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第99話  エルモアを救おう! その6



「なんだかクリっちに懐いてるエルっち可愛いね~」

「なんだか妹が出来たみたいだよ」

「……」

「……」

「あの~?」

「……」

「……」

「ネッピー?」

「……はぃ」

「とりあえず上流に向かって歩くね?」

「……はぃ」

「ズーキさん?」

「……はぃ」

「先ほどのお花を探しながら行きますからよろしくお願いしますね?」

「……はぃ」

「なんだかやりにくいよ~」

「(ギュッ!)」

「大丈夫エルちゃん?」

「……ぅぃ」

「可愛いね~ こういうのもありかな~ ラヴ姉さん! 好きになっちゃう!」

「えっ!? ラヴ? 好きになるって?」

「ん~? どうしたんだ~い?」

「え、その…… 好きにって……」

「ん~?」

「……」


 二人のやり取りは耳に入っている。だが脳には届いていない。脳が認識してくれない。何故なら拒否しているから。エルモアが俺を拒否したように。


(まただ…… またエルモアに避けられた…… あぁ……)


 どれほどに後悔しても後悔しきれない。どうして俺はエルモアに避けられたのだ。今回は俺は何も言っていない。むしろネピアをフォローしただけ。そしてそのネピアもまた、俺と同じように避けられている。


(ネピア……)


「お花あるかね~」

「あるよ。流れていたんだから」

「そうかいな」

「そう。ある。信じたって変わらない事もあるけど、少なくとも自分は変わるからね」

「なるほろ! ラヴ姉さん! 信じちゃう!」

「そうそう。今は疑って歩くよりも信じて進んだ方がプラスだよ」

「流石はクリっち! クリクリっち! あとでクリクリしてあげるね?」

「え!? そ、それって?」

「ん~? 気になるか~い?」

「う、そ、その……」

「ん~?」

「……」


(クリクリ…… クリクリっ!?)


「そ、その!?」

「ん~?」

「ズーキさん?」


(いったい何を考えているんだ……? 今はエルモアを助ける事が最優先事項なんだぞ……? そうだ…… まずネピアを元気づけないと……)


「い、いやなんでもない。気にしないでくれ」

「はぁ」

「ふ~ん」

「ネピア?」

「……なに」

「元気だせよ。今は究極五月病アルティメットワンウェイホリデーという症状と闘っているんだエルモアも」

「……」

「ネピアが無理にでも喰わせていなかったら、症状が進行していたかもしれないだろ?」

「あんま変わら(むぐぅ!?)」

「(ちょっとラヴ姉さん!? マイナスなバイブスは禁止!)」

「無理矢理私がしちゃったから…… 姉さんは…… うぅ…… だから私の事を……」

「そ、そんな事はないぞ? な? それに特効薬さえ見つかれば直るんだ。早く見つけてあげよう。ここで気落ちして花を見逃しでもしたら、それこそ目も当てられない」

「……そうね」

「よし。俺も頑張るからネピアも頑張れ」

「……うん」

「エルモアも頑張ろうな!」

「あ!? ズーキさん!? 今その言葉はエルちゃんには!」

「……ぁ ……ぁ …… …… …… もぅ どうでもぃぃ…………」

「あっ!? エルちゃん!? 大丈夫!? ほらしっかり……ね?」

「……ぅ……ぃ」

「あんたぁー!? 何やってんのよ!? 姉さんを殺す気!?」

「す、すまん。勢いで……」

「こんな落ち込んでる時に、頑張っては禁句でしょっ!?」

「……はぃ」


(あぁ…… またやってしまった……)


 どうやっても気持ちが前に向かない。頑張っているのに頑張れない。そんな時にこんな言葉を言われた事がある。元気出せ。頑張れ。笑え。誰でも苦しい。お前だけじゃない。たいした事じゃない。


 どう思ったか。そう思ったのだ。エルモアのように。誰も理解などしてくれない。そうして自分の世界という名の殻に閉じこもるがそこはから。その世界は天空のように広がっている訳ではなくからっぽなのだ。そして広がりを見せるは心の闇。深く深く心を沈めた俺は静かに沈殿していく。


「……ごめんなさい」

「……私も言い過ぎたわ」

「いや…… ヒドい事を言ったのは俺さ…… あれ程に嫌な気分だったのにどうしてか、今の今までまた忘れていた……」

「え……?」

「……なんでもないさ。さぁ、特効薬を探そう」

「そうね……」


 四匹は歩く。一匹のエルモアはクリちゃんの背中。上流を目指しながらお目当てである花を探していく。行けども行けどもあの花は見つからないが、目の前に平べったい大きな丘が見えてきた。


「あそこから流れている?」

「そうみたいね」

「じゃあ登ろうか」

「登る!」

「……」


(最初よりヒドくなっちまったエルモア…… それもこれも俺のせいなんだ……)


「……あんたが言ったように、特効薬さえあれば元に戻るんだから気にしないで」

「……あぁ」


 滝のように流れる砂を横目に見ながら丘を登る。俺一人でも登るのはキツイというのに、クリちゃんはエルモアを背中にのせたまま軽々と登っていた。


「クリちゃん疲れないか?」

「え? 大丈夫ですよ。走り屋やってましたから、山に登るのはお手の物です」

「そうだったな。ダウンヒルレースやってたんだから、自信はあるか」

「はい。それにエルちゃん軽いですしね」

「欲しぃ~ エルっち欲しぃ~」

「……あげないからねラヴ姉」

「え~」

「……あげないよラヴ姉さん」

「うわ~い! 嬉しい! ラヴ姉さん! もらえないけど貰えちった!」

「……ふぅ」

「どしたん?」

「……なんでもない」

「そう」


(つ、疲れた…… 毎度ながら体力の無い社会派紳士とは情けないものよ…… それにしてもエルフもこの世界の人間も逞しいよな…… それとも俺が貧弱なだけか…… うぅ……)


 皆を見上げるように丘を登っていく。ケツ持ちはこの社会派紳士だ。何故ならこんな時こそ敵の襲撃があるからだ。彼女らを守る為にあえて後方からの支援に徹する社会派紳士。紛う事なき社会派紳士。


(あ、あぁ…… き、キツイ……)


 だがエルモアの事を考えればここで立ち止まる訳にはいかない。それにクリちゃんはエルモアを背負って、ラヴ姉さんとネピアは砂魚の入った水槽を持ちながら登山している。そして俺は二つのかわいい鉢植えのみ。


「お~ この先を登ったら頂上かいな~?」

「そろそろかな」

「そうみたいね」

「……」

「……貧弱ね」

「くっ」

「はぁ。大丈夫?」

「もちろんだ」

「どこが大丈夫なの?」

「気持ちだ」

「……身体はいっぱいいっぱいって事ね」

「……察してくれ」

「ふぅ。あともうちょっとだって」

「あぁ……」


 最後の最後のキツイ登りを上がりきった先に見えたのは、広大な丘の上に存在する大量の砂。砂丘のように凹凸はなく、まるで大きな大きな砂場のようだった。











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