第95話 エルモアを救おう! その2
「特効薬を探した伝説のエルフ達の記録はないのか? 場所が分かれば……」
「それがどうにも正式な記録がないのよ……」
「どうして彼女達は後世に記録を残そうとしなかったんだ?」
「……彼女らは口伝で継承する事は許されたみたいというのが、もっぱらの考えね。後々の者が口伝で聞いた事を物語の一部とするなどして、後世に記録として残していった。そしてそれを私たちが見てるという訳」
「口伝のみ……? 許される……?」
「……この世界を統治しているのは誰?」
「……女王様」
「そう。自分が女王様の立場だったら行き過ぎた魔法学をどう思う?」
「……世界を新たに構築出来るレベルまで来てたら危惧するとは思う」
「そうね」
「もしかして!? この究極五月病は!?」
「……一応そこまでにしておきなさい」
「……分かった」
「同じような結論に行き着いたエルフは大勢いたわ。それこそ女王様に楯突くような発言や考えを広めた者もいるわ」
「……例の壺に入れられたか?」
「いえ…… その件に関してはそういった記録は残ってないのよ…… まぁ状況が状況だから、行方不明者に構ってられなかったって可能性もあるかもだけど……」
「記憶や記録を封じたか…… もしくはその行動自体を認めていた……?」
「私もそう思うの。けど念には念をいれるわ。いまここで女王様に楯突いて連れ去られる訳にはいかないから」
「そうだな。余計な考えをするより幼獣ポポタンの居場所だ。伝説のエルフ達が他の国へ行ったって話だから、精霊の国には存在しないのか?」
「もともといなかったって説は多いのよ。そして見つけたのはアドリード王国という事」
「「 えっ!? 」」
「そしてその情報を聞いたのは、商の国ギルディアンにある広大な砂漠のオアシスに住む民族との事ね」
「王都アドリアから逃げてきたのに…… もう一度入国する事が出来るののか……?」
「なら北方のバーストナードから入港するさね」
「今、アドリード王国に幼獣ポポタンがいる保証はないわ。それに、どうやら周期的に住む場所を変えているという説もあるの。どれもこれも正式な記録じゃないのが悩みの種ね……」
「じゃあこの四大陸を巡っている可能性もあるのか……」
「ねぇネッピー? もし幼獣ポポタンが住んでいなくても、住んでいた場所にお花が生えてる可能性はないかな?」
「そうね……確かに…… なら、この精霊の国にあるポポタンの巣があるかどうか。あれば巣を見に行く…… 決まったわね」
「よし。なら情報収集だな」
「一度、都に行って情報を集める?」
「手分けするかい?」
「そうね…… どうしようかしら……」
「ネピア」
「なに」
「もう一度、不思議な森一丁目の館長さんを探さないか? 彼女なら知っている事も多いと思う」
「……こんなに近くにあるのにすっかり忘れてたわ。冷静にならなきゃいけないのに、タローの事とやかく言えた義理じゃないわね」
「そんな事ないぞネピア。頼りにしてるし、俺も頼られたい」
「そうね。気持ちを切り替えて探しましょう」
「行こう」
「職員専用の部屋にいるかもね」
「そうさね。さっきはあたし達が入れる所しか見てまわらなかったからね」
エルモアを連れて行こうとしていた所、ネピアに止められる。大切な姉妹だからとキッパリ言われて引き下がる事に。そのネピアはエルモアをおんぶして俺の先へと歩いて行く。
「すいませ~ん!」
「……」
「すいませ~ん!!!」
「……」
「……反応がないな」
「失礼かもだけど、勝手に入りましょう。緊急事態だしね」
「あぁ」
「ん~? (すんすん!すんすん!)」
「どうしたのラヴ?」
「いんやぁ~? 何か……(すんすん!すんすん!)いい匂いが……」
「え……? 匂いなんてする……?」
「私にも分からないわね…… ん……? けど……話し声……?」
「話し声なんて聞こえないぞ……?」
「……確かに話し声なのかな? かすかに空気の振動が……」
