」
メリーさんの顔が明るくなった。
「いいの? 忙しいでしょうに」
「いいよ、今日はもう依頼来ない気がするし」
無邪気に喜ぶメリーさん。
「ああ、あとね。私呼び捨てでいいよ。メリーでいいの」
「だったらそうさせてもらうよ、メリー」
呼び方も「メリー」と改め、この事件の第二幕が始まる。
とりあえずネットで調べてみる。
しかし、俺がネットに疎いのも祟ってか、ピンポイントでメリーが言うような噂の出所にはたどり着けなかった。なにしろ「メリーさん」で検索するだけで、とんでもない量の情報が出てくるのだから。都市伝説のメリーさんと関係ない内容も多い。
「ネットじゃ無理っぽいな」
「検索の仕方が下手なんじゃないの?」
「うるさいな、しょうがないだろ! SNSとかにも疎いしさ」
「探偵でそれってどうなの? 情報収集は探偵の命だと思うの」
メリーは結構痛いところを突いてくる。
「今度から改善するよ……」
と苦し紛れの返答をするしかない。
それに実際、今回の噂はかなりローカルなものだろう。インターネットに頼るより足で探す方がよさそうだ。
俺はメリーを連れて、事務所の外へ出た。
***
俺とメリーが町を歩く。
いい大人が子供を連れて大丈夫かな、とも思ったが、メリーの特異な風貌が逆に幸いしてか意外に好奇の視線は浴びない。
外国人の子供を何らかの理由で引率してるとでも思われてるのだろうか。あるいは単に無関心なだけか。
「この辺、制服の子供が多いの」
メリーがつぶやく。
「ああ、私立の小学校があるからな。お坊ちゃんやお嬢ちゃんってやつだな」
公立の普通の小学校に通った身としては、あんな制服窮屈そうだな、とも思ってしまう。
俺は小学校の頃は結構腕白で、探偵のような職業に憧れたのは中学ぐらいだったっけ。
本当に探偵になってしまった今の感想としては、思ったよりは悪くない、といったところか。
さて、聞き込みでも……というタイミングで町内放送が流れる。
「振り込め詐欺にご注意下さい……。お金を出す前にまず落ち着いて……」
振り込め詐欺への注意喚起の放送だ。
「これ、さっきも流れてたの」
「ウチの町はかつて振り込め詐欺の被害が酷かったんだが、署が対策を強化してな。こうやって放送したり、ATMで警官が見張ったり……それで詐欺を撲滅できたんだ。今は被害はゼロなんじゃないか」
「いいことなの!」
そんなメリーについ俺も頬を綻ばせてしまう。
振り込め詐欺に騙される方も騙される方だ、などという人間は多い。俺だって「なんでこんなに話題になってるのに未だに騙されるんだ」と思ったりする。
ホラー的な存在なのに、そこらの人間より遥かに良識を持ってるじゃないか。
さて、俺……いや、俺たちは町で聞き込みを開始した。
「メリーさん? 知らんなぁ」
「なにそれ?」
「初耳だわ」
そんな噂話聞いたことない、という人は多かった。
実物がここにいるんですよ、などとはもちろん言わない。
一方で――
「後ろから殴られた人がいるって聞いたよ」
「怖いよなぁ」
「どっかのバカが都市伝説真似てやったのかね?」
比較的若い世代の間では、メリーさん事件の噂は広まっていた。
ただし、噂の出所を特定するのは難しそうだ。
みんな「友達の友達が~」ぐらいの感覚の噂話として認識している。
そういえば中学の頃「友達の友達が暴走族にボコボコにされて……」というような胡散臭い物騒な噂話をよく聞いたな。あんな感じで広まってるのだろう。
とりあえずの収穫は、町の若い世代の間では、メリーが言ってたような「メリーさんから電話がかかってきて殴られる」という事件の噂が広まってることが分かった。まあ実際にそんな事件はないわけだが。
メリーが言う。
「結局、ただのイタズラって感じなの?」
「いや、そうとも限らない」
「え?」
