さみしい人達
今日は朝から雨が降っている。
あの、殺伐とした都会の雨と違って軟らかいシトシトとまるで降り注ぐような雨
窓から見ていてもちっとも飽きがこない (こんなに優しい雨は初めてかもしれない)
窓枠にもたれながらそんな事を考えていたら視界の端にウイレムが映る
彼はこの雨の中道の真ん中でボーッとたたずんでいる
(何をしてるのかな?) 私のつぶやきが彼に聴こえたのかこちらに顔を向け微笑むと軽く手を振る
[おはよう あかり 昨夜はよく眠れたかい?]
(えぇ、お陰様で……ウイレム昨日はごめんね 少し話せる?)
[今そっちに行くよ]
そう言うと彼はふわふわと飛んでくる(本当に………るんだ)
[ん?何?ごめん、聞き取れなかったよ もう一度考えて]
(ううん、なんでも無いの それより昨日は本当にごめんねウイレムも一生懸命色々しらべてたのに 私ったら労いもしないで)
[?あかり どうしたの?いつもの君らしく無い 何か有ったの?]
(不思議ね、人は満たされ始めるとやっと物事を落ち着いて考えられる様になるけれど 満たされる前の自分を恥じる事にもなるのね)
[あかり?それは満たされてるんじゃ無くてやっとこの世界に来た事を認め始めて苦しみだしてるんじゃないの?そんな風に聞こえるよ。とても 苦しそうだ]
(ウイレム、私はこの世界に来て優しくされて、なのに一人ぼっちだともっと感じるようになった 寂しくて寂しくて)
[あかり、ちゃんと泣いてごらん我慢しないで泣きたい時は泣かないとだめだよ]
そう言ってウイレムは私を抱きしめながらそっと背中を撫でてくれていた。
次から次へと雫がこぼれ彼の服を伝って行く
ウイレムはそのまま何も言わず外を眺めていたようだ
落ち着きだした頃ウイレムが私の顔を覗き込み
[あかり、少なくともあかりは 一人ぼっちじゃ無いよ俺の父さんもメアリーもそれにこんな身体だけど俺も居るよ だから泣きたい時は我慢しちゃ駄目だ泣いて良いんだからね]
(うん、ありがとうウイレムやっとスッキリした)
[そっか、良かった 話せるようになったらここ何日かの話も聞かせて]
(そうだね、えっと………)
話し始めようとした時 階下からメアリーが私を呼ぶ声が聞こえてきた
下に降りると機嫌の悪そうなメアリーの顔と目が合う
「あかり お客様よ」 「わたしに?」
店の中へ向かうとそこには 紳士然とした出で立ちのキレフさんが立っていた。
(メアリーの機嫌が悪かったのはこのせいなのね)
[彼はこの間の?] (うん、アリスさんの婚約者のキレフさん)
そう、彼はアリスさんの婚約者のはずなのだ、彼は断ったとあの時も言っていたけれどアリスさんの方は納得していないようだった
「やっとお会い出来ました、あかりさん 何度かお尋ねしたのですがいらっしゃらなかった様で」
「すみません、王女殿下に御贔屓させて頂ける様に成りましたので」
「えぇ伺っています、でも良かったやっと逢えました」
「何度もご足労有難うございます」
「いえ、こちらが勝手に伺って居るのですからお気になさらず」
(えぇ、そう聞いてますし私としては避けたいところですけれど)
[あかり、大丈夫か?]
「あの、それでどの様なご用件でしょうか?」
「あ!そうでした、今日は生憎の雨ですが少しお時間を頂きたいなとお伺いしました」
「あの、メアリー食堂借りても良い?」
「勿論家でどうぞ!キレフさん!{もう、あかりちゃんに手を出したら承知しないからね!外で何てとんでも無いよ}」
(心強い味方だなぁメアリー)
「あかりさん、宜しければ最近出来た評判のカフェが有るのですか行きませんか?」
「私とですか?いやいや、キレフさんにはアリスさんと言う婚約者さんが居ますよね?私と2人でカフェなんて アリスさんが誤解されて嫌な思いさせてしまいますし…私としてはそれは避けたいのですけど!」
(!メアリーの言葉無視なの?)
