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第89話  アミューズメントしよう! その8



「ねぇ……」

「……」

「ちょっと大丈夫?」

「……」

「……ほら。水でも飲んだら?」

「……」

「……さっきも言ったけど私だって本当に恥ずかしかったんだから。裸を見られるなんて…… 女の子だけならまだしも…… あんたに…… うぅ……」

「……ごめん」

「……ほら、水分補給は重要よ。タローが言ってたでしょ?」

「……ありがとう(んっんっん)」

「おいしい?」

「……あぁ」

「よかった」


(エルフは辱めの行為を絶対しないってクリちゃんが言ってたもんな…… もしかしたら人間以上に肌を見られるのは嫌なのかもしれない……)


 上映が終わったこの部屋に未だ滞留している俺たち五匹。ネピアの気遣いに深い感謝をすると、ネピアの事を色々と考えてしまう自分がいた。


(もしかすると俺以上に恥ずかしかったかもしれないのに…… 俺の事を心配してくれているんだ…… それに今までの事だってあるのに…… ネピア……)


「……ネピア」

「ん? なに?」

「その……」

「どうしたの?」

「……今までごめんな。俺が悪かったよ」

「……いいわ。分かってくれたのならそれでいいから」

「けど……」

「タローの突飛な所をクローズアップしただけでしょ? そ、その…… 良い所だっていっぱいあるじゃない…… ね……?」

「ネピア……」


 俺は感動していた。感動という言葉のくくりで済ませたくもなかった。魂まで染みこむ程の優しさに今触れているのだ。同じ事があったら彼女のように許せるのだろうか。俺のように心の器がコンタクトレンズ程の大きさでは、涙すらも数滴でこぼれてしまうかもしれない。


「……みんなごめん」

「ん~? ごめんな事はないさ~」

「ちょ、ちょっとビックリしちゃいましたけど、ネッピーの言っている通り、切り取られた一部分ですから…… だ、大丈夫ですよ?」

「……私は絶対負けたりなんかしない」


(もうエルモアとは距離とかのレベルじゃない…… しかし自分が蒔いた種……)


