愛ゆえの・・・
目当ての部屋の前に着くと、部屋の前に待機していた侍女に中の人物への入室許可をお願いする。
王族ってこういうことが面倒だけど、まあ、当然のことなので仕方ない。
しばらくして、入室許可が出たので、僕は部屋へと入る。
お目当ての人物は、机で優雅にお茶を楽しんでいたようだが、僕の姿を確認すると、にっこりと微笑んだ。
「珍しいね。ラルフが会いにくるなんて。」
「突然の訪問申し訳ありません。ご迷惑だったでしょうか?」
「まさか。可愛い弟のためなら時間くらいつくるよ。」
そう言って微笑むのは、僕の兄上にして、この国の第一王子のバルド・スウェーデン。
僕より5つ年上で来年で11才になる。
僕と同じ、金色の髪と父よりの容姿が特徴のイケメンさんだ。
「ありがとうございます。さっそくですが、兄上。少しご相談したいことがありまして・・・」
「相談ね・・・内密な感じかな?」
「はい。出来れば。」
僕はそう言って軽く背後に控えていた侍女をみる。
視線の意味に気づいたのだろう、兄上は少し逡巡すると、僕と兄上に着いてる一番信頼のおける侍女以外を下がらせた。
まあ、さすがに二人きりは無理だよね・・・
「それで?どうしたの?確か、今日はラルフの婚約者との対面の日だよね?」
「はい。そのことにも関係するのですが・・・兄上は、僕の言葉を信じてくれますか?」
「内容にもよるかな。でも、弟のことは信じてるよ。」
流石兄上。身内を信じてはいても、内容しだいとは。10才のお子さんとは思えない慎重ぷりだ。
・・・5才がなに言ってるの?って感じだけど。
「兄上。実は、最近妙な夢を見るのです。」
「夢?」
「はい。僕の未来の夢です。」
僕は、そこから、簡単に乙女ゲームの内容・・・すなわち、僕が平民の女の子に惚れて、婚約者のサラを棄ててしまうということと、未来の自分のことについて話した。
兄上は少し考え込むように聞いていたが、話が終わるとおもむろに口をひらいた。
「つまり、ラルフは神託を受けたのかな?」
「おそらく近いものかと・・・」
「そうか・・・この話は誰かにした?」
「いえ、兄上にしかしてないです。」
博識な兄上なら、この回答にたどり着くだろうと思ってはいたけど・・・。
神託。それは、まれに、夢や清めの儀式などで、神様からくるお告げのようなものとされている。
内容は様々で、人によって違うらしいが、神託を受けたものは、後に偉業をなしたり、実際におこった不幸を回避したりしたと、されている。
「それで?ラルフはどうしたいの?私の元に来たってことは何かあるのだろう?」
「はい。兄上、僕はサラを守りたい。ですので、お力をお貸しください。」
「なるほど・・・協力してもいいけど、一つだけ私のお願いを聞いてくれるかい?」
「お願いですか?」
「ああ。ラルフ。王になって欲しい。」
突然の台詞に驚いてしまう。
確かに、ゲームでは僕が王になっていたが、そもそも王にもっとも近いのは、才能がある第一王子だろうと、現時点では噂されている。
兄上もそのつもりだとおもっていたのに・・・
もしかして・・・・
「兄上は、もしかして、婚約者の・・・マリー様のために王位を継ぎたくないのですか?」
「おや?ラルフには気付かれていたのか?まあね。このままだと私とマリーは引き離されてしまうからね。」
マリー様は兄上の婚約者で5才の頃に兄上と婚約したのだが、体が弱く、王妃教育などには出れていない。
周りからは早く婚約者をかえるべという意見が出ていたが、兄上は一向にその気配はなかった。
「私はね・・・マリーを心から愛しているんだ。だから王にはなりたくない。マリーにはあんな過酷なことはさせられないよ。」
「兄上・・・」
きっと、兄上のマリー様への気持ちは僕のサラへの気持ちくらいに強いのだろう。
だから・・・
「兄上。一緒に愛するもののために頑張りましょう!」
「ふふ・・・そうだな。」
こうして、兄上との協力を取り付けるのには成功した。
僕は詳しくは後日と言ってその場を去り、次の目的地へと向かう。