「あかりさん、アリスとは婚約解消しています。あかりさんの心を煩わせるような事は決して有りません!」
(いや、遠回しにだけど断ってるんだけどなぁ)
[あかり!ちゃんと嫌だと言えよ!]
(え?何ウイレムまで切れてるのよ 少なくともお客様だし私とナーゼ様の架け橋をしてくれた人だし強くは言えないよ)
私はメアリーの方をチラ見する(激おこだ!やばいこのままここで話してたらメアリーが何を言いだすか)
「わ、わかりました少しだけでしたら」
「あかりー!外で何て駄目!家で良いから」
「じゃあ、行きましょう あかりさん」
「え?え?」むんずと手を掴まれて………(あ!メアリーの顔が怖い でも、この人結構強引じゃないの?)
[あかり!こいつ!あかりを離せ] スカッ[ガァちきしょう掴めない!クソォ]
(ウ、ウイレム!せめて付いてきて〜)
[ンガァー当たり前だ!]
と一悶着ありまして、今そのカフェに2人と一体で居ります。
「あかりさん、ここのケーキはとても美味しいと評判なんですよどれでもお好きなものを頼んでくださいね{ニコニコ}」
(吹き出しが嫌にご機嫌だね………)
[俺はちっとも楽しくない!]
(あーうん、そうだよね、ごめんね無理矢理頼んで)
[違う、あかりのせいじゃ無いこの男にだ!]
(…………)
「あの、キレフさんそれでお話って何でしょうか?」
「あ!はい、率直に言います。あかりさんはポラリス洋品店の息子さんとお付き合いされて居たそうですがまだ、彼の事をその、まだす、好きなのでしょうか?」
[されて居たじゃない!お付き合いは未だ継続中だ!あかりは未だ俺の彼女だ!]
(!ウイレム?え?何怒ってるの、だってあれはアランさんを助ける為の嘘なんでしょ?)
[う、そ、そうだけど そうじゃない]
(は?どう言う意味?)
[ガァー、後でちゃんと言うから あかりもキレフが好きじゃ無いならちゃんと断れ!]
そう言い残してウイレムは窓をすり抜けて出て行ってしまった
「あかりさん?如何なさいました?」
「え?あ、すみません考えて居たもので ……
私はウイレムがいつか必ず目を覚ましてくれると信じて居ます 彼はとても優しい人なんですこんな雨の日にそっと抱きしめて泣かせてくれて、泣いた私の背中をさすって慰めてくれる そんな彼を放っておける訳有りません そんな気持ちはきっと………好きと言うものだと思います(そうだよ、ウイレムが居てくれたから私はこの世界に来ても今まで笑っていられたんだ)」
「それは同情ではなくですか?」
「同情で彼に出来ればずっと側に居て欲しいとは思いません。不思議と彼が側に居てくれると安心して心が安らぐんです、私が安心して泣けるのはきっと彼だからです」
「そうですか、彼がとても羨ましいです。あなたの気持ちが彼から離れる事は無いのでしょうか?待って居ても無駄ですか?」
「ごめんなさい、キレフさんとは出会ったばかりだし良いお友達には成れてもそれ以上の気持ちを持つ事は無いと思います。」
「そうですか………でもすみません貴女を友達と思えるようになるには少し時間がかかりそうです。なんせ、こんな気持ちに成ったのは初めてなもので……ですから、諦め切れるまで普通に今までのように接して頂けますか?」
「もちろんです、こんな私を好きになってくださって有難うございます。これからも客としてキレフさんのお店に伺います」
「ありがとう、あかりさん こちらが誘って置いて申し訳ありませんがお先に失礼します。精算はしてありますからゆっくりしていってください{このままだと酷いこと言ってしまいそうだな そんなみっともない姿見せたく無い}」
そう言ってキレフさんはカフェを後にした。
(悪い人じゃ無い、ううんとても良い人だったでも 私いつのまにかウイレムの事が好きになって居たんだ。だからここ何日か逢えなかった事があんなに辛かったんだ。どうしよう自覚したら哀しくなってきた ウイレムお願いだから目を覚まして)