「……姉さんも意固地な所があるから、今は気にしないで? ね?」

「……けど」

「任せなさいっていったでしょ? 大丈夫よ」

「……うん」

「さぁ、行きましょう」

「あぁ」

「(なんだかネッピー格好いいね?)」

「(う~ん。これは乙女の波動を感じるね~)」

「(えっ!? やっぱりネッピーは!?)」

「(しかしエルっちの事があるから突き進めない…… しかし、その事があるからこそ今の状態…… う~ん! とてもいい! ラヴ姉さん! 正直楽しい!)」


 扉から通路へ出ると、館長のレイカさんが迎え出る。申し訳なさそうな顔をしつつ、次の場所へと案内する。


「それでは最後のアトラクションです」

「え~ 終わり~?」

「はい。でも十分に仕上がってきていますよ?」

「ふ~ん?」

「じゃあ五百クイーンね」

「ありがとうございます。それではどうぞごゆっくり……」

「え? 案内はもう終了ですか?」

「はい。もうこれで終了です。それでは……」

「……再放送オンデマンドの間はあれだけど、世話になったわ」

「はい。こちらこそ。ちゃんと能力は上がりますから安心して下さいね?」

「それはなにより。これで上がらなかったら、ここの存在と記憶を消したい位だわ……」

「ふふっ。やはりあなた達で正解ですね。その方をよろしくお願いいたします。ネピアさんなら任せられます」

「タローの事? ……やっぱり知り合いなの?」

「気になります?」

「べ、別に……」

「……俺は覚えてないんだけど、申し訳ない。世話になりました」

「いえいえ。当然ですよ。お気になさらず皆さんを大事にしてあげて下さいね?」

「……はい」

「……喧嘩しても何しても、ずっと一緒にいる事です。それを忘れると嫌な時に逃げてしまいますよ?」

「……はい」

「それと、エルモアさん?」

「はい」

「純粋で素直ですね。だからこそ、自分が思っていた気持ちを裏切られてしまったら悲しいですよね」

「……はい」

「あまり深く考えず、動物に噛まれたとでも思ってる方が気楽ですよ? 初めてその名を聞いたときの事を思い出してみるといいかもしれませんね?」

「はい」

「クリネックスさん?」

「はい」

「とてもいいですよ。気がついていないかもしれませんが、中心的存在になっています」

「え? わたし?」

「クリネックスさんを介して中和されている事も多いと思います。癒やしの存在ですね」

「は、はぁ」

「ラヴさん?」

「あいよ~」

「純愛は押しつけるものではありません。与え合うものです」

「ほう……」

「そうは言っても自分の信念を曲げる必要はありません。ですが、どうか止める前に一呼吸おいて下さいね?」

「……そんな言われ方をしたら断れないね。あい分かった。まかせときな!」

「何気に心配でしたので…… それではいつかまた…… この世界、この世代ではなくてもお逢いしましょう」


 俺たちの別れの言葉を聞く前に、そこに存在していなかったのように消えてゆく。感傷的な気分になりそうになるも、奥から聞こえてくるのは彼女と仲間の声。


「お役目無事終了~!」

「よくやったぁ!」

「よっし! 俺も安堵したよ~」

「あたしはあんま役に立たなかったけどね~」

「でも照明とか切り替えてくれたでしょ?」

「マネマネの間で身体張った奴に比べれば無いに等しい仕事さ」

「まぁまぁ。とりあえずOKレベルなんだろ? あとは最後か……」

「ま、大丈夫でしょ。祝杯あげましょ!」

「じゃあみんな行こうか!」

「「 お~! 」」


 そんな声を聞きながら俺たち五匹は、最後の扉の前に佇んでいる。各々、館長のレイカさんから聞いた言葉を思い返しているに違いない。


「じゃあ開けようか」

「そうだね」

「色々あったけど最後だね」

「なんだろ~ね?」

「……」


 ネピアが最後の扉を開ける為に扉に手を掛ける。何回か試していたが開かない。まるで鍵でもかかっているかのようだ。


「こんのぉ~ 開きやがれぇ~」


 一度レイカさんに声を掛けて鍵の有無を確認しようかと思ったが、ネピアはお構いなしに力を入れ続ける。


「こんのぉーーーエルフをなめんじゃないわよぉーーーーーー!!!!!!」


 一度扉から後退し、肩から身体ごと全速力で扉に当て込む。するとネピアの力に押し負けた大きな扉が内側に開き、勢いの止まらないネピアは部屋の奥へと消えてしmった。


「おわっーーーっ ぎゃふっ! ぎゃーーー!? あちちちちちちぃーーーー!?」


「おい!? 大丈夫かネピア!?」

「ネピア!?」

「ネッピー!?」

「ネピアっち!?」


 皆で同時にスタートしたように部屋へと滑り込む。白い蒸気と合わせて現れたのは大きな温泉だった。


「あぁ~ 熱ぃ~ 肩も痛ぃ~ あぁ~」

「大丈夫? ネピア? ほら」

「あぁ~ 効くねぇ~ エルモアのは効くねぇ~」


 いつも通りになるのか、エルモアの魔法により受けた痛みを緩和しているネピア。ずぶ濡れになったネピアを見ると、勢い余ってこの温泉に飛び込んでしまったようだ。


「ネピア大丈夫か?」

「ネッピー大丈夫?」

「ネピアっち大丈夫か~い?」

「……正直驚いたのは事実ね。熱さでショック死するかと思ったわ」

「そんなに熱いのか……」

「……熱湯レベルではないけど、相当な熱さね」

「入れない温泉?」

「いんや~ これ、入るみたいだよ? ほれ」


 温泉の手前に立ててあった小さい看板。それには「成長の湯」と書かれていた。そして注意書きには、服を着て入らないで下さい。パーティー全員で仲良くお入り下さい。以上二つの条件を満たしますと適温になります。と記載があった。


「……もしかして」

「これに入らないと……」

「……能力は」

「あがらないんじゃないのかな~」

「……」


(え…… みんなで……? 俺は……? どうすれば……?)


 ここに来る前なら飛び跳ねて喜んでいた案件だったが、紳士としての条件が崩れ去った今、むしろ苦行に近いイベントとも言える。


(おいおい。どうやって入るんだよ…… みんなで? 一緒に? さっきあれ程に不審がられていたのに? 無理だろ…… マジかよ……)


 快楽が絶望に変わる瞬間が一番恐いのではないだろうか。行き過ぎた食欲・性欲は破滅だ。死ぬまで食べ続ける。死ぬまで行為し続ける。唯一救いなのは睡眠欲か。寝れなくても無理に寝ようとしても寝れないモノは寝れない。ただそれだけだ。


 そんなコトを考えていても、能力を上げに来た事実は変わらない。そしてそれは皆で温泉に浸からないと、享受出来ない仕組みになっている。そしてその享受の問題点になっているのは、俺というたった一人の人間だった。











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