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ベリルの瞳   作者: 斎田なおみ
7/21

巨蟹宮3 帰り道

 二人きりのバカンスはその後何事もなく最終日が近づいていった。

 その日のディナーは少し遠出をしてジビエ料理の店へ行くことにした。

 フレデリクはその日初めて白い刺繍の入ったチュニックに袖を通した。それは夕日を浴びてキラキラと輝いているようにも見えた。

「初めて学園へ戻りたくないと思いました」

「悪いことを教えてしまったかな」

 シャッカスはハンドルを握りながら苦笑する。少し車を走らせ山際の一軒家のようなレストランに着くとオーナーが出迎えてくれた。

「グランデ様お待ちしておりました。今日はキジがとれました。あと養殖ですがウサギもあります」

「成長期の男の子が満足するような料理をお願いするよ」

「承知いたしました」

 サラダは食べなれたものがでてきた。しかし、そのあとからがとても素晴らしいものでウサギのベーコン包みやホロホロチョウのワイン煮込み、にんにくの効いたラム肉のトマトソース煮込みなど今まで食べたことのないその土地でとれた食材を生かした郷土料理が多数運ばれてきた。

「全部美味しいです」

「それはよかった。これが私を育んできた料理たちさ」

 シャッカスは嬉しそうに赤ワインを飲んでいる。

「どれも本当においしくてずっとここに住みたい気分です」

「そうしたいのはやまやまだけどさすがに学校が何というかわからないよ。そうしたら冬休みも連れてくるから」

「約束ですよ」

 フレデリクは年相応の無垢な笑みを浮かべて小指を差し出す。シャッカスはその行為の意味が分からなかったが、バカンス前と比べだいぶ日焼けした小指に自分の小指を絡ませる。

「指切った!」

「いったいこれは?」

「これは東洋のおまじないの一種です。これで約束を破ると針を飲まされるんだとか」

「それは恐ろしい。今から学園長に休暇を申し込まないとな」

 二人はまたにこにこと笑って食事を終えた。

 バカンス最後の晩餐は新鮮な果物で終わりとなった。


「少しだけ、浜辺を散歩しないかい?」

 シャッカスにそう誘われて浜辺を歩く。夜風が食事で火照った体を冷ましていくようで気持ちがよかった。

 心地の良い沈黙を波の音が彩った。月明りはくっきりと二人の影を浮かび上がらせていた。

 ほんの少しだけフレデリクは先に歩く、青白い月光がさらに彼の身体や服を白く見せている。その姿はまるで天使のようで何者も触れてはいけないという雰囲気さえ身にまとわせていた。

「このまま二人で暮らそうか、私の天使」

 シャッカスのそのつぶやきは波の音に紛れて消えた。

 フレデリクは振り向いてにっこり笑うとまた家に向かって歩き出した。


 次の朝荷物をまとめ大体のごみをまとめると二人は学園へと戻っていった。


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