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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

#魔女集会で会いましょう ~魔女の一冊の物語~

作者: 大川暗弓

 「ん?なんだこれ?」


今日は1年に一度行われる魔女の集会だ。

そして、少年は先生である魔女に付いてきていて、集会には出れないため、集会所の書庫の掃除をしていた。


 少年はその最中に、一冊の古い本を見つける。

 その本を見てみると、本来タイトルのあるはずの表紙には何も書いておらず、裏表紙にカギ括弧付きで「おはよう」「おはよう」と、二言ふたことだけ記されている。 

 少年はその奇妙な本に無意識に惹かれ、興味本位でその本を開けてしまった。普段はあれほど、釘を刺されてひらくなと言われているのに。


 開いた瞬間、魔術書から光があふれ、魔法陣が発生する、ーーーーなんてことは起きなかった。見ると、その本のページは真っ白だ。本来、物語や説明などが書かれているはずの本に何も書かれていなかった。何枚かめくっていき、最後の方のページにさしかかったとき、文字がいきなりびっしりと書かれ始める。

 そして、少年は本に飲み込まれるようにして、いきなり意識を失った。

 

 これはある1人の魔女のお話。


 昔昔あるところに、一人の魔女が町の外れの丘に住んでいました。その魔女はとても綺麗なオッドアイをしており、薬などを調合し、町の人々の病気を治していましたが、あるときその薬を飲んだ直後に男性が死んでしまいました。薬の調合を失敗していたのです。魔女はそれ以来恐れられ、町に入ることすら許されず、忌避され続け、ずっと丘に暮らし続けましたとさ。

 おしまい。


 「こんな所かな~。私の物語は。」


 のんきな声でオッドアイの魔女は言う。


 「この私の自書は最初のページにこの文が書かれて終わるのかな。それとも、それすら書かれずに真っ白な自書になるのかな。」


 自書、それは魔女の命そのものだ。魔女は魂を繰り返し、肉体だけを移して生き続ける。だから魂が朽ちるまで()()()()に生きられるのだ。そして、肉体が死んだとき、その肉体の人生が自書には書かれる。この魂が衝撃を受ければ、そのことが書かれるし、普通のことは何も書かれない。そして、魔女の魂が尽きたとき、その自書にはタイトルが刻まれる。この魂の寿命はもう自書の半分を過ぎた。しかし、その前には何も書かれていなかった。つまり、真っ白だ。


 ピンポーン。


 何十年、いや何百年ぶりだろう。このインターホンが鳴るのは。久しぶりにならされるインターホンはどこかぎこちない。


 「どちら様?」


 「人間に追い出された。あんたのせいで追い出されたんだ。だから、俺をかくまってくれ。」


 扉を開くと、目の前に目線を落とさないと見えないほどの少年が立っていた。


 「え?えーと......。意味が分からないんだけど。」


 「オッドアイに生まれたんだ。ここに住んでいても知っているんだろ?それくらい。」


 確かに少年の目は綺麗な黒と紫のオッドアイをしていた。

そして、魔女である私がオッドアイであることから、町ではオッドアイで生まれてしまった子供は殺される規則になっていた。

だからこそ、私は疑問を抱く。普通はそのような子供は生まれてすぐ殺されてしまうのだ。


 「でも、なんで今更。今まで気付かれなかったの?」


 「両親が隠すために、小さい頃からカラーコンタクトをしていたんだ。だけど、途中で取れちまって.....町の人にばれて、両親は殺されて........逃げてきたんだ。」


 少年の肩は震えていた。それが両親の殺されたからなのか、恐怖の象徴として祭り上げられている魔女の私の目の前にいるかなのか、どちらなのかは魔女には分からなかった。

 取りあえず、少年を家の中に入れる。 


 「トイレ借りてもいいか?ずっとしていないんだ。」


 「それならあそこの扉よ。」


 少年はそそくさとトイレに向かい、入りその扉を閉めると、その扉の向こうから悲鳴が聞こえる。


 なんで父ちゃんと母ちゃんが殺されなきゃいけないんだ!なんでオッドアイじゃいけないんだ!なんで....


