↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神に牙むく無双の咎人 ~時代に抗う、次代の寵児たち~  作者: 銀風 朧月
第4章 王無き玉座に鉄槌は下る
95/117

Ep.4-23 背水の交渉

 **********



「そ、そんな……」


 目の前に広がる、惨憺(さんたん)たる光景。

 アリシアは、思わずそう零して立ちすくんでしまう。

 それくらい信じがたく、そして受け入れがたい光景だった。


「(こ、こんなことって……)」


 この地にて例の物体を監視していた兵たちに持たせてあった、移動視点と固定視点を切り替えられるドローン式カメラ。

 車にてこの地へと移動中だったアリシアは、しかしその瞬間の様子をモニター越しに見ていた。

 中継されたその映像に移る巨大な龍の咆哮と共に、強い風が国中に吹き荒れた。その、たった一度の攻撃で、王国軍の歴戦の兵士たちが、ただの一人の例外もなく倒れ伏すことになったのだ。

 彼らの実力をよく知っているアリシアにとっては、まさに受け入れがたい光景と言う他がなかった。


 そもそも現在のこの世界において、人間同士の戦争というのはそうそう頻発するものではない。

 然らば、国を守るための軍隊が何故存在しているのかと言えば、それは人間よりも遥かに恐ろしい、自然の脅威から人々を守るためであった。


「(――あの、王国軍の兵たちが……っ)」


 パッと見た限りだが、周囲に伏している兵たちに命の別状はない。恐らく、吹き飛ばされて身体を強く打ち付けたのだろう。

 それでも、アリシアも在籍しているイッシュヴァルト王国立高等学校。その名門の卒業生たちが大部分を占めているはずのその軍隊が、恐らく全く本気ではない初撃一つで壊滅したというその事実が、たまらなく恐ろしかった。


「……何奴だ、貴様……」


 余りの力の差に慄然としていたアリシアに、頭上からそんな声が聞こえてきて、思わずハッと身を固くする。

 荘厳にして威圧に満ちたその声の主は、状況を鑑みればごく容易に察せられるものだった。


「――っわ、私は……」


 その声の主――青き龍へ視線を向け、震える声を振り絞る。

 アリシアはひしひしと感じていた。今、自分の命は目の前の超常の存在に握られているという、その事実を。


 ――そしてこの国の命運もまた、彼の存在の掌の上であるという、純然たる事実を。


「(――緊張なんて、してる場合じゃない……落ち着かないと……)」


 その事実をまざまざと意識して、スーッと、深呼吸を一つ。

 それだけで、既にこの国の代表として外交の場にも立ってきた少女は、平生の平静を取り戻した。


「私は、アリシア・ミラ・イッシュヴァルト。この国の第一王女にして……現、王権代理です」


「……ほう。これはこれは、何と丁度いいことか。我に武器を向けた有象無象が、よもや威嚇程度で吹き飛ぶとは思っていなかったからな。ここで貴様が出てきたことは、僥倖と言うべきだろう」


 元首としてふさわしい落ち着いた態度でなされたアリシアの自己紹介に対し、眼前の青き龍は、先ほどまでの激昂からは少し落ち着いた様子でそう零す。

 その些細な言葉は、王国軍の精鋭たちを有象無象にしか思わないその言葉は、人間たちにとっては尚更畏怖すべきものであったが、しかしそんなことなど全く(おもんぱか)ることはなく、超常の龍は遂に名乗りを上げる。


「我も名乗ろう。――我が名は『青龍』。東方を統べる、四神の一柱である」



 **********



「……超常の者よ。どうか来訪の目的をお聞かせください」


 向かい合う超常の神――『青龍』と名乗ったその存在に対して、アリシアは対話を試みる。

 一瞬で半壊した王国軍を目の当たりにして、もはや戦闘の意思などあり得ない。

 アリシアの魔術が戦闘向きではないということを差し引いても、牙をむくという選択肢など取り得なかった。


「目的、だと? ――決まっている。(やや)()を、取り返しに来たのだ」


 そんな十二分にへりくだったはずのアリシアの質問に対し、青き龍は少しばかり語気を強めてそう告げる。


 (やや)()

