第91話 アミューズメントしよう! その10
「気持ちいいな~」
「気持ちいいですね~」
「でも濁り湯になっちゃたね~ ざんね~ん!」
「……私は安心したわ」
「ネッピーに同意」
俺たちが全員で温泉に入ると適温になり、白い濁り湯と変化した。正直言うと俺も助かったと言える。何せミニグラマーなラヴ姉さんどころか、クリちゃんもラヴ姉さん程ではないが、十分に実っていたからだ。
(今出る訳にはいかない…… もう嫌われたくない…… しかしこの状態で変化しない男はいないだろう……)
どこを見て良いのか分からず、縁に頭を引っかけるようにして天井を見続ける。身体に染み渡るような温泉の湯。そして身体がスッキリとしていくような爽快感。成長しているというより、無駄な部分や身体にある毒が抜けていくような解放感もある。
「気持ちいいですね! タロさん!」
「あ、あぁ…… 本当だな……」
あれ程に離れていた距離感が一気に近づき、不思議な森一丁目に入る前に考えていた、エルモアとピッタリくっつくような距離感で今は温泉に浸かっている。エルモア以外はというと、ラヴ姉さんを除き大分に離れている。特にネピア。
「はぁ~ 染み渡るぅ~ これでお酒あったら最高だね!」
「ラヴに同意」
「そうね~ ここは清酒で一杯ひっかけたいところね~」
すると、ふよふよと漂ってくる木製の小さな小さな小舟。その上には「おめでとうございます」という書き置きと清酒、そして人数分のお猪口があった。
「おわ~ 願いが!? 願いが叶ったぞ~!? わ~い!」
「館長さんからでしょうか?」
「そうかもな…… 色々と気にしててくれたし今までのアトラクションも、より俺たちの仲を取り持ってくれたように感じる」
「そうね~ 本当に色々あったけど、最終的には良かったわね~」
「私はエルちゃんとズーキさんが仲直りしてくれて嬉しいよ」
「ほいほい。飲んで話そ~ どんぞどんぞ~」
そうして珍しくラヴ姉さんが甲斐甲斐しく働く。もしかすると、ラヴ姉さんも気に掛けてくれてたのかもしれない。
「それじゃ……」
「「「「「 かんぱ~い!!!!! 」」」」」
こちらも温泉に負けず劣らず身体に染みこみ、追加の清酒をこれまたラヴ姉さんが泳ぐようにして入れ回る。時折見える豊満な乳房が俺を魅了する。
「タロさん?」
「な、なんだい? エルモア?」
「……タロさん」
「……エルモア」
「タロさん!」
「エルモア!」
久しぶりに意味の無いやり取りをして、気がつくとホッとしている自分がいる。こんな当たり前の対応をするだけで心が温かくなる。だが彼女もまた裸である。どうにもこうにも気になって仕方がない。何せやたら距離が近いのだ。望んでいた結果とは言え状況が状況である為、困惑しているのまた確か。
「いや~ 美味いね~ 今まで色々な人と飲んできたあたしだけど、このメンバーで飲むのが一番美味しいかもね~」
「私もラヴと飲めて嬉しいよ。まさか人間と一緒にお酒を飲める日がくるなんて思ってもみなかったから」
「あたしもクリっちと飲めて嬉しいよ! それにエルフの友達が三人もいるんだ~い! わ~い!」
「ふふっ」
(クリちゃんとラヴ姉さんは本当に仲が良いよな…… エルフと人間でも仲良くなれるんだ……)
「どうしたんですか? タロさん?」
「仲良いなって思ったんだ…… 二人がさ………」
「クリちゃんとラヴさんですか?」
「あぁ。エルフと人間がこんなにも仲良くなれるんだ。種族なんて意識したコトはなかったけど、なんだか安心するよ」
「そうですね」
のんびりと温泉に浸かりながら、清酒を頂くという最高の環境。相変わらずラヴ姉さんとクリちゃんは、互いにお酒を注ぎあい友情を確かめいている。俺とエルモアもさして変わらない状況だ。そんな落ち着いた時間をまったりと過ごしていると、不意に気になるネピアの存在。
(ネピアも飲んでるのか……? あいつ好きな清酒だから注ぎにいってやるか……)
「エルモア?」
「タロさん?」
「ネピアの所に行こう」
「はい!」
そのまま立ち上がりそうになるも、水面が腹の辺りに差し掛かる頃に気がつき、平泳ぎするようにネピアに向かって行く。エルモアは意外に気にしないのか、チラッと見た限りでは普通に歩いて付いてきていた。
「ネピア~」
「な、なによ!?」
「ネピア~」
「エルモアまで!?」
「ネピア飲むぞ~」
「ネピア飲むよ~」
「ちょ、近づかないで!?」
「近づかないとお猪口に清酒を入れられないだろ」
「い、いいわよ! 大丈夫だから!」
「ラヴさんちょっとお酒お借りしますね?」
「あいよ~ん」
「タロさんどうぞどうぞ」
「ありがとう。ネピアどうぞどうぞ」
清酒を持って近づくと、腕で身体を隠すようにしてから口元まで温泉に浸かってしまった。
「乾杯しようぜ」
「近づくなって言ったのに…… もぅ……」
「ネピア。乾杯しよう」
「はぁ…… しょうがないわね……」
諦めたネピアのお猪口に清酒を注ぎ、同じようにエルモアにも注ぐ。最後に自分の分を入れようとした時に、ネピアが俺の分を注いでくれる。
「それじゃ」
「「「 かんぱ~い!!! 」」」
「入れて入れて~」
「ちょっと恥ずかしいけど私も~」
結局五匹ともネピアが陣取っていた隅っこに集まり、同じように乾杯をする。
「「「「「 かんぱ~い!!!!! 」」」」」
「うんまいね~」
「うんまいな~」
「うんまいです」
「まいね~」
「まいよ~」
(幸せを感じる…… 俺の大事な所も落ち着いてきたな……)
そして小舟に載ってきた清酒が無くなる頃に、新たな小舟がゆらゆらと温泉の表面に浮かびながらやってくる。
「追加かなぁ」
「やた! わ~い!」
「……何も置いてないわね」
「……本当だ」
「何かありますよ?」
「……手紙みたい」
小舟の上に載っていたのは一枚の手紙。それをクリちゃんが拾い上げ読み始める。手紙を取る時に一瞬だが無防備になったクリちゃんを見逃さなかった社会派紳士。
(間違いなく大きいと思います)
「え~と…… 清酒を飲んだら温泉からお上がり下さい。プレゼントのご用意が御座いますので、奥の部屋にどうぞ」
「プレゼント?」
「マジ?」
「マジ」
「あたしも貰えるのかな~」
「P・S 成長の温泉ですので、入りすぎると種族を超えた巨大生物へと進化します」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「「「「( バッ!!!! )」」」」
俺を除く女性四匹が、いきなり立ち上がると同時に温泉の外へとダッシュする。恥じらいなど存在しないかのように一目散に逃げ出す。男としての性なのか、好機を見逃さないという悲しい本能に翻弄され罰を受ける事になる。
「ぎゃーーー!? 熱っちーーー!? 熱いっ!? 熱いっ!? 熱ぃーーーっ!?」
そうして温泉からかろうじて退散出来た俺は、茹で蛸のように肌が真っ赤に進化したのであった。そして一番成長して欲しかった部分については、全くもって変化が無い事を、ご指摘という形で知る事になる。