魔女が聞き取れたのはそこまでだった。それ以上は聞き取れなかったし、そもそも言葉になっていなかったのかもしれない。そして、決意する。


 数分後、目を赤くした少年がトイレから出てくると、魔女は言う。


 「君、名前は?」


 「ティト。」


 「私はサティラ。知っていると思うけど、魔女よ。突然だけど、君には今日からここで魔法を学んで貰うわ。」


 「は?なんでそうなるんだよ。俺はそんなことのために来たんじゃねえ。」


 ティトは出て行こうとするが、それをサティラはさせなかった。


 「じゃあ、なんのため?どうせ行く当てもないんでしょ?なら、私の弟子をしなさいよ。私と違ってあなたたちの時間は有限よ。」


 サティラのそれからの時間はすごく凄く充実していた。少年はやんちゃで物覚えも悪かったが、その分教え甲斐もあり、すくすくと成長していった。サティラが今まで無限と思ってきた時間が、ティトといるときだけ有限に感じさせ、その時間はあっという間に過ぎていくようだった。


 しかし、平穏は長くは続かなかった。

 突如、町の人々が丘のふもとに押し寄せてくる。


 「お前達、今更何の用だ?」


 サティラは金髪の綺麗な髪をなびかせながら、険しい声で問う。そのサティラの纏う雰囲気には魔女としての威厳や恐怖感が漂う。


 「ティトを知らないか。町は探し尽くした。後は魔女さんの家を調べるだけだ。」


 「知るはずもない。それに調べてどうする?」 


 「当たり前だ、見つけ次第、ティトを殺す。」


 「そうか。なぜとは聞かん。そんなことはどうでも良いからな。」


 突如、丘を覆い尽くすほどの魔法陣が上空に浮かび上がる。


 「30秒後に魔法を発動する!死にたくなければ去れ。」


 すると、魔女の魔法を初めて目の当たりにしたのか、怯えた町の住民はあっけなく引き返していき、家に戻っていく。

 念のため、家を燃やされてティトを襲われても困るので、ティトは魔法道具で姿を隠し、ずっとサティラのそばに置いていた。

 

「じゃあ、戻るかティト.....


  ーーーーどすッ


 微かな音だが、鈍い音が聞こえる。


 「なぜだ?こんな所にナイフが刺さって.......」


 町に住む一人の男は隠れていて、後ろからサティラを狙っていた。しかし、刺そうとしてナイフを出した瞬間、空中に刺さるようにしてナイフが止まる。男は不気味さを覚え、すぐさま町の方へ逃げていった。


