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第92話  アミューズメントしよう! その11



「……どうです?」

「……あぁ。エルモアの魔法のおかげでもう大丈夫だよ」

「よかったです」

「助かったよ」


 恥じらいなど存在しなかったのはむしろ俺の方で、散々床の上にのたうち回り派手に己の身体を彼女らに見せつけてしまう。そして温泉に浸かる前の時のように、エルモアに痛みを回復してもらっていた。


(早く服着ないと…… 俺だけ裸なのはバツが悪い……)


「すまん、お待たせ……」

「うんうん」

「なんですか? ラヴ姉さん?」

「かわいいね」

「なっ!?」

「ふんふんふ~ん」


(見られた…… 絶対見られた…… なんで成長しないの……? 成長の温泉なんでしょ……? ヒドいよ…… うぅ……)


「さ、さぁ! プレゼントもらいに行くわよ!」

「そ、そうだね!」

「た、楽しみだなぁ~!」


(絶対心の中で笑っているんだ…… でも彼女達は知らない…… 彼には第二形態がある事を…… ふふっ…… ハハッ……)


 悲しい言い分を自己の中で展開し収束する。全くもって意味も無い思考だと思う方もいるだろうが、俺の精神を安定させる為には大いに有効である。


「この扉の向こうなのか?」

「そのようですね」

「ここまで来たら罠があるって事もないでしょう」

「そうだね」

「あ~ 楽しみ~」


 この成長の温泉の扉のように、なかなか開かないという事は無く、軽く力を入れると扉は奥へと開いていく。その開いた扉から漏れる神々しいまでの光。


「これは!?」

「光が!?」

「膨大な光量ね!?」

「ま、眩しい!」

「見えな~い!」


『あ~ ごめんね~ ライトの光量間違えたわ~』


 館内放送からレイカさんではない女性の声が響き、部屋内の明るさが通常レベルまで落ち着く。


「……伝説の武器でも手に入るかと思う程の明るさだったな」

「ただの操作ミスでしたね」

「ちょっと期待したわ……」

「あっ! でも何か置いてあるよ!?」

「全部もろてくで~!」

「ちょっとラヴ姉!? 全部は駄目よ!?」

「わ~い!」

「……とりあえず行くか」

「はい」


 部屋の中に置かれていたのは箱のようなものが五つ。近づいてみると、それはダンボールの箱だった。


(え……? みかんって表に書いてあるけど……? 段ボールなんてこの世界にあるのか……?)


「やっほー! ゲットー!」

「ラヴ姉? もう開けたの?」

「うん! こりゃ~ いいところの十手だね~ ん~? 魔法十手? どれどれ……(ブン! シャキン!) おわっ!?」


(見た目は十手だが、アクション入れると三段特殊警棒みたいに伸びるのか……)


「すご~いぞ!? 気に入ったぁ! (ブンブン!)」

「じゃあラヴにならって…… これにしようかな私は…… ん…… これは!? 魔法クロスレンチ!? なら私にも使えるハズ! ていっ!?(ブンっ!)」


(大きめの十字レンチをクリちゃんが投げたぁ!? それがブーメランみたいに飛んで!? しかも回転すると魔方陣が浮かび上がるぅ!?)


「(パシッ!) 技術屋の私には最高の武器だね!」

「ちょっと期待しちゃうわね…… じゃあ私はこれに…… こ、これは!? 伝説の魔法士が使っていたとされる魔法杖マジカルロッド!? これなら魔法のロスも最小限になってブーストだって出来るわ!?」


(え……? それ…… ただの木刀だよね? しかもどうやって段ボールの中に入ってたの?)


「女王様…… 精霊達よ…… 我に等しく魔法具を与えん事を…… (ガサゴソ) あっ!? これはっ!? 魔法タクティカルグローブ!? 拳を包み込むグローブに魔法をのせる事により、あらゆる戦術に対応出来るというまさにタクティカルなグローブ!?」


(やべぇ…… 魔法は使えなかったけど…… タクティカルグローブ持ってたわ…… なんで買ったんだろう……)


 各々喜びと合わせて、手に入れた魔法具を一心不乱に使用していた。そして残される一つのダンボール箱。今までの流れから考えると、俺にも何かしらの魔法具が授けられるようだ。期待と不安を胸に秘めてダンボールの中に手を入れる。


(そういや俺にも武器はあるんだよな…… ショートソード・短剣・リボルバー[謎の弾丸六個付き] いったい俺の魔法具はなんだ?)