「この噂を流した奴がいたとして、そこには必ず理由があるはずだ。まだ夕方だし、俺たち二人で考えてみよう」
近くにあったチェーン店のカフェに入る。俺はコーヒーを頼み、メリーはジュースを頼む。
「こんな噂が流れて、得をするのは誰だと思う?」
「んー、オカルトとか大好きな人!」
「どうして?」
「メリーさんの噂が広まれば、オカルトに詳しい人は頼られるようになって、地位が上がるじゃない!」
「なかなか面白い着眼点だ。そんな感じで誰が得するのか考えていこう」
それから俺とメリーは様々な仮説を打ち立てた。
メリーさんを恐れてみんなが家から出なくなるから、ゲーム会社が儲かるとか。
ボディガードの依頼が殺到するようになるとか。
格闘技を習うようになるからジム会員が増えるとか。
都市伝説系サイトの閲覧数が増え、広告収入を得られるとか。
噂話がどう広まるかの社会実験をしてるとか。
風が吹けば桶屋が儲かるの要領で無限に思いつけてしまう。楽しくはあったが、誰が得をするかの観点から噂の出所を探るのは難しいようだ。
時刻は夜の6時になっていた。
「そろそろ事務所に戻るか」
「うん、分かったの」
メリーを連れて、事務所への道を歩く。
小学生たちはキャッキャッと楽しそうに鞄を持って走っていく。
「子供たちがこんな時間にうろついてるの」
「多分塾にでも通ってるんだろ。今時の小学生は大変だ」
俺が小学校の時は水泳クラブには通ってたかな……と思った瞬間。
「……分かったかもしれない」
「え?」
「メリーさんの噂話……流れて一番ビビるのはどんな連中だ?」
「そりゃもちろんお子様なの!」
自分もお子様だろう、と言おうとしたがギリギリでやめた。多分怖い顔される。
「だよな。いい大人や高校生ぐらいになれば、そんな噂でビビらない。だけど子供の時ってのは怖いんだ。都市伝説の妖怪が怖くて、学校に通えなくなったなんて子供だって珍しくもない」
「ふうん、それで?」
「今時の子供はスマホ持ってることも珍しくない。いつメリーさんに襲われてもおかしくないのに、この町の子供達はそういう恐れを抱いてる感じが全くしない」
「あ……」
これが俺の抱いた違和感だった。
すでに「メリーさんへの対抗策」を手に入れてるといった印象を受ける。
「確かにおかしいの!」
「だろ?」
「さっそく子供に話しかけて聞いてみるの!」
「俺がやると不審者呼ばわりされかねない世の中だから、メリー頼むわ」
一人で制服を着て歩いていた少年に、狙いを定める。
俺がやっては防犯ベルでも鳴らされかねないのでメリーが声をかける。
「ねえねえ、こんにちはなの」
「こんにちは」
お人形のようなメリーに話しかけられ、少年は頬を紅潮させた。これが初恋になったらどうしよう。
「ここらへんでメリーさんの噂があるの知ってるよね?」
「うん、知ってるよ。もう何人も殴られたって」
「だけどどうして、平気で出歩いてるの?」
核心を突いた質問に、少年は口をつぐんだ。
「教えてなの」
メリーがいくら聞いても、吐きそうにない。
ここは俺の出番かな。カマをかけてみるしかない。
「坊や、君は……何か買ったんじゃないかな?」
「か、買ってない買ってない!」
分かりやすい反応だ。
「誰かに話すと効果がなくなる、みたいな話なのかな」
「そんなこと……ない!」
子供を尋問するのは心苦しいが、ここで引くわけにはいかない。切り札を出すことにする。
「何を買ったか知らないが、言っとくけどなんの効力もないよ、それ」
「え……」
「だって君が恐れてるメリーさんは……この子なんだから」
俺が合図すると、メリーはあの“怖い顔”をした。だいぶ加減はしたようだが。
「うわあああああっ……!!!」
すまん、少年……。だが、これも真相を解明するためなのだ。トラウマにならないことを祈る。