 その言葉に、アリシアにはすぐに思い当たる節があった。


「(……あの、子龍のことでしょうか)」


 子龍。

 それは、国王夫妻が外遊へと出立してすぐ、この古城周辺での異変に関する報告と併せて持ち込まれたもう一つの問題。

 この国を主な拠点として行動していた征伐者が、たまたま見つけて連れて帰ってきてしまった子龍のことだろう、と。


「――その子ならば、現在我々が責任をもって静養してもらっています。愚かにもその子を連れ去って来た不届き者は、我が国に侵入した段階で捕らえてあります」


 文字通り、原義通りの逆鱗に触れぬよう、慎重に慎重に言葉を選ぶ。

 その子龍を直接見たことのあるアリシアは、まず間違いなくこの龍と同じ種族――つまり、『青龍』が言うところの(やや)()であると確信していた。

 故に今ここで伝えなければならないのは、この一連の事件がこの国の意図ではないということ。最大限の敬意を以て、その子龍を保護しているということだった。


「…………」


 そんなアリシアの選び抜いた言葉に対して何事か考え込む超常の龍に、不安を煽られる。

 自分は何か間違えたのか、と、必死に頭を巡らすも、少なくとも先の一言だけではまだ地雷は踏み抜いていないように思えるのだが……


「――人間、か。こうして関わることになるのは久方ぶりだが……何ともまぁ、ほとほと愚かよなあ」


「っ!? お、愚か?」


 暫しの空白の後。眼前の龍から静かに吐き出された言葉は、必死に考えを巡らせていたアリシアの耳にもはっきりと届いた。

 何を指し示しているかははっきりとは分からない、されど深い蔑如(べつじょ)のこもったその言葉に、思わず繰り返すように尋ね返してしまう。


「然り。――そもそも、我々神獣はそれぞれが統べている領域がある。本来ならばこの地にも、そう言った存在がいたはずだ」


 この地を統べる、存在。

 この段階になってその言葉の指し示す対象が分からない程、アリシアは馬鹿ではなかった。


「その名を『白帝竜』と言ったか。もし仮にあ奴がこの地にいたならば、我もそう易々とこの地で力を振るうことは叶わなかったろうな」


「……っ」


 口伝に残る、白き竜。

 数日前、突然城を訪れた編入生の少年に言われたのと同じ答えを、眼前の神は荘厳な口調で口にする。


「(――そ、それが本当なら……私の、せい?)」


 超常の存在に相対しているのとは違う理由で、冷汗が全身を駆ける。

 『青龍』の言葉が真ならば、復活したての『白帝竜』に対し武器を向け、結果この地から立ち去らせてしまったアリシアたちの選択は、紛うことなく過ちであったことになるからだ。


「それに、だ。貴様の言葉を聞く限り、愚行を為したのはたかが数名ということになるだろう。その責を負って、今から一つの国ごと滅ぼされるというのだから、何とも愚かと言う他ないだろうて」


「っ!? ま、待ってください!?」


 バッと、顔を上げ声を振り絞る。

 グルグルと巡る思考の中で、それでも何とか最悪の帰結を回避しようと、必死に考える。


「――なんだ?」


「……あなた様の言った通り、現在のこの状況、全ては人間の愚行故、です」


 全ては、自分たちのせいだ。

 口伝、おとぎ話というヒントがあったにも拘らず――そして、流斗に忠告を受けていたにも拘らず、『白帝竜』へと刃を向け、彼の竜が立ち去ってしまう要因を作ってしまった。


 加えて、たまたま見つけたというこの龍の子を連れ帰ってきたのは、他でもないこの国の征伐者だ。

 どうやら他国出身らしいと聞いているが、そんなことは大した問題ではない。

 群れからはぐれていた超常の龍を酷く傷つけ、強引に連れてきたというその行為に、擁護の余地など一分たりとも存在してはいなかった。


 それらをすべて踏まえた上で、アリシアはこの国を亡ぼすことを明言した『青龍』へと交渉を持ちかける。

 ――否。交渉などと言うには到底能わない、薄氷を踏むが如き進言。


「故に、件の不届き者……世界の支配者たるあなた方に手を出した大罪人たちを、あなた様へと差し出します」


「………………ほう」


 それは、いくら相手が大罪人だとしても、一人の少女として為すには余りに重い選択。

 それでも今、国を背負う元首として、国を守るために為さなければならない選択だった。


「子龍については、現在静養中です。とは言え、殆ど完治しておりますので、今からこちらに連れて来させます。――どうかそれで、お引き取り願えませんでしょうか」


 幸か不幸か、彼の子龍を治療中の病院も、そしてその大罪人たちを収監している拘置所も、ここからほど近い王都の外れにあった。

 特に後者は、その用途を考えれば中心におけるものではないので、当然と言えば当然なのだが、しかしそのお陰で、十分と経たずにここに連れて来れるだろう。


「(……それに)」


 それに、先ほど車を飛び出す直前。

 アリシアが見ていた限り、国内へこの地の映像を中継していたカメラはまだ生きていた。

 念のためと、ココに辿り着く前に自分の周りにもそのドローン式カメラを飛ばしてある。

 今現在の中継にどちらの映像を用いているかは分からない。が、いずれにせよ、この映像を見た中枢はきっとすぐに子龍と大罪人たちをここへ派遣してくれることだろう。


「………………」


 アリシアの提案に対し、考え込むそぶりを見せる『青龍』。


 そして、超常の神が下した結論とは――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。