Ep.3-21 夜明けは非常事態と共に
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翌朝。
日付が変わり、更に一時間ほど経つ頃まで見張りをしたあと、エルリアたち後半担当のメンバーと交代してテントの中で休んでいた夏希は、すぐ横でガサゴソと物音がするのに気づき、目を覚ます。
「(……?? 誰だろ、すぐ隣にいるよね……)」
彼女たちの寝ているテントは、メンバーで分担して持ってきたものだ。
五人で悠々寝れるほどのサイズはないが、真ん中でカーテンで区切られており、年頃の男女でも我慢すれば一緒に休めるようになっている。
とはいえ、この距離感での物音。ということは、恐らくもう一人の女性陣であるエルリアなのだろうが……
「んーーーーー。……あ、やっぱりエルリアちゃんだ。おっはー」
「…………ん」
一つ伸びをして起き上がると、予想通り横にいたのは金髪の少女だった。空いた狭いスペースに、うつ伏せで横になっている。
反応があまり芳しくないのは、見張り明けで疲れているのだろうか。
「見張り、お疲れ様ー。……ちょっと出てくるねー」
そう彼女に言い残し、夏希はテントの外に出る。
まだ日も昇っていないようで、特に木々に覆われているこの林はかなり殆ど真っ暗だった。
「(やっぱ、ちょっと早いよね……)」
心中、そう零す。
彼女と大二郎……つまり、見張りの前半担当が交代してから、まだ三時間ほどだろうか。
本来なら夜明けまでエルリアたちが見張ってくれるはずだったので、夏希の胸中には少しばかり疑念がよぎる。
「……おや?」
「おっ、随分早いな」
「そうですね。おはようございます」
夏希がテントの外に出てきたことに気づいたようで、見張りをしていた少年……博士と、彼と親しいらしいもう一人の少年が、順々に挨拶をしてくる。
そして、それだけではない。
「……よっす」
そこには、夏希同様まだ休憩しているはずの少年……大二郎がいた。
普段の彼とは違うおとなしめな挨拶なのは、まだ朝も早いからだろうか。
「あれ? 轟くんも起きて…………!?」
そこまで言ったところで、気付いた。いや、気付けた。
昨夜から感じていた違和感――普段と違うエルリアの様子、そして大二郎の態度――それらの原因に、だ。
「っ!?」
「あ、おい!?」
であるならば、確かめなければならないことがある。
バッと振り返り、テントの中へと急ぎ舞い戻る。
「…………」
目的の少女、エルリアは先ほどと変わらぬ姿勢で横になっていた。
そんな彼女の肩を優しく叩き、夏希はそっと核心を確認する。
「ねえ、エルリアちゃん。もしかして………………」
そのあとに続けた言葉に、少し硬直したエルリアがしかし、コクンと静かにうなずいたのを確認して、夏希は再びテントを飛び出す。
「?」
「あ、戻って来た」
そして、そんな落ち着きのない彼女の行動に呆けている男衆に対し、普段の陽気な様子とは打って変わった真面目な態度で言い放つ。
「緊急会議です。ちょいと集まってくださいな、野郎ども」
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「体調不良、かあ」
「やっぱりそうだったんですね……」
「…………」
簡潔な夏希の説明の後、男衆は思い思いの反応を見せる。
大二郎は相変わらず、普段の騒々しい様子とは打って変わった静かな様子のままだ。
夏希の予想は、当たっていた。
昨日の大二郎の行動に対するエルリアの過剰ないらつきなど、感情を抑えきれないような様子は全て、彼女の体調不良によるものだった。
「(……んー、そっかぁ。その可能性はあるとは思ってたけど、隠すの上手だったな……)」
そんないらいらしているような態度以外には、彼女に変わっているところはなかった……ように思えていた。
同じ女性として気付けなかったことに夏希は内心悔しい気持ちでいっぱいだったが、それを押し殺して話を続ける。
「ごめん博士、やっぱりってのは?」
「ええ。さっき突然、「ごめん、先に休むワ」なんて言い放ってテントに入っていっちゃったので、一体どうしたのかと思ってたんですよ」
「そんなわけで、轟に起きてもらって相談してたんだ。彼女と付き合いがあるこいつと、どうにも様子がおかしいよなあって話してたとこだったんだが……」
「むむー、なるほどねん」
夏希の疑問に、少年たちが次いで答えてくれる。
元々は大二郎が起きてきていたことで、夏希はエルリアの体調不良に気が付いた訳であったが、やはり彼女の行動が原因で起こされていたらしい。
「ねえ、もしかして、サ。轟くん、昨日から何となく気づいてたでしょ? それで少し、無茶してまで先行してたんだね」
情報の共有を済ませたところで、一つ大二郎に尋ねる。
それは、根拠のない予想ではなかった。
いつもよりも妙に低いテンションも、彼女の異変に気付いていたからではないか、と。
夏希のそんな質問に、大二郎は一つ息をついてから、
「……ああ、そーだな。まああくまでいつもより変だな、くらいだが、それでも違和感があったからなー。丁度昨日、夏希があいつにらしくないって言ったように、な」
そう、肯定する。
「そっかぁ。だからって体調不良だったなんてさっきまで気付けなかったなぁ。それのせいで、いつも以上に強気で感情の抑えが利かなかったんだね…………ごめん」
「いやいや、なんで謝るんですか」
「おんなじ女の子だからさ。気付いてあげられなかったしネ……。――さて、それじゃあこれからの話なんだけど、今すぐ先生に連絡する?」
「……いや、あいつが隠してたのは、迷惑をかけたくないってのが一番だろう。林の外まで連れていくにせよ、ここで迎えを待つにせよ、俺たちの演習は終いだからなー。俺らがいいっつっても、後々まで引きづりそうだぜ」
冷静だが気の強い少女だ。責任感も、人一倍抱えているはずだろう。
仕方のないことだと言え、夏希たちに迷惑をかけてしまった、と、自分を責めるに違いない。
「そだねえ。でも、それしかないだろうし……」
そう言いかけた夏希を、大二郎が遮るようにして
「……いや、一つ提案がある」
と、告げる。
そして…………
「はぁ!? まじで言ってんのか!?」
大二郎の提案は、文字通り突拍子のないものだった。
正直なところ、到底うまくいくとは思えなかった。
「ああ、お前らにも荷物を持ってもらうことになるけど、いけるか?」
「いけるかって言うか、だってお前…………ああ、もう! やるしかねえじゃんか!」
「ですね! 一蓮托生ですよ、僕らも」
「おお、ありがとな! まあでも博士は非力だからなぁ。無理すんなよー」
「そうそう。こいつってば昔な……」
そんな突拍子もない提案に初めはためらっていた男衆も、すぐに乗せられたようだ。
一気に熱くなり、仲も深まっているようだが、本当に大丈夫なのだろうか……
「(……でも、何だかこういうのもいいなあ)」
そんな男子特有とでも言うべきテンションに、少しばかり置いてきぼりにされていた夏希が、羨ましく思っていると、
………ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、……
「っ!? ちょっと待って! ……何か、いる……?」
ふと、明らかに自分たちのモノではない荒い息遣いが聞こえてくる。
「? まじか。もしかして猿の魔獣かもな……」
すぐに気持ちを切り替え、それぞれ戦闘態勢に入った少年少女たちの前に、スタッと黒い影が降り立つ。
そこにいたのは、この林に住んでいるという猿の魔獣……ではなく、
「あれっ?」
「こいつは……なんだ?」
犬のような相貌をした、しかし明らかに犬とは異なる四本足の獣が、彼女たちをじっと見つめていた。
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