 魔法道具の効力が切れ、血まみれになったティトが現れる。


 「(なんで、なんで、なんで、なんで...........こんなことに.........ティト.......)」


 「ティト、なんで私なんかをかばって......」


 サティラはティトを抱き上げ、彼女の瞳からは涙があふれ出す。


 「なんでだろうね?自分でも分からないや。だけど、今はなんか落ち着いてる。きっと嬉しかったのかな?」


 「ダメ!死なないで。そうだ!魔法で.......。」


 ティトがサティラのか細い腕を精一杯の力で握る。その力はほとんど無かったが、サティラを落ち着かせるには十分だった。


 「深すぎる傷は魔法でもどうにもならない。出来の悪い俺だって知ってる。」


 ティトは必死に、はにかむみながら笑う。


 「だけど、だけど.........」


 「前に話をしてくれたことがあったよね?死んだ魂は後、どうなるか。この後、俺の魂は別の世界に行くって。そして、それまで眠り続けて、起きたら突然そこにいるって。」


 「ええ。」


 サティラは今はただティトの言葉を聞くことしか出来ない。


 「だったら、俺は待ってるから。いつもみたいにサティラが起こしてくれるのを待ってるから。いつまでも。だから、ゆっくり追いかけてきて。」


 「でも、そんなの.......奇跡しか起きなくちゃ..........」


 「魔法は奇跡みたいなもの。だから、それを使う僕たちは常に奇跡の隣にある。前に言ってたよね?」


 少しずつティトの声音が弱くなっていく。


 「でも!でも........。」


 「奇跡を扱う魔法。そして、その魔法を扱う魔女。だから......」


 「分かった。起こしに行く!絶対に。」


 サティラは力強い声で答えた。


 「さよならは言わない。目が覚めれば、サティラがいつもみたいに起こしてくれるから。おやすみ。ーーーーーーーーーーーーーーーー」


 ティトは信じているのではなく、確信しているかのようにか細い声を響かせる。


 「ええ、おやすみ。」


 ティトの瞼が落ちるその時まで、笑みを無理矢理にでも作る。


 ーーーそして、瞼が落ちきった瞬間、サティラは泣き崩れた。



 もう、どれだけ泣いただろうか。そんなのはどうでも良い。早くティトに会いたい。早く死なないと。ナイフを拾い、心臓の部分に突き刺そうとするが出来ない。死ねない。


 そのとき、サティラは魔女に課せられた残酷な運命を知る。それは死ねないこと。つまり、あとあの本のあれだけのページを死なずに過ごさなければならない。しかも、私のページはあと僅か。生まれ変わってもあと2,3回だろう。


 そして、それからの日々は何もなかった。本当に生活が白紙になったかのように何もしなかった。

ようやく、あれから一回目の死。ーー失敗。

         二回目の死。ーー失敗。

そして、最後のチャンス。ーー失敗。


 絶望だった。それこそ、何をして過ごしてきたことかということさえ、忘れてしまった。もしくは何もしてないかどちかだ。


 そうして、最後の命が尽きる。また、あの時のことを思い出す。そして気付く。ティトはおやすみの後に何かを言おうとしていたことに。でも、もう遅い。あれから、結局誰とも関わらず、ティトのことしか考えてこなかった。

 突然、サティラは無意識に笑みがこぼれる。

 

 「ふふっ。私って実は恋してたのかもね、あの時。ちゃんと伝えとけば良かった。結局、これだけ長い時間を生きてきても、人間よりよっぽど後悔しているじゃん、私。もうそろそろか、この魂も。おやすみ。」


そうして彼女の本は閉じられる。

これでお話はおしまい。

そうして、決して文字が綴られることのない裏表紙にたった二人の言葉が刻まれる。


「おはよう。」

「おはよう。」


 少年は涙が止まらなかった。


 すると、ドアを開けて、先生である魔女の()()()()が入ってくる。


 「終わったか?()()()。」


 ティトはすぐさまサティラに駆け寄り、抱きつく。


 「やっと気付いたか......」


 「なんで今まで忘れてたんだろ。一番大切なことなのに。ごめんなさい。本当にごめんなさい。」


 ティトは自分があまりにも情けなくなる。あれほどまでに会いたかった人が今まで目の前にいたのに、どうして自分は......と自分を自分で責め続ける。


 サティラはあやすようにしながら、ティトの頭を撫でる。


 「違うだろ?」


 そうだ。今言うべき言葉はこれじゃない。あふれ出す涙をこらえ、ティトは言う。


 「おはよう。」


 「ああ、おはよう。」


 やっと言えた。そして、早く言いたい。サティラが目の前から消えてしまう前に。一秒でも早く。そうじゃないと、伝えられないことを知ったから。


 「それで、最後に言いたかったことがあるんだけどさ、」


 「私もよ。じゃあ、せーので言おっか。」


 お互い胸に、魂にしまい込んでいた言葉をようやくはき出せる。


 「「せーの!」」


 「「サティラ(ティト)がずっと好きでした。」」


二人ともあっちの世界の魂は消えた。しかし、世界を飛び越え、流転し、この世界で再び巡りあった。

二人で奇跡を起こした。

 

 本編に書かれることのない二言は、別の世界で果たされた。役目を終えた自書の裏表紙に書かれた二言は消え、その本にタイトルがようやく刻まれる。


 「魔女集会で会いましょう」と。

お読みいただきありがとうございます。

気に入ってくださったなら感想や評価もらえると嬉しいです。


Myth&Majic~神話×魔術~も連載中なのでこちらもよろしくお願いします。


https://ncode.syosetu.com/n6502ea/


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