第97話 エルモアを救おう! その4
高い木々に囲まれた森の中で、俺たち五匹は光の海から現実へと戻される。真下には光が弱まった魔方陣。そのまま消えてしまう事はなく、俺たちの帰りを望んでいるかのように存在し続けていた。
「景色としては変わらないな……」
「そうね」
「……ぅ」
「大丈夫? エルモア?」
「……ぅぃ」
「この辺りなのかな?」
「やっほ~い! わ~(ガン! ベシっ!) あいたぁ!?」
「大丈夫ラヴ? あ……何か荷物あるね」
「ダンボールじゃないな…… ちゃんとした木箱だ……」
「痛ぃ~!」
勢いよくすっ転んだラヴ姉さんは、鼻を強打したらしく赤くなった鼻をさすっていた。
「ほらラヴ姉……」
「あ~ 効くね~ ネピっちのは効くね~」
(なんでみんな言い方がマッサージを受けてるおっさんみたい何だろう?)
「ダンボールってなんですか?」
「あぁ。魔法具が入っていた箱のコトだよ」
「あの柔らかい箱はダンボールっていうんですか」
「そうだよ。元の世界では一般的な箱とも言えるな」
「へぇ~」
「とりあえず開けてみるか……」
木箱上部の縁に手を掛けて引っ張るものの、ビクともしない。確かめるように木箱を見てみると釘がしっかりと打ってあり、手の力だけで開けるのは無理そうだった。
「マイナスドライバーかバールでもあればなぁ……」
「工房にはあるんですけどね……」
「これ使う~? 魔法十手~!」
「鉤の部分で引っかければ、ドライバーの代わりになりそうだ」
逆さに持った魔法十手の鉤を上手く使って、上蓋との隙間に差し込んでいく。少しずつ広がっていく頃には、大分隙間が大きくなっていた。その隙間に無理くり棒身
を差し込む上蓋を開ける。中に入っていたのは小さな水槽と鉢植え。それが二つずつ入っていた。
「水槽? 鉢植えは分かるけど……」
「砂魚を入れる為でしょ」
「あ、そうか。刺身の上に花をのせて食べさせるんだもんな」
「水槽の意味あるのかな?」
「無いわね。袋でも良かったのに…… まぁいいわ。まず幼獣ポポタンの住処もそうだけど、砂川を探さなくちゃ」
「場所は…… 教えてくれないって言ってたもんな……」
「大丈夫よ。館長がここに魔方陣を展開したって事は、近くに砂川もあるハズよ」
「そういや砂川ってなんだ?」
「砂の川よ」
「砂の川ですね」
「砂の……川……?」
「水じゃなくて、砂が流れてるのか~い?」
「そうよラヴ姉。砂が川のように流れてるの。その中にいる魚が砂魚よ」
「それをまず捕まえないとね」
「まぁ行きましょう」
当てがあるのか、それとも精霊の加護を取り戻した今、その導きに従っているのかは分からないが、自信ありげに進む様は安心出来る。程なくして、サラサラともザラザラとも聞こえる音が自分の耳に入ってきた。
「まずは砂川発見ね」
「じゃあ皆で砂魚取りだね」
三・四メートル程の幅の砂の川がそこにはあった。ズルズルと流れるように移動している無数の砂。意外にも流れはあり、この砂川の最終地点は如何様に存在しているのか気になった。
「なぁネピア」
「なに」
「これ…… 砂川の向かう先はどうなってるんだ?」
「ん? 砂が流れてるだけだけど?」
「あ、いや……その最終的にはどうなってるんだ? 最後の所は?」
「……秘密よ」
「え? 凄い気になるんだけど…… クリちゃん? 教えてくれる?」
「……秘密です」
「え? なんで教えてくれないの? 何か問題あるの?」
「……」
「……」
(エルモアを直したらエルモアから聞こう。その為だけじゃないけど、早く助けてやらないと。無駄な事を考えている場合じゃないしな)
「じゃあその事はいいから、どうやって砂魚を捕るんだ?」
「感よ」
「感ですね」
「感かいな~」
仕方なく靴を脱いでから砂川に足を入れる。その瞬間見事に砂川に流されていった。大漁に流れる砂に足を取られて、身体が沈んでいく。
「あっ!? ちょ、た、助けて!?」
「はぁ…… 身体をなるべく水平にして砂の流れ逆らわないように元の体勢に戻りなさい」
「で、できな……」
「じゃあそのまま流されて行きなさい…… ラヴ姉。ああいう風にならにように気をつけてね」
「は~い」
「え!? 俺は!?」
「そのままでも掴めるでしょ? 頑張って捕まえなさい」
「マジで!?」
「マジ」
「久々の砂魚取りだね。いけるかな~ えいっ!」
「どうクリちゃん? この辺りいそう?」
「う~ん…… いない訳じゃなさそうだけど…… 多くはないかなぁ……」
「ラヴ姉はなんとなく砂魚の位置分かる?」
「う~ん…… 砂川の流れと違う違和感がいくつかあるねぇ」
「それよ! それ! 流石はラヴ姉! いっちょカマしてやって!」
「あいよ~」
「じゃあ私も行くか…… エルモア? ちょっと待っててね?」
「……ぁぃ」
そのまま下流へと流されながらも、懸命に砂魚を捜索する。雲を掴むような砂魚漁ではあったが、実際掴んでいるのは砂だけだった。幸い砂底に沈む事はなく、砂の勢いに沈み込んだり浮かんだりしながら拳を握るコト数百回。
(結構流されたけど…… 一向に砂魚は見つからない…… はぁ……)
一度川辺に上がって元の位置に戻ろうと考えた時に、あるモノが目に入った。それは砂川の流れを分散している中央にあった岩だ。その岩は流れに対してくぼんでいる所があり、そこに俺の見知った花が砂の流れに舞うようにして存在していた。
(ちょっと、くすんじゃってるけどタンポポだよな?)
その窪みから花が出そうになると、砂川の流れのせいなのか、また窪みへと戻る。ぐるぐるとグルグルと回り続けては、黄色い己の身をくすませているようにも見えた。
(何も捕れませんでしたとは言いづらいから、これ持って帰ろう……)
タンポポの花をポケットに入れて、川辺に上がる。スーツに付いた砂を払うようにするが、中々綺麗にはならない。エルモアを助けると意気込んでた割には、全く役に立っていないという事実を胸に秘めて砂川の上流へ向かうように歩いていく。