 しかし残されたダンボールに手を入れても、掴めるのは空気のみ。何回かダンボール内を手で引っかき回すが、手には何もぶつからない。


「え……」

「どしたん?」

「どうしました?」

「ズーキさん?」

「ん~?」

「ない……」

「え?」

「何もない……」

「タロさん。手探りじゃなくてちゃんと見た方がいいですよ?」

「そ、そうだよな」


(そうだ。もしかしたらタクティカルペンみたいに小さい魔法具かもしれん…… オラぁ!?)


 俺は勢いよくダンボールを持ち上げてから、その場でひっくり返した。訪れる静寂。落下音も落下する物体すら無い。


「マジ?」

「……ぷっ」

「ネピア…… ヒドくね……?」

「ご、ごめん…… だって…… くっ…… この流れで…… ぷぷぷ」


(え……? マジで無いの? 今までの行いのせい? 俺…… 簡単にふて腐れちゃう社会派紳士だよ?)


「タロさん。一回下に置いて箱を見た方がいいですよ」

「はい」


(エルモアの言う通りだ…… まずは……)


 俺は一度ダンボールを置いてから、食い入るように中を見つめる。だが、そこにあるのはダンボールの薄茶色い素材だけ。


「……空です」

「くっ…… ここで落としてくるとは……」

「……貰えないの? 俺?」

「そ、そんな事ないと思いますよ!? ズーキさん!?」

「じゃあ何処にあるのクリちゃん?」

「えっ!? そ、その……」

「見せて~ おわっ!? 本当に空だね~」

「……」

「タロさん。ちょっといいですか?」

「……はい」


 エルモアはダンボールの外側を一度眺めてから、中に顔を入れる。そうしてから何もせずこちらへと戻ってくる。


「タロさん」

「……はい」

「この箱の構造ですと、隠れられるスペースがあります。探しても良かったのですが、ご自身で魔法具を見つけた方がいいと思いました」

「え?」

「箱の下の部分が重なっている所がありますから、そこを見てみてはいかがでしょうか?」

「あ…… ダンボールが重なってる所か……」


 希望が一筋差した。だが、ぬか喜びでネピアをこれ以上楽しませる訳にもいかない。俺にも限界はある。


(頼む…… この世界の女王様よ……)


 皆が一つのダンボールを覗き込むようにする。その中心である俺は、ダンボールの底にある重なった部分を観音扉のように左右に開く。まさしく希望という一筋の光が、その魔法具に当たり輝き煌めく。


「タロー!? 良かったじゃない! ちゃんと魔法具あって!」

「よかったですね! タロさん!」

「よかったぁ~!」

「すごい輝いてるぞ~! すご~いぞ~!」

「……」

「……どうしたん?」

「……タロさん?」

「ズーキさん?」

「ん~?」

「……」


 確かに輝いている。そしてダンボールの底の隙間に入る程の大きさでもある。俺はそれを拾い上げ手にする。ご丁寧に首から下げられるように紐が付いてた。そのままご希望通りに首に装着する。


「なかなか似合ってるわよ!」

「格好いいです!」

「アクセサリーにもなっていいと思いますよ!」

「男気と合わせて輝いてるね~!」

「……」

「……どうしたん?」

「……タロさん?」

「ズーキさん?」

「ん~?」


 それは鍵だった。防犯の観点から見ればディンプルキーなどの足下にも及ばない鍵。だがほとんどの人はこの鍵を利用して自宅に入るだろう。一戸建てにも多いだろうが、大多数のマンションによく使用されている鍵と言えば馴染みがあるかもしれない。


(まぁ…… 俺の安アパートの鍵はこれ以下で、便所の鍵以下の防犯レベルだったがな……)


 そのごく一般的な鍵を両親共働きの子供のように首から下げている。鍵っ子ならぬ、鍵付き社会派紳士。俺はそれを大切に撫でるようにして手の中に仕舞うように握った。何故ならそこから悲しみが漏れないようにしたかったからだ。











 いつもご覧頂きの皆様、誠にありがとうございます。以前告知しました通り、土曜日の更新は21時08分頃までに投稿いたします。変わらず一日おきに投稿していきますので、これからもよろしくお願い申し上げます。ブックマークが少しずつ増えて本当に励みになっております。頑張ります。

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