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魔王の正体  作者: 咲起みずほ
2/5

2.消失

 その時は何の前触れもなくやってきた

 いや、予兆とも呼べないが、ちょうどその頃嫌な噂が流れていた

 若い冒険者の男が、突然姿を消す、と

 まあ、冒険者なんて身元の確かな者でもなく、始めるのも辞めるのも自由だ

 急に嫌になって辞めたり、急に故郷に帰ったり、急に他にいい金儲けを見つけていなくなる者もいる

 なので、冒険者がいなくなるなんて別段珍しくもなんともなかった

 しかし、その噂では

 その突然姿を消した男たちは

 何の前触れも無く

 商売道具の武器も防具もそのままで

 金目の物さえそのままで

 誰に行く先を伝えるでもなく

 むしろ翌日の約束を交わしてさえいたのに

 ある日、突然姿を消すらしかった


 酒の肴の戯言か、面白おかしく誇張されたどうでもよい話だと思っていた

 なのに

 ある日、朝起きると

 クローは跡形も無く消えていた

 昨日までいつも通り隣で笑っていた

 明日は西のダンジョンに行こう

 もう少し稼げるようになりたいから、お金を貯めて、もっと強い武器を買おう

 と、いつも通り話していたのに


 どこをどう探してもクローは見つからなかった

 誰に何を聞いてもクローの行先に心当たりがある人さえいなかった

 何の前触れも無く

 何の痕跡も無く

 その日クローはティオルの目の前から完全に姿を消したのだった

 まるで、初めから存在しなかったかのように

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