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ベリルの瞳   作者: 斎田なおみ
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Bonne fête d'Halloween

 今日はハロウィン当日。生徒たちはどこかそわそわと落ち着きなく授業を受けていた。

 シャッカスは不思議に思って、授業後こっそりとフレデリクに尋ねた。

「どうしてみんなそわそわしているんだい?」

「今日はハロウィンなので、夕食が終わった後みんなでいたずら合戦をするんです。先生たちも黙認です」

「非常に健全でいい行事じゃないか。君は何かするのかい?」

「さあ?僕は先週お菓子を大袋で購入したのでいたずらを仕掛けられるのは免除されています」

「ぬかりないねえ」

 二人は顔を見合わせて笑った。

 夕食も終わり、大半のものにとっては待ちに待ったパーティータイムがやってきた。寮生たちは各々が変装をして各部屋を練り歩く。そこでお菓子が出されればいたずらはなし、お菓子がなければいたずらをしていい。もちろん、やりかえされることだっている。顔に色が塗られてしまったもの、服が水でぬれているもの、カエルのおもちゃを投げているものなど様々にいる。

 よくよく考えればこれは手の込んだお菓子の交換会だがそれぞれが楽しんでいる。

 中にはノリの良い先生もいるらしく同じようにお菓子を配ったりいたずらを仕掛けたりしかけられたりしている。

 もちろんフレデリクのところにも何人もの友人が来た。そのたびにコインチョコを渡す。中には最初からいたずら目的でやってくる友人もいたが、それには水風船で対応していた。

 フレデリクと同室のエクトルもしばらくして戦利品を両手いっぱいにしながら戻ってきた。

「フレッドー、お菓子いっぱいだから一緒に食べようよ~!」

「そうだね。ありがとう」

「そうだ、フレッドに入ってなかった!ボンヌフェハロウィン!」

 フレデリクは買い置きしていたコインチョコをエクトルに渡す。どうやらこれが最後の一つだった。時計を見れば少しだけ延長された就寝時間ももうすぐでいたずらはもう来ないと安心していた。

「なんか今年はいたずらの手が凝ってたな~」

 ほくほく顔で戦利品を食べているエクトルに相槌をうちながらフレデリクはチョコレートを食べる。

 しばらくして廊下から就寝時間を告げる声が聞こえた。

 フレデリクはおとなしくベッドに潜ったが昼間の喧騒に当てられまた寝付けずベッドで何度も寝返りを打った。エクトルはすでに寝息を立てている。

 なんとなくトイレへ行った帰りに薄暗い廊下を歩いていた、すると、遠くからコツコツと響く。。

 学園の七不思議など信じていないが、今夜はハロウィンだ。何かお化けがでてもおかしくないような気がする。隠れる場所もないのでとりあえず廊下の壁際によりなるべく気配を消そうとする。目を強くつぶり、息を殺していた。

「おや、驚いた。かわいい fantômeが廊下を歩いているなんて」

 驚いて目を開けるとそこにはシャッカスが微笑んでいた。

「せんせ、どうして?」

「今日の見回り当番は僕なんだ。ちょうどいい、君は僕に言うことがあるだろう?」

 フレデリクはしばらく考えたが、まったく思い当たる言葉が見当たらずぽかんとシャッカスを見上げる。その表情がかわいらしかったのか思わずシャッカスはふふふを笑う。

「ハロウィンなんだからいう言葉は決まってるでしょ」

「あ、Bonne fête d'Halloween!!」

「そうこなくちゃ。ほら、おいしいチョコレートボンボンだよ」

 美しい箱に入れられたそれは箱の外からでもわかるほどに良い香りが漂っていた。

「ありがとうございます!」

 フレデリクは目を輝かせてその箱を受け取る。包みをほどいてみれば丸くきれいなチョコレートが三つ宝石のように並んでいた。

「おいしそう……」

「じゃあ、こちらからもBonne fête d'Halloween」

 シャッカスはいたずらっぽい笑みを浮かべてそういった。

 フレデリクは先ほどシャッカスからもらったチョコレートしか持っておらず慌てる。

「お菓子がないなら悪戯させてもらうかな」

 そういって、シャッカスは先ほどのチョコレートを一つフレデリクの口の中に放り込む。思わずそれをかみつぶすと、甘いチョコレートの奥からドロッとアルコールの香りが鼻に突き抜けてきた。

 そして、少し開いた唇にシャッカスの舌が入り込んでくる。溶けたチョコレートを味わうように舌が口腔内を蹂躙する。フレデリクは壁に追い詰められているため逃げることもできない。

 甘い甘い濃厚なひと時が静かな廊下で繰り広げられた。

 シャッカスは満足そうなため息をついて唇を離すと、フレデリクはシャッカスにもたれかかるように倒れこんだ。

「おや、悪戯がすぎてしまったかな」

「シャッカスの、馬鹿っ……」

 フレデリクの顔はリンゴのように真っ赤になっていた。

「まだ刺激が強すぎたみたいだね」

 シャッカスはフレデリクを軽々とお姫様抱っこすると寮室まで運んで行く。

「さて、そろそろ大丈夫かな?フレッド」

「ええ、もう、大丈夫です」

 シャッカスはもう一度フレデリクの白い頬に口をつけるとおやすみといって薄暗い廊下へ姿を消した。

 フレデリクはベッドに戻ると目をつぶった。今度はすんなりと眠りにつくことができ、なにかまた夢を見始める。

 ハロウィンの夜は静かに更けていった。

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