ラヴ姉さんと同じ方向に進んでいくネピアとクリちゃん。ラヴ姉さんは鼻が優れていているのか。そしてエルフの特徴である尖った耳には聞こえる何かがあるのか。その二つも持っていない社会派紳士は彼女達の後ろを付いて行くだけであった。
「いい匂~い!(すんすん!すんすん!)」
「なんだか楽しそうな声が聞こえてくるわね……」
「内容までは分からないけど、そうだね……」
「……」
(人間としての限界を感じる…… だがラヴ姉さんも同じく人間……)
「お腹減ったぁーーー!?(ダッ!)」
「ちょ、ラヴ姉!?」
「まってラヴ!?」
「……」
(犬だな……)
追い掛けるように迷路のような通路を右へ左へ駆けていると、光が漏れ出している一つの部屋が見つかる。そこに飛び込むラヴ姉さん。
「飯くれ~!」
「「「 !? 」」」
「ど、どうしてここが……?」
「よく迷わずここに来れたな……」
「ま~ 来ちゃったモンはしかたないね! 食べてくか~?」
「うん! 私! 食べる!」
「よしよし。素直な娘には飯をくれてやろうぞ」
「やったぁ~!」
「あ、すいません突然…… 宴の最中に……」
「どうしました? あ…… エルモアさん?」
「実は……」
事のあらましを告げるネピア。俺はラヴ姉さんのように飯を食う気にはなれなかったが、男クルーの一人が事情を聞いたところ「なら無理にでも腹に入れとけ」と飯を渡されて食事に至る。
「……どうやら、どうしても邪魔をしたい勢力があるみたいですね」
「勢力……?」
「気になるでしょうが、気にしないで下さい」
「は、はぁ」
「私も気になるわね。どういう事?」
「……」
「……」
(これから話を聞く相手にはしちゃいけない目をしているネピア…… エルモアの事だから冷静になれてないのは同じか……)
「気にしないで下さい」
「……」
「……と言っても難しいでしょうね。あなた達がここに来て成長し、魔法具を手に入れた事が気に入らない存在がいるという事ですよ」
「……それは誰?」
「世の中には知らない方がよい情報もあります。そして知った所でどうする事も出来ない事もあります」
「……それを判断するのは私よ」
「……話すのを判断するのも私ですね」
「……」
「……」
(正直恐いです二人とも)
「ネピア。最優先事項はなんだ?」
「……悪かったわよ。エルモアを助けたいの。まずは幼獣ポポタンの住処は精霊の国には存在するのかを知りたい」
「ありますよ」
「……特効薬となる花もある?」
「はい」
「本当か!?」
「はい」
「何処に!?」
「それはお教え出来ません」
「そんな……」
「……あんた」
「なんでしょうか?」
(おいおい喧嘩は止めてくれよ……?)
「教えられないけど、魔方陣は展開出来る?」
「はい。もちろんですよ」
「?」
「情報としては無理?」
「はい。そういう決まりですから」
「さっきの話も?」
「そうです」
「なら話せる所までで構わないわ。フルオンに巣くう勢力が一つ、ギャングスタのFー13。私たちという邪魔者がいない間に、彼ら以外の勢力がフルオンに目を付ける。その組織はギャングスタではなく地下に潜ったマフィア化した勢力。その勢力が通勤快速の奴らを解放し、そそのかした。そうしてこの状況になる」
「……」
「……と言うのが建前というか、使役されている事に気がつかない、哀れな者達の現場レベルの話ね。そしてそれに私たちも一枚噛んでしまっている」
「……」
「だけど事実はその現場レベルを遙かに超えている事柄…… 確かにそれを知った所でどうする事も出来ない事もしれないわね」
「……やはりネピアさんに彼をお任せして良かったです」
「「 彼っ!? 」」
「……」
「……気にしないで下さい」
「……」
「……」
「……」
嬉しそうなラヴ姉さんと、何かを妄想するような瞳を持つクリちゃん。いつもなら不審者を見るような蔑む目つきで見下してくるネピアは参戦せず、ジッとレイカさんを見続けていた。そして俺は靄がかった頭の中から一つの記憶を釣り上げる事に成功する。