落ち着いた少年にジュースを飲ませると、少年は語ってくれた。
「メリーさんの噂が出始めてから、ぼくらの学校の近くでお兄さんがお守りを売り始めたんだ。これがあれば身を守れるって」
やはり、こういうことだったか。
「これを持ってればメリーさんは寄ってこないって。ただし、誰かに話しちゃうと効果がなくなるからね……って」
「ちなみに値段は?」
「1万円」
「たけえ!」思わず口に出してしまった。
しかし、私立の学校に通うお坊ちゃんたちだ。それぐらいは出せると犯人も踏んだのだろう。お守りの効果を盾に口止めしておけば、このインチキ商売が親に漏れる心配もない。
犯人の狙いや、やってきたことは分かった。
「ありがとうなの」
メリーは少年を優しく撫でた。さっき怖い目にあったのに、少年はやはり頬を赤くする。
その恋が実ることはないんだ……すまん。と俺は心の中で謝った。
***
事務所に戻った俺たちは、ピザの出前を取り夕食にする。
「おいしいの!」
おいしそうにピザを頬張るメリー。チーズが唇についている。
「妖怪みたいな存在だろうに、メシは食べるんだな」
「食べなくてもいいけど、やっぱり食べるとおいしいの!」
ああそういう仕組みね、となんとなく俺は納得する。
「で、これからどうするの?」
「明日さっそく行動に移す。メリーにも手伝ってもらうことになるぞ」
「分かったの!」
探偵になってから数年、こんな事件に遭遇するのは初めてだ。遠足前日の子供のように、俺はワクワクしながら眠りについた。
***
翌日昼下がり、俺はメリーにスマホを持たせ、人気のない路地を歩かせていた。いかにもビクビクしてる子供を装うんだ、と指示して。
指示通り、ビクビクしながら歩くメリー。なかなか演技が上手い。子役として映画に出ても通用しそうだ。俺はそんな彼女をこっそり見守る。
だが、なかなか餌に魚は引っかからない。
作戦を変えるべきか……と考え始めたその時だった。
ニット帽にサングラス、紺色のジャケットにジーンズを履いた男が、メリーに話しかけてきた。
「お嬢ちゃん、さっきからビクビクしてるけど、もしかしてメリーさんが怖いのかな?」
「うん……怖いの」
男もまさか本人だとは思うまい。
「だったらいいものを売ってあげよう。このお守りがあれば、もうメリーさんなんて怖くないよ」
「ホント!?」
メリーは俺が手渡した万札で、男からお守りを買った。おとり捜査とはいえあんな奴に金を渡すのは悔しかったが、まあ仕方ない。
メリーは役割を果たしてくれた。ここからは俺の出番だ。奴を尾行する。
男は子供にインチキお守りを売りつける小悪党だけあって、それなりに警戒心が強かったが、プロの探偵である俺の敵じゃない。尾行は上手くいった。
とある薄汚れた雑居ビルに入っていった男を見届けると、メリーにめくばせする。
「んじゃ、俺だけ入ってくる。あとは手筈通りにな」
「分かったの!」
***
ドアを開くと、そこにはさっきの売人と、3人のチンピラがいた。計4人。全員20代前半といったところか。
リーダー格は短めの金髪のピアス男かな、と推測する。
「なんだてめえ!?」
突然入ってきた俺に、チンピラの一人が脅しをかける。
「メリーさんの噂流して、子供に妙なお守り売りつけて小金稼いでるのはお前らだな?」
「てめえ尾けられたな!」と売人男が責められる。一番下っ端なんだろうな。
まあ奴らの内輪揉めなどどうでもいい。俺は話を続ける。
「お前らの正体……振り込め詐欺グループだろ?」
4人一斉にビクッとなる。
「最近ここらじゃ振り込め詐欺対策が強化されて、騙される年寄りもめっきりいなくなった……。稼げなくなったお前らは子供をターゲットにして、怖い噂話を流して、荒稼ぎする手法を思いついた」
いや……と話を続ける。
「もしかしたら子供相手の商売は単なるテストなのかもな。これが上手くいったら、もっと大人相手の噂話を流して……なんて考えてるのかもしれない。意地でも詐欺で稼ごうとするその精神だけは大したもんだよ」
リーダー格の金髪ピアスは俺を睨みつけた。
「で?」
なかなか迫力あるじゃないか。ちょっとビビってしまう。
「んな説教をしに、わざわざここへ? 言っとくが、ヒト一人消しちまうくらいわけねえんだぜ」
確かにこいつらならそれぐらいやるだろうし、俺に武術の心得はない。喧嘩になったら負けて、山か海に埋葬コースだろう。
「もちろん、俺一人じゃない。俺には頼もしい援軍がいる」
「なんだと!?」
絶妙なタイミングで電話が鳴った。
ピアス男が取る。
相手はメリーのはずだ。
「え……? 今このビルの前にいる……誰だてめえ!」
青ざめるピアス男。それはそうだろう。たった今、彼の元には本物のメリーさんことメリーから電話がかかってきたのだ。
もう一度電話が鳴る。今度はこの部屋の前にいるとメリーは言ったはず。
そして、三度目――
「もしもしィ!」金髪ピアスの声が裏返っている。
奴の後ろには……
「んぎゃああああああああああっ!!!」
悲鳴を上げるチンピラ達。
「いつの間に!?」
「なんだこのガキ!」
「ひいいっ!」
パニックに陥るチンピラ達。
「お前らがメリーさんの名を悪用するから、本物が怒っちゃったんだよ」
俺が恐怖を煽る。
それでも金髪ピアスはリーダーらしくメリー排除に乗り出そうとするが――
「あなたたち……絶対許さないの!」
メリーが最大限の恐怖顔を発現させた。
超怖い。経験済みの俺ですら小便チビりそうになっちゃった。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああっ……!!!!!」
ホラー映画でも聞いたことがないような悲鳴を上げると、4人は倒れてしまった。
無理もないことだった。
***
事件は解決した。
俺の通報で駆け付けた警察により、奴らのアジトは捜査され、インチキお守りの在庫やさらには振り込め詐欺の証拠などが次々押収された。
それと、やはりもっと大がかりな計画の準備もあったらしい。噂話を流してインチキ商品を大量に売りつける……という具合の。
全てを終えた俺は、事務所でメリーと勝利を祝っていた。
「乾杯」
「乾杯なの!」
カップを軽くぶつける。
「事件を解決した後のジュースはおいしいの!」
「……」
「探偵さんはどうなの?」
「事件を解決した後のコーヒーってのも格別だな」
ニヤリと笑う。
俺だっていい気分だ。普段は浮気調査とかばかりで、こんな風に犯人逮捕に繋がるような事件に携わったのは初めてだからな。
これをきっかけに、なんとなくこれからもこういうことが増えてきそうな気もする。
平均的なりの探偵としての勘だ。
俺はメリーに聞いた。
「これから……どうするんだ?」
「ん~、またどこか町をさまよおうかなって思ってるの」
かつての持ち主への復讐は完了しているし、偽メリーさん事件も解決した。
メリーに目的らしい目的は、もうない。
「もしよかったら、もうちょいこの事務所にいないか?」
「え?」
「なにせ貧乏探偵だし、給料なんかは出してやれないけど、それでもよかったら……」
すると、メリーは――
「是非お願いするの!」
「じゃあ……よろしく頼むな、メリー!」
「うん!」
小さなメリーの手と握手を交わす。
「じゃあさっそく、看板を『メリー探偵事務所』に……」
「ちょっと待てぇ!」
こうして思いがけず、可愛くてちょっと怖い相棒を得た俺。
後ろにメリーがいる探偵生活は賑やかに、そして楽しくなっていきそうだ。
~おわり~
読んで下さりありがとうございました。
何かあれば感想等頂けると嬉しいです。




